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「外国人の新卒IT採用」のリアル【ギブリー×ASIAtoJAPAN共催イベントレポート】 ~マネーフォワードCTOにインタビュー~

目次

11月11日、株式会社ギブリーとの共催イベント『コロナ禍だからこそ狙う!海外トップエンジニア採用の新常識 〜大手メーカ企業・高成長ベンチャー企業も実践する、 海外IT人材採用プロセスと見極めるべきポイント事例〜』を実施。

オンラインで行われた本イベントでは、主に株式会社マネーフォワードの事例を元に海外採用、外国人採用の実態やノウハウが語られました。 参加者の皆さまからの質問も多数上がり、大盛況。本レポートではその一部をご紹介します。

 

プロフィール

株式会社マネーフォワード
取締役執行役員 CTO
中出 匠哉さん

2001年ジュピターショップチャンネル株式会社に入社。ITマネージャーとして注文管理・CRMシステムの開発・保守・運用を統括。2007年シンプレクス株式会社に入社し、証券会社向けの株式トレーディングシステムの開発・運用・保守に注力。 その後FXディーリングシステムのアーキテクト兼プロダクトマネージャーとして開発を統括。 2015年にマネーフォワードに入社し、Financialシステムの開発に従事。2016年にCTOに就任。

株式会社ギブリー
執行役員 兼 HR Tech部門 事業推進部長
山根 淳平さん

2012年より株式会社ギブリーに参画、エンジニア向けHRテクノロジー事業の立ち上げを行う。ハッカソンやアイデアソン、プログラミングコンテストなど新しいエンジニア採用施策を取り入れ、年間100社以上のIT・通信・メーカー企業のエンジニア採用・育成を支援。2017年に同社の執行役員に就任し、現在はセールスからマーケティングチームの統括を担う。(※Twitterアカウント:https://twitter.com/jumpeiymn)

株式会社ASIA to JAPAN
代表取締役社長
三瓶 雅人

1997年、株式会社キャリアデザインセンター入社。キャリア採用広告営業、営業マネージャ・営業部長、マーケティング部長、人材紹介部門の事業責任者となる。 2006年、株式会社日経HR入社。人材紹介事業立ち上げ、転職サイト責任者、システム責任者を経て、2012年よりアジア現地学生採用のための新規事業を立ち上げ、その責任者となる。 アジア9カ国、トップ50大学と連携した事業はテレビ「ガイアの夜明け」でも取り上げられる。2017年2月に株式会社ASIA to JAPANを創業。

マネーフォワードが外国人採用始めたきっかけ

山根:マネーフォワードは日本国内だけでなく、アジア圏の人材の採用にも力を入れていると聞きました。ここ数年で外国人採用を強化し始めた背景をお話いただけますか?

中出:外国人材の採用を始めたのは4年ほど前からで、一緒に働き始めてからは丸3年くらいです。主にアジア圏から採用をしていて、ベトナム、中国、韓国、台湾、インドネシア、マレーシア、インドなどの地域が中心となっています。今は社内のエンジニアの約10%が外国人材。主に新卒採用で外国人エンジニアを採用していて、最近では国内人材が3〜4割、外国人材が6〜7割と、
外国人エンジニアの採用比率が上がってきています。

山根:なぜ外国人採用をやろうと思ったんですか?

中出:お恥ずかしい話ですが、最初は特に強い思いがあったわけではないんです。知人から「ベトナムのハノイでオフショア開発をやっているから見に来ないか」と話があり、ベトナムの状況も見に行くのも悪くないだろうと、現地に行ってベトナム人エンジニアと会いました。その時に「いけるな」と直感で思ったんです。試しにオフショア開発をやってみることになり、それが外国人エンジニアと最初に仕事をするきっかけでした。そういうご縁から、ベトナムの理工系大学で一番優秀なハノイ工科大学の学生を採用できるチャンスがあると話をいただき、半信半疑で再び現地へ。2名ぐらい採用しようと思ったんですけど、実際は5名採用しまして(笑)

山根:そんなに採用できるんですね。

中出:ハノイ工科大学は、日本でいうと東工大のようなイメージ。そういうレベルの人材から選べる状況なんです。書類審査も含めて何十人と見て、その中の上積みを採用した感じです。

山根:技術レベル的にはどのような感じなのでしょう?日本の学生と違いはありますか?

中出:能力という観点ですと、少なくともベトナムは日本人と比べて能力が劣るということは全くない印象ですね。

山根:新卒で外国人エンジニアを積極的に採用しているとのことですが、新卒に振り切っている理由はあるんでしょうか?

中出:文化の違いはあるので、ある程度は日本の仕事のやり方に合わせていただく必要があるとは思っています。そういう意味では、働いたことがない人の方が染まりやすいのではと。なお、外国人エンジニアの中途採用は基本リファラルです。新卒で入ってくれた子が楽しく働けていると、お友達を紹介してくれるんですよ。たくさん紹介してくれるので、リファラル以外の外国人材の中途採用は今はやっていない状況です。

効率は外国人採用の方が段違いに良い

山根:「外国人採用をする上で、チーム体制はどうなっていますか?」という質問がきています。採用に割くリソースについて、いかがでしょう?

中出:国内採用に比べると、外国人の採用は全然リソースがかからないんですよ。面接当日に内定承諾までもらうので、選考の日さえ空けておけばいい。

山根:国内採用の場合は、学校訪問などしながらブランディングをしてエントリー数を稼ぎ、苦労して内定を出しても半年間承諾してもらえないこともざらにある。一方で外国人採用の場合は短期決戦でガシガシ採用することができるということですか?

中出:はい。効率は外国人採用の方が段違いに良いですね。

山根:選考フローはどのように設計しているのでしょう?

中出:まずは書類選考。基本的には「その国のトップ大学でコンピューターサイエンスを学んでいて、大学で学ぶ以上のことを個人でもやっている」ことを条件にフィルターをかけています。 日本人採用で「東大や東工大でコンピュータサイエンスを学んでいる人」の中だけで選ぼうとするのは無理ですけど、外国人材で、しかも国と日本語力を気にせずに採用するのであれば、普通にできちゃうんです。 その後にコーディングテストを受けてもらい、一定以上のスコアを出した人たちとだけ面接をしています。面接して良さそうだったら自信を持ってオファーを出す、という感じです。

山根:面接は何回やっていますか?

中出:最初は数回やっていたんですけど、何度やってもさほど印象は変わらないことがわかったので、今は一発で決めています。

日本で働こうと思っている人だから、マインドが一定の水準にある

山根:採用する際に、カルチャーフィットとスキルフィットの2つの視点があると思います。選考時、それぞれを見極めるためにやってることはありますか?

中出: スキルフィットの視点では、「エンジニアとしての素養や能力が日本人より上である」ことを大前提にしています。 最近はコーディングテストを取り入れていて、外国人採用でも必ずやっているんですけど、基本的には私が解けないような問題を出しているんです(笑)。自分より最優秀な人を採用したい思いは常にあるので、そこを突破してくる人だけを採用する感じですね。

山根:カルチャーフィットについてはいかがでしょう?

中出:面接時に「メンバーと話しが合いそうか」「こういう性格ならこういう感じでやっていけそう」など考えながら、適性は気にして見ています。 ただ、一人で日本に来て働こうと思っている子って、そもそもマインドが一定の水準にあるんですよ。素直ですし、いろんなことを吸収しようする人が多い印象なので、良い子が多いなと思っています。

山根:「外国人の学生にどういうアピールをしているのか」という質問がきています。外国人学生の入社の決め手となっているのはどういうポイントなんでしょう?

中出:これは信じられないぐらい力を入れてないんです(笑)。もちろん社内の制度や文化は伝えていますし、候補者も当社のことを調べてくれていますけど、前提として「日本で働けるチャンスがあるなら働きたい」というモチベーションの方が高い印象です。国にもよりますけど、日本で働くと現地の数倍給料がもらえることもありますしね。

山根:オファー額は一律と個別、どちらですか?

中出:個別です。日本人の新卒に出している額と基本同じか、それ以上の額を出しています。日本人より技術的なレベルが高い人を採用しているので、そういう意味では少し安いのかもしれないですけどね。

日本語ができなくても、活躍できる場所は全然ある

山根:参加者の方から「日本語力はどの程度重視されていますか?」という質問がきました。いかがでしょう?

中出:最初は日本語力はある程度必要だと思っていましたが、やればやるほど「別になくてもいいかな」という気持ちになってきました(笑)。なので、今は面接の時点での日本語力はあまり気にしていないです。英語で面接をすることもありますね。 ただ、まだ社内規定や全社会議などのバイリンガル対応が進んでいないため、日本語を覚えてもらうことを前提にはしています。日本語能力検定N3レベルの日本語力があれば日本での生活もそれほど困りませんから、そこを目安として伝えています。 今後は英語での採用も始めようと思っていて、2022年新卒からは日本語を覚えなくてもいい前提での採用も検討中です。

山根:受け入れる側からすると、日本語力の問題はどうなんでしょう?

中出:基本的には日本語力がハンディキャップにならないような仕事を任せています。コードを書くだけだったら日本語は関係ないですし、チャットのやり取りだったら英語が混ざってもさほど問題はありません。活躍できる場所は全然あるなと思っています。 また、始めた当初は受け入れ耐性がありそうなチームに入れることを想定し、面接にも携わってもらっていました。そうすることで「自分が採用を決めた人がチームに入ってくる」仕組みにしていたんですけど、新卒が半分以上外国人になってだいぶ慣れてきたので、あまり気を使わなくなってきましたね。

山根:外国人材に対応するチームをつくる際に、適した人たちは集まってくるものですか?

中出:そうですね。会社側から帰国子女や大学で海外留学していた方を積極的に集めています。この先、英語が公用語のチームを作るときに、日本人も混じっていた方がいいだろうとは思っているので。

山根:研修はどうでしょう?

中出:技術的な研修はほとんどやっていません。それが必要ない人を採用していますね。その他の研修に関しては、ある程度日本語力が備わっている子は日本人に混ぜてしまっています。 あと、社内では一人の外国人の新卒に対して5人のチームをつくっています。「寺子屋」と呼んでいるんですけど、毎日日替わりで30分程度、1 on 1をしてもらい、日本語のトレーニングをしています。チーム全員で新卒の子をかわいがるような感じになっていますね。

外国人材が身近にいると、日本人が海外で働くトレーニングにもなる

山根:宗教に関してはいかがでしょう?何か気にしていることはありますか?

中出:宗教は気にせず採用しています。もちろんお祈りをするためのスペースを用意したり食事の問題を考えたりといったことはあるんですけど、宗教が理由で採用しないのはおかしな話。「優秀な人を採用するのが最優先。それ以外の制約はどんどんなくしていこう」というのは早々に決めました。

山根:とはいえ、初年度で日本と全く異なるカルチャーの国の人を採用するのは大変そうだと思う企業の方もいると思います。初年度におすすめの国はあるんでしょうか?

三瓶:国籍は関係ないと思います。「日本は英語が通じない国」という認識は皆さんあるので、言葉が通じない苦労があることを理解した上で日本企業に応募をしています。 宗教も、厳格な人もいればそうではない人もいて、厳格な人はそもそも日本企業に応募をしません。お祈りや食事の整備が十分にできていない中で応募をしているということは、すでにある程度の覚悟を経て応募をしているということ。 「日本ではこうなんだ」と、働く中で理解しながら歩み寄る素地がある人たちですから、あまり気にしなくていいのかなと思いますね。

山根:「文化の問題でコミュニケーションの問題は生じてしまうことはありますか?」という質問がきています。確かに実務的にはソースコードの中で会話ができる部分もありますが、それ以外の部分はそうもいかないですよね。

中出:正直あります。「日本ではこういう立ち振る舞いが求められる」「マネーフォワードではこういう考え方をする」と、その都度伝えて、そこにアジャストしてもらう感じですね。新卒で当社に入ってくれているぶん、やりやすさはあるかなと思っています。

三瓶:逆に考えれば、「日本にいながら、日本人社員が海外進出する際のトレーニングができる」という面もあります。 海外進出すると現地で文化の違いに少なからず苦労をするものですが、外国人材が身近にいれば「ベトナムの人はこういう考え方をするのか」「ムスリムはこういう感じなのか」というのが体感できる。問題が発生した時の対処の仕方も経験できます。 一方、何も準備ができないまま海外に行ってしまうと、文化の違いから生じる「何か変だな」という出来事に、どう対応していいかがわからない。その結果、現地でなかなか活躍できない事象が起きてしまいがちです。 そういう意味では、外国人材と一緒に働くことで「日本人社員のパワーアップができる」のが魅力の一つだと思いますね。

「嫌だったらすぐに帰国しよう」という感覚の人はほとんどいない

山根:「入社後は何年くらい働いてもらうことを想定していますか?」という参加者の方からの質問がきました。

中出:当社は外国人採用を始めて日が浅いですし、外国人社員で辞めた人はまだいないのですが、5〜6年とイメージしています。 ベトナムに開発拠点があるので、例えば日本からベトナムに戻って、現地法人のリーダーになってもらうのが最終ゴールの一つ。各地各国に開発拠点を作っていくことも考えています。

山根:良いサイクルが作れそうですね。 三瓶:実は日本で働きたい外国人材の多くは、「日本で働きたい」よりも「日本に住みたい」が強いんです。ですから、きちんとケアをすれば日本の会社でずっと働いてもらえますし、退職するとしても日本の別の企業への転職することが多いです。 とはいえ、外国人採用をやっている企業はまだ少なく、転職先が潤沢にあるわけではないので、ポンポン辞めるという感じではありません。少なくとも「嫌だったらすぐに帰国しよう」という感覚の人がほとんどいないことは強くお伝えしたいですね。 その上で長く働いてもらうためには、成長できる環境を用意することが重要です。「1年目はこう」と型にはめてしまうと、成長できないと判断されて退職につながってしまう。日本人以上に環境が大事だと思います。

山根:最後に、これから外国人エンジニアの採用を始めようと考えている企業の方に向けて、中出さんからアドバイスをいただけますか?

中出:「百聞は一見にしかず」ですから、ご自身で一度体験するのが一番だと思います。あとは経営陣のコミットメントも必要です。IT業界に属する企業にとって、エンジニアの採用は経営課題の一つですから、リーダーシップを社内に示しつつ、まずは実際に体験してみていただければと思います。

当日の録画はzoomでご覧いただけます。

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