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在留外国人に対する基礎調査の結果が公表されました
[コラム]杉田昌平弁護士

杉田昌平弁護士コラム

入管庁から、昨年度に続いて、在留外国人に対する基礎調査の結果が公表されました。
これについての杉田先生のコラムをお届けします。


杉田昌平

寄稿者
弁護士 杉田昌平(弁護士法人Global HR Strategy 代表社員)
詳しいご紹介はこちら


入管庁から、昨年度に続いて、在留外国人に対する基礎調査の結果が公表されています。

令和3年度在留外国人に対する基礎調査報告書

令和3年度在留外国人に対する基礎調査報告書(概要版)

株式会社シード・プランニング令和 4 年 3 月「令和 3 年度 在留外国人に対する基礎調査報告書」

 

昨年も、本調査では、生活の満足度について在留資格「技能実習」で在留する方の満足度が全在留資格中で最も高かった等、今までの”常識”と異なった結果が出ており、話題になったのではないでしょうか。今年は、Nが173(令和2年)から965(令和3年)と、大変充実しており、その点でも、参照の価値があります。

 

ところで、今回の調査で最も印象的だったのは、入管庁名義の8月の報告書ではなく、そのもととなった令和4年3月に委託先が作成した報告書です。
これを見ると、技能実習の在留資格の方について、日本に来た目的の1位が「お金を稼ぐ・仕送り(送金)のため」(48.0%)とあります。
2位は「スキルの獲得・将来のキャリア向上のため」(42.1%)であり、実は、お金を稼ぐといういわゆる出稼ぎ目的とかなり拮抗しています(65頁)。

また、技能実習生の出身国における学歴も今回調査されていて、1位高校(53.8%)、2位専門学校・短期大学(23.8%)、3位大学(12.7%)、4位中学(7.0%)となっています。
これは、国際労働移動のホスト国を並べて調査したいですが、予想では、ホスト国の中では、移住労働者の学歴が最も高い国グループに位置づけられると思います
(インドネシア⇒マレーシアに移動する人の多くは中学校卒業者というヒアリング結果を得たことがあります)。

 

こういった調査から見えてくる絵は、やはり、常識とは反しますが、現時点において、日本は「強いホスト国」なんだと思います。
4~6月という時間と20~70万円という高額な費用、事前の研修や日本語の習得という高い経済的・スキルのハードルを設けて、それを超える人の受け入れをするというのは、「強いホスト国」であるからこそとることができる戦略です。

 

今回の調査結果からは、意図しない結果かもしれませんが、国際労働市場への接続の点で、今の「強いホスト国の戦略」は、現時点では機能しているということがいえるように思います。
”選ばれる国”というワードが聞かれますが、日本は「強いホスト国の戦略」すなわち、入国に高いハードルを設け、それを超える人のみを受け入れるという戦略をとることができている国です。このハードルを下げれば、今よりはるかに”選ばれる”ことはできます。
ですが、それは、望んでいる水準の人が来てくれるとは限りませんし、今存在する数のアプローチの背後に存在するメカニズムである「強いホスト国戦略」を放棄することになり、日本の労働市場は変化してしまいます。

 

今でこそ日本では、「外国人に仕事を奪われた」といったデモや社会活動はありませんが、なぜこれが起きていないか、なぜ数のアプローチがないように思える中で、数の暴走が起きていないのか、よく考えないといけないと思わされる調査結果なように思います。
こういった調査が、しかも、定期的に行われるようになったのは、受入国にかわったことへの自覚の始まりなのかもしれませんね。

 

 


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