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終身雇用が怖い? インドネシア大学の学生から見た「就業先としての日本」とは

2019年8月21日、ASIAtoJAPANはセミナーを開催。「インドネシアの学生は日本企業をどう見ているのか?」をテーマに、インドネシア大学(University of Indonesia/UI)人文科学部日本学科の講師、ヒマワン先生にお話をいただいた。後編では、インドネシアNo.1の大学である、インドネシア大学の日本語学科の学生へのアンケート結果から、「インドネシア学生から見た、就業先としての日本」について紹介する。

 

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1849年に設立されたインドネシア大学の学生数は約4万6000人。13の学部と大学院、専門学校で成り立つ。人文科学部日本語学科には256名、大学院日本語地域研究科には27名の学生が所属し、他に研究機関として1995年に設立された日本語研究センターがある。

 

同大学の人文科学部日本語学科の学生へのアンケート結果によると、71%が入学前から日本語を学習した経験があり、同学部を選んだ理由としては「日本文化に興味がある」「日本社会と交流したい」「就職に有利」が代表的。大学卒業後の希望の進路については、17%の学生が日系企業での就職を希望している。

 

インドネシア大学日本語学科の学生の大学卒業後の希望進路

 

では、学生たちは日本企業にどのようなイメージを抱いているのだろうか。ポジティブなイメージとネガティブなイメージを尋ねると、それぞれ次のような声が多く上がった。

 

【ポジティブなイメージ】

企業文化:規律正しい、集団意識が高い、目的志向、仕事に懇親的、完璧主義
生産品・サービス:ハイクオリティ
働く環境:新入社員に優しい、やりがいのある仕事、
評判:安定、インドネシア文化との親近感

 

【ネガティブなイメージ】

企業文化:「厳しい」(上下関係、長時間労働、残業が多い)
働く環境:「疲れる」、出世しにくい
評判:入社するのが難しい、人手不足

 

インドネシア大学日本語学科の学生の日本企業へのイメージ

 

「日本にある日本企業で働く自分を想像できるか」という問いに対しては、56%の学生が「はい」と回答している。一方で「インドネシアにある日系企業で働く自分を想像できるか」という問いでは「はい」と答えた学生が74%と、2割近く増える結果となった。それぞれの「はい/いいえ」の回答理由は以下の通り。

 

インドネシア大学日本語学科の学生の日本企業へのイメージ

インドネシア大学日本語学科の学生の日本企業へのイメージ

 

終身雇用や残業への抵抗感は、仕事への考え方の違いがベースにある。インドネシアでは仕事は家族のための活動という意識が強く、「人生を会社に捧げることへの恐怖心がある」とヒマワン先生。日本でも働き方改革が各社で進み、終身雇用への考え方も変わってきている。「1社で一生勤める」ことは現実的ではなくなりつつあるが、そういった変化はまだインドネシア国内には伝わっていない。日本企業としてもそうした変化をアピールする必要がありそうだ。

 

1990年代まではインドネシアにとって日本は遠い存在で、文献で目にするだけで文化交流が少なく、いわば「教科書の中の存在だった」という。また、「戦時中に日本から侵略されたという劣等感もあって、“Learning from Japan”の意識が強かった」とヒマワン先生は振り返る。だが、2000年代以降はグローバル化の影響もあり、「日本は特殊な国」という見方から、「日本も世界の国の中の一部」という意識に変わりつつあり、身近な存在になってきている。

 

とはいえ、まだまだ「日本は特殊な国」という印象も根強く、ゆえに「インドネシアとは違うことがたくさんあるという先入観にも繋がってしまっている」とヒマワン先生。学生たちの日系企業に関する情報源は、大学が34%、日系企業での就労経験者が27%と、両者が半数以上を占める。

 

だからこそ「大学の責任は大きい」とした上で、日本への短期留学プログラムを用意するなどして、日本に対する理解を深めていきたい考えだ。一方で日本企業に対しても、「特殊性を強調しないでほしい」と呼びかけた。

 

「”Made in Japan”などのアピールが目立ちますが、それは時に『日本は特殊である』というアピールにもつながります。また、外国人が日本で働くにあたって『日本語が壁になる』『生活の違いが大変』といったことも強調しないでほしいと思っています。確かに日本語はインドネシア人にとって難しいですし、インドネシアは8割以上がイスラム教徒ですから、豚肉やアルコールが禁止されていたり、女性はベールをかぶる必要があったりしますので、日本での生活も不安です。私自身も日本に来る前まで怖かったですけど、実際に日本で生活してみたら大丈夫でした。だから、あまり壁を感じさせるようなことを過度に発信しないでいただけるとうれしいです。あくまでも日本は世界の国の中の一つであり、インドネシアとの共通点もたくさんあることをアピールしていただくことが大事だと思います」

 

ヒマワン先生が講師を務めるインドネシア大学では、2018年から「Study Go Work JAPAN 日本語授業」の取り組みを新たにスタート。コンピュータサイエンス学部の学生を対象とし、日本語研究センターが学生たちへ無料で日本語を教えている。日本語を学んだことがない学生がほとんどだが、採用を目標にまずは就職活動で必要な基本のコミュニケーション力を身に付けることを目指す。日本語学習以外に日本人との交流や文化体験の機会も用意しており、京都大学の日本人学生を招いて交流したり、書道やたこ焼き作りをしたりと、日本への理解も同時に深めている。

 

海外大学に無償で提供する「Study Go Work JAPAN 日本語授業」には現時点で59名の学生が参加しており、そのうち10名がすでに「Study Go Work JAPAN 面接会」に参加し、2名が内定を得ている。入社までに日本語力を伸ばせるよう、同大学では内定後も継続して日本語を学べる機会を提供する予定だ。

 

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