EN

留学生数が減少。 JASSO最新調査の分析と、継続採用を実現するための施策を考える会津大学 草刈氏とWebセミナーを開催しました

目次

ASIAtoJAPANは4月26日、会津大学で日本語教育および留学生就活支援を担当する草刈明美氏を招き、コロナ禍での留学生の実情と留学生採用についてWebセミナーを開催しました。


留学生数が減少。JASSO最新調査の分析と、継続採用を実現するための施策を考える

トークテーマ:

外国人留学生在籍状況の推移と現状について

会津大学から実際に日本企業に就職する留学生の具体例、日本語レベルについて

英語で授業を行う大学のカリキュラム(イングリッシュ・トラック)の実情について

コロナ禍での留学生の状況と、採用において考慮すべき点について

登壇者:

公立大学法人会津大学 グローバル推進本部 国際戦略室 特任准教授 草刈 明美 氏
株式会社ASIA to JAPAN 代表取締役社長 三瓶 雅人

 

【1】2021年コロナ禍での留学生数の推移と実情

2022年3月末に独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)から発表された、「2021(令和3)年度外国人留学生在籍状況調査結果」をもとに、弊社三瓶が留学生の来日状況について解説しました。

三瓶:今回のセミナーでは、JASSOから発表された2021年度外国人留学生在籍状況調査結果を分析していきます。こちらは、2021年5月1日の在校者を集計し、2022年3月末に発表された調査結果です。

2019年から2021年の留学生在籍数

三瓶:まず、コロナ禍での外国人留学生数の推移では、コロナ流行前の2019年に比べて、2021年は約7万人の留学生が減ったという結果です。

具体的に、どのような留学生が減ったのかを掘り下げていきます。JASSOは留学生を次の5つに分類して集計しています。

    1. 大学院
    2. 学部・短期
    3. 専修学校
    4. 準備教育機関
    5. 日本語教育機関

実は2019年比で減少した留学生の半数以上は「日本語教育機関」の留学生であるということが分かります。大学院については、2019年と2021年を比べても1%(330人)程度しか減っていない状況です。

三瓶:次にどの専攻分野の留学生が減っているのか。

留学生が減っているのは人文科学、社会科学、家政、教育など、いわゆる人文系の専攻分野です。

一方で理系の理学、工学、農学、保健の専攻分野ではむしろ、留学生数は増えていることが分かります。

また、国別では全体の3分の1以上を占める中国からの留学生数はマイナス8%に留まっています。減少割合が大きいのはアメリカやフランスなど、2019年の半数以下という状況です。減少人数で見ると、ベトナムからの留学生は2万人以上減っている状況です。

結論としては、留学生全体は減っているが大学生や大学院生はそれほど減っていないというのが実情です。

   

 

【2】コロナ禍での外国人留学生採用の実情と解決策

2022年コロナ禍での外国人留学生の採用を考えたとき、次の2つの実情を認識しておく必要があります。

  • 採用したい企業と採用したい人数が増えている
  • 来日が遅れたため例年と同等の日本語能力を難しい

 

三瓶:留学生の採用という観点では、例年と同じかというとそうではありません。実際は採用したい企業と採用したい人数が増えている状況です。背景としては、コロナ禍で2020年から2021年は例年より採用を減らした、もしくは来日している留学生が少ないので採用を控えたという企業が多く、その分今年こそ留学生を採用したい、採用を増やしたいと考える企業が多いと認識しています。
(中略)
大学への正規留学生は減っていないものの、実は来日できていない方がまだいます。もしくは来日したばかり、4月に来たばかりという方が一定数いるというのが実情です。ですので日本人とキャンパスで会うことや日本語を話す機会が著しく少ないというのが現状。さらに日本に来たばかりの学生はまだ就活はしたくない、日本での生活が始まったばかりということで就活のスタートも遅くなっています。

そのため大学への留学生はあまり減ってはいませんが、例年と同じ日本語力を求めてしまうと採用難易度はかなり上がってしまいます。日本語力が向上していない、さらに日本にいないので日常的に日本語を使う環境にないという学生が一定数いるので、例年よりも日本語力が厳しい学生が多いというのが実情です。

 

このような状況を考慮して、どうすればよいのか? できる対策は次の3つです。

  1. 採用要件はそのまま、求める日本語力を緩和し内定期間中に講座受講などを通して日本語力を身につけてもらう
  2. 留学生は秋に再度募集する
  3. 海外で日本語を勉強している学生に目を向ける

 

弊社ASIAtoJAPANでは初期費用無料で留学生、海外生採用のイベントを毎月開催していますので、ぜひご相談ください。

【3】英語で授業を行うイングリッシュ・トラックに所属する外国人留学生の日本語学習の実態

昨今、英語のみで授業を行う「イングリッシュ・トラック」を提供する大学が増加しています。ではそこに所属する外国人留学生の日本語レベルはどれほどなのでしょうか? イングリッシュ・トラックの留学生に日本語を教える会津大学 草刈氏に日本語学習の実情を伺いました。

会津大学は、コンピューター理工学に特化した単科大学です。1,307名の学生のうち13%に相当する168名が留学生で、留学生は英語で研究や授業を受けています。コンピュータ分野の高い能力をもつ学生たちは、AI、ロボット、IoT、ビッグデータなど自らの専門性を活かした分野で活躍しています。

草刈氏は20年以上日本語教育に従事しており、日本語学校や専門学校での指導を経て、現在会津大学で外国人留学生向けに日本語を指導しています。イングリッシュ・トラックそして研究で忙しい会津大学の学生たちに日本語を教える中で感じた、学生の日本語学習を続ける難しさや学生のポテンシャルの高さについて解説いただきました。

日本企業が求める留学生の日本語レベル

草刈氏:留学生の日本語能力をはかる試験として一般的なのがJLPT(日本語能力試験)です。N5が一番やさしくN1が一番難しいレベルです。(中略)N1までの学習目安時間は1000時間、一方で会津大学の日本語学習時間はN5の学習目安時間200時間にも満たない175時間だけです。これは学部生の日本語学習時間であり、大学院生は0時間です。
イングリッシュ・トラックでは、すべての授業は英語で行われ、生活面での困りごとなども英語対応が十分なため、会津大の留学生は日本語が一切分からなくてもキャンパス内で困ることはありません。
しかし、留学生が日本企業への就職を希望する場合、多くの企業ではN1またはN2以上という条件を出されます。

イングリッシュ・トラックは日本語という言葉の壁なく専門的な研究や学習ができることが魅力である一方で、日本企業は一定水準以上の日本語能力を求める実態があります。

実際に会津大学2022年卒、2023年卒予定の内定者のうち、日本語能力がN1以上の学生は半数以下となっています。
国内でエンジニア不足が叫ばれる一方で、日本での就職には高度な専門性だけではなく、最低でも日常会話レベルの日本語能力が求められるケースも多いと感じています。

イングリッシュ・トラックでの日本語教育の実態

草刈氏:会津大学では日本企業へ就職したい学生のために、少なくとも週に2回は同じレベルの日本語クラスが受けられるようになっています。しかし、留学生の学習のメインはコンピューターなので、開講されている日本語クラスとコンピュータークラスがバッティングして受講できない場合もあります。院生の場合は学会発表などが近づくと研究に集中するため、日本語学習が後回しになることもしばしばです。成果外の授業(上記表の色付きクラス)は単位ももらえないため本人のモチベーションだけが学習を続けるカギとなります。現在42名の留学生が日本語を勉強していますが、これは留学生全体の4分の1程度です。

 

専門のコンピューターサイエンスの研究や学習に日々取り組みながら、日本語を学ぶ留学生の負担はとても大きいものです。実際に日本語学習を始めたものの途中でドロップアウトしてしまう学生も少なくありません。
そのような状況でありながら来日後に日本語学習をスタートし、日本で内定を獲得した学生の事例もご紹介いただきました。

草刈氏:来日後に日本語学習をスタートし内定を獲得した学生も少なからずいます。本来のコンピュータサイエンス等の学習がメインであるため、日本語の学習時間は、N5の学習目安時間である200時間にも届かないほど少ない場合であってもN4程度の日本語能力を身につけ日常会話ができるまで頑張った学生もいます。日本語の日常会話ができることが、採用のポイントの一つとなったと考えています。
昨今、高度外国人材の採用と併せて外国人社員の離職にも注目が集まっています。業務では英語で支障がなくても、ランチやアフターファイブといった業務外の交流で孤立しがちなことが要因の一つと考えられています。その点、完璧な日本語でなくても日本人社員と積極的に交流しようとする態度は企業にとって好ましく感じられたのではないでしょうか。
留学生の採用で一番問題とされるのが、留学生の日本語能力です。現状、イングリッシュ・トラックの留学生に日本語能力を求めるのは非常に厳しいと思います。特にゼロから学習をスタートさせた留学生が日本語を習得するには本人の強い気持ちと努力が必要でかなりの負担を要します。私は日本語教師ですので、これからも日本語学習を継続したい留学生を応援していくつもりですが、会津大学のコンピューターサイエンスに特化した留学生たちを採用しないのは本当にもったいないと思います。彼らは日本語能力が低くてもコミュニケーション能力は非常に高いです。それぞれの問題点を解決し、横のつながりを深めていけば必要とする企業に必要とされる高度外国人材が集まっていくと考えます。

【4】会津大学のイングリッシュ・トラックで学んだ留学生の就職状況

セミナーの後半のトークセッションでは。会津大学の留学生の就職状況について伺いました。

三瓶:就職先として人気の企業や業種は、何か傾向はありますか?

草刈氏:会津大学の場合は、やはりコンピューター分野です。留学生が入りたい会社は「自分の専門性が活かせる会社」ということが、総合大学の留学生と違う点だと思います。なので自分の専門性が活かせない業種にはほとんど興味がないようです。
逆にこちらから「同じコンピューターなんだからやってみたら?」というと「僕はWebならできるけれど、これはできないんだ。」というように自分のできることに対してこだわりを持っています。日本的な将来のポテンシャルを見て採用するケースを想定していないので、チャレンジする業種がとても狭いように感じます。あとは、もちろん日本語に自信がないので英語で仕事ができる会社も非常に人気が高いですが求人自体が少ないというのが実情です。

三瓶:大きな会社と小さな会社、どちらがいいなど傾向はありますか? ベンチャー企業へ就職する学生もいるのでしょうか。

草刈氏:会津大学の卒業生が起業したベンチャー企業もありますし、小さめの会社で英語で仕事ができるところへ就職する学生もいます。就活の際には、有名企業や海外に拠点がある、キャリアパスを考えたときに自分の国にも拠点があるかがポイントとなるようです。ただ、日本で就活をしている留学生のほとんどはできれば日本に長くいたいと考える学生が多いです。

三瓶:最後に人事採用のご担当者に向けて何かお伝えしたいことはありますか?

草刈氏:会津大の留学生はコンピューターサイエンスに強いので、エンジニアはもちろん将来はプロジェクトマネージャーになりたいと考える学生も多いです。ですが日本語ファーストですと、優秀な人材もなかなか採用してもらえないということがあると思います。
彼らは日本語学校の学生や専門学校の学生より、ずっと短い時間で日本語が習得できています。これは私が大学で日本語を教えてきて驚いていることです。やはり高度外国人材になり得る留学生はもともとの資質が非常に優秀だと思います。そのためスキルを見てまずは採用して、それから日本語力を育てるということも一つの方法かと思います。日本語を覚えてから採用するのではなく、いい人材を先に採用しそれから日本語を教える。きっとその学生たちは優秀ですのでそんなに手がかからないのではないかと思っています。

三瓶:そうですね、日本にいればいつかは日本語を話せるようになりますから。まずはスキルと人物面で採用していただけるといいと私も考えます。

     


ASIA to JAPANの外国人学生採用についてはこちら

(関連記事)
日本で働く外国籍社員184名のアンケート結果 「入社前に知っておきたかったこと」

この記事をシェアする!