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【1】世界に先駆けて「コロナ禍」を克服~米国超え目指す中国(1/3)~[寄稿]湯浅健司氏

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米国超え目指す中国〜日本は「敵対」よりビジネス相手としての付き合いを〜

 

「ポスト・コロナ」において、中国の経済事情はどう変化するのか。日本企業が、中国の優秀な学生を獲得するチャンスはあるのか。
日本経済研究センター首席研究員であり、中国研究室長でもある、湯浅健司氏に寄稿いただきました。

 


(寄稿者)
湯浅健司 氏(日本経済研究センター 首席研究員)
詳しいご紹介は日本経済研究センター

 


新型コロナウイルスの感染が世界で最初に広がった中国は今、世界で最初にその影響から脱し、経済再建の道を突き進んでいる。最高指導者である習近平・共産党総書記は強大な権力をふるって国家をさらに発展させ、米国との覇権争いを勝ち抜く構えだ。経済規模では今後、10年以内に米国を追い抜く可能性も出てきた。そんな中国と私たちはどう向き合っていけば、いいのだろうか。

 


 

【1】世界に先駆けて「コロナ禍」を克服

2020年から21年にかけての中国経済は、まるでジェットコースターのような動きを見せた。新型コロナの感染拡大直後、20年1~3月期の国内総生産(GDP)は実質ベースで前年同期比6.8%減少となった。1970年代、社会が大混乱した文化大革命が終結した後、中国は右肩上がりの成長を続けてきた。それが突然、マイナス成長に転落したのだ。

 

しかし、4月以降、急速に立ち直り、4~6月期からⅤ字型回復に成功。今日まで着実に回復し続けている。日本は東京五輪という一大イベントが控えるにもかかわらず、一向に経済に明るさが見えない。欧米やアジアの新興国などに比べても、なぜ、中国がいち早く経済を巡航速度に戻すことができたのか。

 

最大の要因は強力な国家の指導の下、新型コロナの封じ込めに成功したことにある。震源地、湖北省武漢市の長期に及ぶ都市封鎖だけでなく、北京市や上海市など他の大都市でも市民の外出を制限したり、健康状態を逐一監視する追跡アプリ「健康コード」の利用を強制したりした。一連の取り組みが奏功し、2020年5月22日には全国の新規感染者数がゼロとなり、経済活動が平常化に向かった。その後、局地的に新規感染者が発生したが、当局はその都度、都市封鎖と大規模なPCR検査を繰り返し、陽性患者の隔離を徹底させて新たな感染拡大を抑えてきた。

 

2021年に入っても、輸出が牽引役となり、経済は順調に伸びている。20年の反動もあり、21年通年では過去5年間より高めの成長率となることは間違いない。内外の主要機関の予測を見ると、国際通貨基金(IMF)が21年4月時点で「8.4%」とするなど、多くは8%前後としている。中国政府は21年の成長率目標を「6%以上」と定めているが、これは控えめな数字であり、実際は目標を上回ることは間違いない。

 

習近平総書記は「コロナとの戦いの勝利」という追い風を受け、新たな成長戦略を描く。昨年秋には2035年を目標とした長期戦略を策定し、「35年に1人当たりの国内総生産(GDP)を中等先進国並みにする」という目標を掲げた。

中国は10年を超す長期目標のほか、必ず5年単位で国家の発展計画を設ける。2021年から始まった第14次5カ年計画(21~25年)では、「先進国入り」を謳ったこの長期目標を達成するための具体的な施策が盛り込まれた。例えば、社会全体の研究開発費を年平均7%以上増やすことを明記した。対米関係の弱点とされる半導体分野では材料や製造設備の技術開発に注力するなど、「技術開発の攻防戦に打ち勝つ」としている。

 

5カ年計画、あるいは長期計画は、ともに厳しく対立する米国との長期戦を前提としている。長期戦に勝つため、習氏は、国内の経済循環を主としつつ、海外からは高い技術力や資本を吸収してそこにリンクさせるという、「双循環」戦略を提唱する。米国との対立が激しくなるあまり、習氏はこれまでの改革開放路線を修正するのでは、といった見方もあるが、この「双循環」戦略は、今後も日本などと引き続き連携する開放路線に変更はないことを示している。

 

(NEXT)【2】2029年にも米国を超える経済規模に

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