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シスメックス株式会社
人事部人事課のイアン・ロジャース氏、井谷苗未氏にお話をうかがった。(※内容は2020年発売の弊社書籍より抜粋)

目次

外国人材の採用に取り組み始めたのはいつ頃ですか。

イアン:本格的に外国人材の採用を始めたのは2011年からです。それまでも国内で留学生を中心とした海外人材の採用は実施していましたが、2011年にインド工科大学のキャリアセンターが海外でのインターンシップを積極化し、人材エージェントとともに当社が参戦したのが海外採用を本格化していくきっかけになりました。

海外大学から直接外国人材を採用した経験がなかったため、学生へのアプローチ方法や面接などのアレンジを人材エージェントにサポートしてもらうことで海外採用のノウハウを蓄えることができました。初めて外国人材の採用をするのであれば、人材エージェントを活用するのは非常に有効だと思います。

ただ、人材エージェントを使っている中で学生とのコミュニケーションに課題を感じていました。人材エージェントを間に挟むことで、学生とのコミュニケーションが間接的になるだけでなく、当社のメッセージや想いがダイレクトに伝わらない状況が発生していました。そこで学生との接点を増やし、会社の理念や学生に期待することなどを明確に伝えることを目的に、キャリアセンターに直接アプローチするようになりました。大学からは非常にポジティブな反響があり、キャリアセンターの職員や教授とのやりとりが増えた結果、当社と学生との信頼関係も強化されたように思います。

 

海外で採用した外国人材も、最初は日本で働くことになるのでしょうか。

井谷:はい。各地域に関係販社や現地法人がありますが、本社機能は日本にあり、新卒者はまず日本で働いてもらっています。スキル習得後に、研究開発、マーケティング、薬事など、分野や専門性を問わず海外でも活躍いただいています。

 

日本語力についてはどの程度重視していますか。

井谷:日本語は必須ではありません。例年ですと外国人材は10月に入社することが多いのですが、日本語が話せない方には入社3か月前からウェブを用いた日本語研修を受講いただいています。また、入社1か月前に来日していただき、Face to Faceの日本語研修に参加してもらっています。その間に最低限の日本語を覚えてもらうとともに、日本の生活にも慣れて安心して働けるようにサポートしています。

日本語力は必須ではありませんが、やはり日本語ができれば仕事の幅は広がりますので、入社後も継続して日本語学習のサポートを実施しています。

 

日本人と外国人材の採用には、どのような違いがありますか。

井谷:やはり外国人材の場合はカルチャーや宗教の面で日本人との違いが大きいですから、日本への理解があるか、そして日本の環境に適応できそうかという点はみています。たとえば複数の国で生活してさまざまな文化を吸収した経験や、親元を離れて生活したことがあるかといったポイントから、日本でもやっていけそうかということは判断しています。

イアン:とはいえ、そこはポジションにもよります。たとえばAIやICTなどのハイレベルなスキルをもつスペシャリストであれば、カルチャーの違いはあまり仕事に影響しません。当社で働く理由がきちんとあって、会社のカルチャーにフィットしそうな人であれば、日本への理解があまりなさそうな人でも採用することはあります。

井谷:ほかには、学生へのフィードバックを手厚く心がける、というところは当社の海外採用の売りだと感じています。国内採用に比べて応募者の数が少ないのと、イアンの人柄があって実現していることだと思います。選考中に学生の皆さんが気になるポイントは“自身の評価”だと思うので、合否がどうであれそこをしっかり伝えてあげることで今後の成長につながると信じています。

イアン:オファーを出す人はもちろん、不採用となった人へのコミュニケーションも同じくらい大切です。きちんと不採用だった理由をフィードバックすることで学生は納得ができ、当社への信頼も増します。その結果、その学生がキャリアセンターや教授、友人に当社の話をしてくれれば人気は高まりますし、翌年の応募者も増えます。自社の評価を築くためにも、学生と直接コミュニケーションをとることは重要だと思います。

 

外国人材を採用するうえで、課題だと思っていることはありますか。

イアン:スキルと定着のバランスですね。ハイレベルな人材は即戦力で活躍してもらえるけれど、数年で辞めてしまうリスクが高い。その一方で、会社のカルチャーに合うし定着もしそうだけれど、2〜3年のトレーニング期間が必要な人もいます。当社が欲しいスキルをもつ人材と、定着率のバランスをどうとっていくのか非常に難しいところです。

井谷:外国人材は1〜2年で結果を残したら別の会社や国に行ってスキルを高めるという考えの方が多いです。すぐに結果を求め、キャリアに直結すること以外はあまり興味を示さないことがあります。スキルがあって成果を出せるのであればそれでもかまいませんが、大半はそうではありません。業務の進め方についてのレクチャーやOJTが必要となるのですが、それらの必要性を理解させるのに苦労します。

イアン:入社後もチームのメンバーや上司が変わった場合の適応が日本人と比べて難しいことがあります。数年に一度大きな組織変更があることが多いのですが、新しい上司が日本語しか話せず、戸惑いを感じるケースもありますね。

 

外国人材の定着のために、何か工夫していることはありますか。

井谷:全社掲示板や社内規程、一部の研修内容の英語化、食堂でのハラール料理の提供、プレイヤールームの設置などを行っています。また、外国人材に限らずダイバーシティ&インクルージョンの取組みを進めているダイバーシティ推進課を2017年に人事部に設置し、活動内容の一環として外国人社員へのサポートも行っています。

寄せられる相談はさまざまで、税金や年金、退職金、社会保障といった日本のシステムに関するものもあれば、スーツはどこで買えばよいのかといった日常的な相談もあります。また、配属先にもサポートデスクを設定しており、日常業務へのサポートを実施しながら外国人社員が安心して働ける環境づくりをめざしています。

 

最後に、外国人材の採用を行ったことで会社に生じた変化について教えてください。

イアン:3つあって、1つ目は技術面の変化です。日本だけではみつからないようなハイスキル人材を世界中から採用することで、会社全体の技術レベルを引き上げ、当社が成し遂げたい目標により早く到達できるのではないかと期待しています。2つ目は、会社がグローバル化することによる雰囲気の変化です。日本人だけのチームに外国人材が入ることで、メンバーは良い意味でショックを受け、考え方や意識が変わります。私自身、職場がグローバルな思考をするようになってきているのを実感しますし、海外の支社も同様に日本本社の変化を感じているようです。そして3つ目は、異文化理解です。これは最も大きなポイントで、母国と日本の双方のカルチャーを理解しつつ、双方とコミュニケーションがとれる人材は貴重ですので当社にとって大きな助けになっています。

井谷:意識や雰囲気の変化は私も感じていて、外国人材が職場にいることで会社全体が「英語がこれからもっと必須になっていく」というマインドセットになっているように思います。また、海外で行われている採用プロセスを知ることができることもメリットといえます。たとえば海外ではYouTube面接を実施している企業も多く、面接前に動画をみることで、ある程度コミュニケーションスキルや人柄を判断しています。そういったやり方を学べるのは勉強になりますし、国内採用でも取り入れていきたいですね。

イアン:外国人材は会社にさまざまなナレッジを与えてくれます。日本にいる期間が限られていたとしても、その人たちがもたらしたノウハウや知見は、他の社員の財産になります。投資に対するリターンは非常に大きいと思っています。

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