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外為法令改正「みなし輸出管理の明確化」で人事が押さえるべきポイントとは?グローバル法務・労務の第一人者、杉田昌平弁護士が解説

目次

ASIAtoJAPANは5月20日、『外為法令改正「みなし輸出管理の運用明確化」で人事が最低知っておくべき法知識とは?』と題したオンラインセミナーを開催。

外国人雇用における法務・労務の第一人者であり、当社顧問弁護士でもある杉田昌平弁護士をお招きし、法改正のポイントや人事担当者が必要な実務対応について解説いただきました。

本記事では、その一部をご紹介します。


みなし輸出とは?

法律で「みなし」という言葉を使う場合、「実際は違うけれども、そういうふうに考える」という意味を持ちます。つまり「みなし輸出」は、「本当の輸出ではないけれども、本当の輸出として考える」ということ。

大量破壊兵器などの技術の提供がある取引を、国境を超えて行う際は許可が必要ですが、日本国内で行う「国境を超えない技術提供」も輸出と同様に輸出手続きを行い、許可を取る必要があります。これが「みなし輸出管理」です。

「みなし輸出管理」

2022年5月1日の通達により、みなし輸出管理で考える範囲が明確化されました。条文について確認をしてみましょう。

「みなし輸出」の根拠条文は?

まず、外為法25条1項。ここでは「技術提供を伴う取引をする際に、経済産業大臣の許可を取らなければいけない」ことが定められています。

詳細については後述しますが、人事に関わる部分として「採用行為がこの取引に含まれるかを確認しなければならなくなった」のが大きな変更点です。

「みなし輸出」の変更点

国境を超えない技術提供については、従来から居住者(日本に住んでいる人)が非居住者(日本に住んでいない人)に提供する際、みなし輸出管理とされ、許可が必要でした。この居住者と非居住者は、外国為替法令に基づき判定されています。

外国為替法令には「居住性の判定基準」というものがあり、外国人の場合は「外国人は、原則として、その住所または居所を本邦内に有しないものと推定し、非居住者として取り扱うが、次に掲げる者については、その住所または居所が本邦内に有するものと推定し、居住者として取り扱う」とされています

それによると、居住者として取り扱われる外国人の条件は以下の通りです。

・本邦内(日本国内)にある事務所に勤務する者

・本邦(日本国内)に入国後6月以上経過するに至った者

企業に所属する外国人材は「本邦内(日本国内)にある事務所に勤務する者」に該当しますので、従来の国境を超えない技術提供では、「居住者から居住者への技術提供」とみなされ、許可は不要でした。

「みなし輸出」で何が変わったか(改正前)

▲改正前

今回の改正で変わったのは、居住者から居住者への技術提供についても、取引相手が特定の類型に該当する場合は許可が必要になった点です。特定の類型は、以下の3つがあります。

  1. 契約に基づき、外国政府・大学などの支配下にある者への提供
  2. 経済的利益に基づき、外国政府などの実質的な支配下にある者への提供
  3. 1.2の他、 国内において外国政府などの指示の下で行動する者への提供

たとえ居住者であったとしても、相手が上記1,2,3のいずれかに該当する場合、特定の技術提供を行う際に経済産業大臣の許可を取る必要があると、今回の改正で明確化されました。

なお、特定の類型に該当するか否かの判断が必要となるのは、外国人材に限らず、日本人従業員や研究者学生なども対象になります。

「みなし輸出」で何が変わったか(改正後)

▲改正後

改正の背景

今回の改正の背景には、世界的な二つの潮流があります。

一つは、イノベーションの促進です。2021年9月18日に閣議決定された「統合イノベーション戦略2021」では、「大学等の国際化による国際頭脳循環を促進していくことが喫緊の課題である」とし、イノベーションを促進する高度人材の必要性が指摘されています。その中には、外国人研究者の雇用促進も含まれています。

また、同日に決定した「成長戦略実行計画」では、「女性・外国人・中途採用者などの多様性の推進」が挙げられており、「日本企業の成長力を一層強化するため、女性、外国人、中途採用者が活躍できるよう、多様性を包摂する組織への変革を促す」と記載されています。ここでも外国人材雇用の推進が明記されているのです。

こうした流れに加えて、もう一つ、技術窃盗や利益相反管理の必要性が増しています。

例えばアメリカでは、中国の「千人計画」への対応として、司法省が産業スパイの取り締まりを行っています。欧州においても、中国との研究開発協力の在り方についてコンセプトペーパーが公表されました。イノベーションを促進する一方で、技術が意図しない形で他国に盗まれることを防ぐ必要性も生じているのです。

「高度人材を採用し、イノベーションを推進しなければならない」一方で、「技術を持ち去られることを防止する」ためのブレーキの整備も求められている。こうした背景から、日本でも今回の改正が行われました。

みなし輸出改正のポイント

では、人事担当者はどのような対応が必要になるのか。大きなところでは、採用ないしは雇用した人材に対し、「許可申請が必要な居住者であるか否かの判定」を行なう必要が生じます。

改正「外国為替及び外国貿易法第25条第1項及び外国為替令第17条第2項の規定に基づき許可を要する技術を提供する取引又は行為について」では、みなし輸出管理の対象となる居住者の類型1,2,3を定めています。以下、ポイントをご紹介します。

1. 契約に基づき、外国政府・大学などの支配下にある者への提供

雇用契約、委任契約、請負契約その他の契約を締結しており、当該契約に基づき当該外国法人等もしくは当該外国政府等の指揮命令に服する又は当該外国法人等もしくは該当外国政府等に対して善管注意義務を負う者

<例>

・日本の大学教授であり外国大学と雇用契約を結び准教授などを兼務している者

・外国大学からサバティカル制度で我が国の大学などに来ている大学教授

「みなし輸出管理」の対象となる居住者の類型とは

2.経済的利益に基づき、外国政府などの実質的な支配下にある者への提供

外国政府等から多額の金銭その他の重大な利益(金銭換算する場合に当該者の年間所得のうち25%以上を占める金銭その他の利益をいう。)を得ているまたは得ることを約している者

<例>

・外国政府からの奨学金提供を受けている外国人留学生

・ 外国政府の理工系人材獲得プログラムに参加し、多額の研究資金や生活費の提供を受けている研究者

なお、奨学金の内容については、「みなし輸出」管理の明確化に関するQ&Aで以下のように回答がなされています。

Q41:学生時代に外国政府より返済義務のない奨学金を受けていた者や、入社後の現在も外国政府から受領した奨学金の返済を行っている社員がいますが、このような者は特定類型②に該当するのでしょうか。

➢ 雇用されるより以前に外国政府等から奨学金を受領又は奨学金の返済を免除された者は、原則として、特定類型②には該当しません。

➢ また、奨学金の返済を雇用後も行っている場合も同様です。

➢ ただし、学生時代に外国政府等から受けていた奨学金について、雇用後に返済を免除されたような場合などはこの限りではなく、免除額同等の利益を受けたものとして、当該免除された金額が年間所得(利益を受けた当該年の年間所得見込み額)のうち 25%以上を占める場合は特定類型②に該当します。

「みなし輸出」管理の明確化に関するQ&Aより)

3.1.2の他、 国内において外国政府などの指示の下で行動する者への提供

本邦における行動に関し外国政府等の指示または依頼を受ける者

<例>

・日本における行動に関し外国政府などの指示や依頼を受けている留学生

1,2,3のいずれかの類型に該当する場合は許可が必要になります。ただし、類型3だけは、経済産業省などから情報提供の依頼があった際に判断の必要が生じるものです。したがって、基本的には確認の必要性が生じるのは特定類型1と2となります。

実務対応のポイント

役務通達別紙1-3に従った特定類型街統制判断

▲特定類型の該当性判断のポイント

人事担当者は、改正された役務通達の別紙1-3のガイドラインに従い、対応を行います。ここでは自社で採用ないし雇用した外国人材が特定類型に該当するのかを判断する際の考え方が示されています。

役務通達の別紙1-3のガイドラインに従って特定類型の該当性を判断し、役務通達の別紙1-4に記載された記載事項の誓約書等を取得する対応を行うことで、通常果たすべき注意義務を果たしたものと扱われます。

採用時に必要となる「自己申告」の内容

▲役務通達の別紙1-4に記載された記載事項の誓約書の例

なお、確認のプロセスは、居住者が技術提供をする人の指揮命令下に「ない場合」と「ある場合」で異なります。

前者の「居住者が技術提供をする人の指揮命令下にない場合」は、通常の契約書等に書かれている内容から、特定類型1,2に該当しないことが明らかな場合、追加の確認は必要ありません。

一方、後者の「居住者が技術提供をする人の指揮命令下にある場合」は、「入社前の自己申告」と「勤務中の報告」の2つの対応が必要です。この2つができていれば、通常果すべき注意義務を履行しているものとされます。

「入社前の自己申告」については、居住者が指揮命令に服した時(基本的には雇い入れ時)、 特定類型1または2に該当するか否かを、役務通達の別紙1-4に記載された記載事項の誓約書を提出し、居住者が自己申告します。

「勤務中の報告」については、指揮命令に服する期間中、新たに特定類型1または2に該当する事態になった場合に、居住者の報告が求められます。企業の対応としては、就業規則の見直しが必要です。

具体的には、「就業規則などの内部規則において、副業行為を含む利益相反行為が禁止または申告制になっている場合」は、「指揮命令に服する期間中に、居住者に報告を求めているものと解する」とされ、報告できる体制が整っていると判断されます。「みなし輸出」管理の明確化に関するQ&AのQ17では、内容について以下のように回答がありました。

Q17:「指揮命令に服する期間中において、新たに特定類型①又は②に該当することとなった場合に、報告することを求めていること」と解される、「就業規則等の社内規則において、副業行為を含む利益相反行為が禁止又は申告制になっている場合」とは具体的にどのような場合を指すのでしょうか。当社の就業規則はこれに該当しますか。

➢ 副業行為を含む利益相反行為を禁止・申告制にしている内部規則の例は、厚生労働省のモデル就業規則となります。

➢ このうち、第11条(利益相反)、第68条(副業・兼業)の規定の内容に準じたものが就業規則等の社内規則において規定されていれば、「指揮命令に服する期間中において、新たに特定類型①又は②に該当することとなった場合に、報告することを求めている」ことと解されることになります。

「みなし輸出」管理の明確化に関するQ&Aより)

なお、2022年5月1日以前に入社した人についても、対応が必要です。この場合、誓約書での自己申告は不要ですが、就業規則の整備は必要となります。


【登壇者プロフィール】

杉田昌平弁護士

杉田昌平 弁護士

弁護士法人Global HR Strategy

代表社員

アンダーソン・⽑利・友常法律事務所、センチュリー法律事務所など大手法律事務所に所属した経験をもつ傍ら、慶應義塾大学法科大学院助教授や名古屋大学大学院法学研究科特任講師なども歴任。ベトナムのハノイ法科大学に設けられた日本法教育研究センターにおける各種活動にも従事。⽇本弁護⼠連合会の中⼩企業海外展開⽀援事業担当弁護⼠、慶應義塾⼤学⼤学院法務研究科特任講師を務めるグローバル法務・労務の第一人者。

法令遵守のための外国人材雇用支援サイト

ASIA to JAPAN サービス説明


(関連リンク)
[ウェビナー]5月より 外為法令改正「みなし輸出管理の運用明確化」で人事が最低知っておくべき法知識とは?(開催終了)

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