取締役執行役員CTOの中出匠哉氏、人事の井上玲氏にお話をうかがった。
外国人材の採用に取り組み始めたのはいつ頃ですか。
中出:2017年からです。ベトナムに拠点をもつ会社の取締役と当社の福岡拠点の責任者に面識があって、ベトナムのハノイ工科大学で日本語とITを学んでいる学生を採用できる機会があるとご紹介いただいたのがきっかけでした。当時はすでに日本でも新卒採用をしていましたので、良い人材がいたら採用したいと考えて現地へ赴いたところ、優秀な人材が揃っていました。3人くらい採用できればと思っていましたが、想定よりも多く、5人を採用しました。ですから、準備万端で外国人材の採用をスタートしたというよりは、たまたまご縁があって採用を開始したというのが流れです。現在も引き続きハノイ工科大学で採用を行っていて、他に現地に拠点をもっている人材エージェントに依頼し、これまでに韓国、中国、台湾、ホーチミンで採用を行いました。将来的にはアジアに向けてサービスを展開していきたいと考えていますので、アジア各国の出身者がいれば少なからずプラスに働くのではないかと期待しています。
また、アジアの場合は物価の差が優位に働くので、自国で働くよりも高い給与が得られることが良い人材を採用するうえで1つの武器になっています。ベトナムをはじめとしたアジア各国の多くの人にとって、日本で働くことは非常に魅力に映るようです。少なくとも初めてハノイ工科大学の学生を採用したときに、オファーを出した人は全員承諾してくれています。外国人材と一緒に働いてまだ1年程度ですが、総じて優秀です。日本国内でもエンジニア採用をしていますが、日本の上位大学の学生にオファーを出しても断られてしまうこともあるわけで、同じ地頭の良い上位大学の学生を採用するのであれば、海外という選択肢をもつことは利点が大きいと思いました。それにGAFAなどのグローバル企業からもオファーが出るような優秀な人を採用しようと思ったときに、日本だけで採用するのは厳しいとも思います。
採用しているのは IT エンジニアのみですか。
中出:そうですね。現在は従業員約600人中、外国人社員は10人くらいで、海外から採用した人は全員エンジニアです。ビジネスサイドの人とも面接をしたことはあるのですが、日本語力が日本語能力検定(JLPT)のN1程度はないと厳しい印象でした。一方でエンジニアの場合、情報収集は英語ですし、プログラミングコードも日本語は関係ないですから、言葉のハンディキャップが小さいのです。それにエンジニアとひとことでいっても、コミュニケーションが重視されるポジションとテクニカルな部分が重視されるポジションで大きく分けられます。たとえば会計の業務知識をもったメンバーとコミュニケーションをとりながら進める仕事は日本語力や日本の事情を知っている必要がありますが、インフラに近い部分はあまり言語差がありません。ユーザーが増えて扱うデータも増えている中で、レスポンスのスピードを保つことも重要ですから、そのような部分は外国人材の方に活躍してもらいやすいと思っています。とはいえ、日本語で働いてもらうことが前提ではあるので、基本的には最低でもN3程度の日本語力は求めています。
日本人と外国人材で、採用のやり方を変えている部分はありますか。
中出:入社後の配属先になりそうな部署の上長を面接官にアサインしています。外国人材は日本人と比べて日本語のコミュニケーションがとりにくいですから、受け入れ先の上長が納得感をもって「育てよう」と思えることが重要です。実際に面接に参加してもらうことで、覚悟を決めてくれていると感じます。また、採用や受け入れの知見が蓄積される効果もあるように思います。
配属先はどのように決めているのでしょうか。
中出:受容性が飛び抜けて高い人が率いているチームにまずは入れています。外国人材を受け入れるにあたり最適な部署が3つくらいあって、そこで慣れて成長し、日本語も上達してきたら、別のチームに異動するイメージですね。その部署の上長は多少のことでは動じない人たちで、「外国に放り出されてもきっと生きていけるだろうな」と感じさせるタイプなのです。外国人と働いた経験があるとか、英語が堪能といったことも大切だとは思いますが、それ以上に異文化を受け入れられる資質の方が重要な気がします。ある程度クリーンな状態でないとストレスに感じる人もいれば、カオスな状態でも平気な人もいる。そこは向き不向きがあると思っています。今は外国人材が内定者を合わせて30人くらいになったので、今後は外国人の先輩社員と同じチームに入れることでよりフォローがしやすくなるのではないかと期待しています。
ほかに日本人と外国人材の採用で異なる点はありますか。
中出:志望動機は一応聞いていますし、重視したい気持ちもあるのですが、外国人材の場合はそこを追求してもあまり意味はないように思っています。当社のサービスは現時点では海外で使えないですし、類似サービスが自国にないケースもあります。想像できないところはあるでしょうし、当社の理念やプロダクトへの共感が面接時点でないことは仕方がありません。日本で働きたい意思があって、かつ当社が求めているスキルがあることを前提に採用を判断しています。
井上:ほかには、人柄をみていますね。技術力や日本語力はもちろん大事ですが、組織に溶け込めそうなタイプであることも同じくらい重要です。選考を受ける外国人材自身も、技術的な環境に加え、面接時に相対するわれわれの印象で会社の良し悪しを判断しているように思います。国内外、新卒や中途を問わず、面接は相互理解の場です。一方的に話を聞くだけでなく、お互いに質問し合って、その過程でお互いが何らかのギャップを感じたのであれば違う道を選んだほうがよい。そういったスタンスですから当社の面接はラフですし、面接官の服装もカジュアルなので、リラックスしやすい雰囲気をつくれていると思います。それはお互いが人柄や社風を判断するうえでプラスに寄与しているかもしれません。オファーを出した後もオフィスに招待したり、先輩社員とランチの機会を設けたりといったことは意識的に行っています。
日本語教育のサポートはしていますか。
井上:内定を出してから入社するまでの期間は人事が定期的にビデオチャットで日本語の会話をしています。テーマを与えて口頭で説明してもらうようなことを15分程度やっていますね。ただ、こういった取組みも人数が増えてくると回らなくなると思うので、今後は整備が必要だと思います。
中出:入社してからも半年程度は毎日15分、1対1で日本人社員と会話する時間を設けることもしていました。エンジニアはチャットでやりとりすることが多く、日本人同士であってもあまり会話がありません。だからこそハンディキャップが小さい面もあるものの、普通に働いているだけでは会話力は上がらない。そういった背景からスタートした施策ですが、副次効果として社内コミュニケーションにもプラスの影響がありました。会話相手の募集にはたくさん応募があって、日替わりでさまざまな人が練習相手になってくれています。結果的に外国人社員は社内に知り合いが増えますし、日本人社員も外国人社員を気にかけてくれるようになりました。エンジニア以外の人も週末に食事へ連れて行ってくれていますし、当社の外国人社員はすごく愛されていると思いますね。日本人と比べてすれていないというか、純粋でかわいいのです。
最後に、外国人材の採用を行ったことで会社に生じた変化について教えてください。
中出:日本で働くというチャレンジをしている外国人社員をみて、刺激を受けている人はたくさんいると思います。日本人社員の中には海外で働くというチャレンジを選択肢としてもち始めた人もいるでしょうし、いつか当社がグローバルに出るというメッセージにもなっている気がします。外国人材を採用することが会社の魅力の一つになっていると思います。
外国人社員も自国で働いている友人を紹介してくれて、この会社で働くことをそれなりに気に入ってくれているようです。どうやら入社前の期待値がそんなに高くないようで、入社後に「こんなに至れり尽くせりなのか」と感動してくれている印象です。アジアの外国人材は日本企業がオファーを出したらある程度受けるつもりで面接に来ている人が多いので、そのような意味では選考時の当社の訴求が足りていないのかもしれません(笑)。
今後も外国人材の採用をやらない手はないと思っています。日本人以外も採用するとなった瞬間に候補者はものすごく増える。さらに日本語という条件を外すことができれば選択肢はより広がりますから、今後は社内の英語化も進めたいですね。まずはチーム単位でクローズドにやってみるなど、やり方は検討中ですがチャレンジしたいと思っています。取組みが進んでいけば社内規定や書類関係もすべてバイリンガル対応をする必要があり、バックオフィスには大きな負担をかけてしまいますが、体制を整えて世界中から優秀な人材を採用していきたいですね。