2026年3月、ASIA to JAPANは、高度外国人材の「定着・戦力化」をテーマに、日本企業が直面する課題とその解決策について実務的な観点から体系的に解説するセミナーを開催しました。
近年、日本では少子化により人材不足が深刻化する中、高度外国人材の採用は急速に拡大しています。
こうした状況の中で、「採用したが期待通りに活躍しない」「早期に離職してしまう」といった課題に直面する企業も少なくありません。
実際に、外国人材の在留数は増加しているにも関わらず、約3割の企業が「期待より活躍できていない」と感じており、採用と戦力化の間に大きなギャップが存在しています。
そこで、本セミナーでは外国籍社員の”定着・活躍”に差が生まれる背景を構造的に整理し、企業が今見直すべきポイントを具体的に解説するとともに、採用を“成功体験”に変えるためすぐに実践できるアシミレーションプログラムの導入例や、現場管理者のマネジメント手法などをお届けしました。
本記事では、セミナー内容を抜粋してレポートにまとめました。
■セミナー概要
●トークテーマ
~高度外国人40万人時代~
外国籍社員の早期戦力化に向けた“定着・活躍”設計とは
●登壇者
株式会社シフト・ビジョン会長 早稲田大学 名誉教授 株式会社ASIA to JAPAN 顧問
大滝 令嗣 氏
株式会社ASIA to JAPAN(以下:ASIA to JAPAN)
代表取締役社長 三瓶 雅人
■なぜ戦力化できないのか
冒頭では、外国籍社員受け入れ部門の現場で起きている課題について解説しました。
問題の本質は、「入社後にどう受け入れ、どう活躍につなげるか」にあります。
多くの企業では、採用活動そのものには多くの時間とコストを投下している一方で、入社後のオンボーディングやマネジメントについては、現場任せ、あるいは担当者個人の経験値に依存してしまいがちです。
その結果、本人の能力とは別のところでつまずきが生じ、企業側は「期待したほどではなかった」と感じ、本人は「自分の力を発揮しにくい」と感じる状況が生まれます。
こうした状況を単なるコミュニケーション不足ではなく、組織側の「設計不足」と考え、解決していくことが大切です。
- 期待値が共有されない
- 業務の範囲が曖昧
- 相談の仕方が分からない
- 評価の基準が見えない
こうした一つひとつは小さな問題に見えても、積み重なることで、本人にとっては大きな不安や不信感につながります。
受け入れ側もまた、「どう接すればいいか分からない」「どこまで任せてよいか判断できない」と戸惑い、結果として双方が距離を縮められないまま時間が過ぎていきます。
■早期離職の構造
そして、早期離職の背景を大きく三つの構造で整理しました。
(1)採用時のミスマッチ
例えば、企業が期待していた役割と本人が思い描いていた成長機会が一致していない、あるいは人材の能力水準が企業の業務レベルを大きく上回っているといったケースです。
高度外国人材は、日本人採用と比較して非常に優秀な人材を採れることがありますが、それが必ずしも定着につながるわけではありません。
むしろ、能力に見合った役割や処遇が与えられない場合、「この会社では自分の力を十分に発揮できない」と感じて、よりフィットする環境へ移ろうとすることがあります。
(2)日本語コミュニケーションの問題
早期離職の約三分の一に日本語コミュニケーション不足が背景にあると整理しました。
ここで重要なのは、日本語力の不足を本人だけの問題として捉えないことです。
受け入れ側の上司や同僚が「きちんと伝わっているのか」と不安を抱き、結果として関わりが減ってしまう。
本人は「伝えたいことが伝えられない」「提案しても伝わらない」「評価されていない」と感じていく。
こうした相互の不安が重なることで、孤立や意欲低下が起きやすくなります。
(3)入社後の受け入れ設計不足
そして、三つの中でも特にフォーカスして解説されたのが、この「入社後の受け入れ設計」です。
採用時のミスマッチや評価制度の問題は、制度変更や採用方針の見直しを伴うため、すぐに大きく変えることが難しい場合があります。
一方で、受け入れ設計については、現場の工夫と仕組み化によって比較的改善しやすい領域です。
当社では、採用コストを回収できるかどうかを左右する、最も改善可能性の高いテーマが「受け入れ設計」であると位置づけています。
■定着を左右する4つの要因
では、企業は何を整えればよいのでしょうか。
定着と活躍を左右する要素として、「オンボーディング」、「マネジメント」、「キャリア設計」、「文化理解」の四つを挙げました。
(1)オンボーディング
職務の範囲や初期の期待値が曖昧なままでは、本人は「何を優先すべきか」「どこまでできればよいのか」が分かりません。
特に入社直後は、母国から日本へ、母国語から日本語へ、学生から社会人へ、という三つの大きな変化を同時に乗り越えなければならない時期です。
ここで業務上の期待まで曖昧だと、負荷はさらに大きくなります。
だからこそ、初期三か月の職務範囲や期待を文書化し、学習ゴールと業務ゴールを分けて伝えることが有効であることを解説しました。
(2)マネジメント
日本の職場には、相手の様子を見ながら配慮するという強みがある一方で、賞賛やフィードバックが不足しやすいという側面もあります。日本人同士であれば暗黙の了解で伝わることも、外国籍社員には伝わらないことが多く、結果として「何が評価され、何が課題なのか分からない」状態に陥ります。
本セミナーでは、この状態を“rudderless”、つまり舵(rudder)のない(less)状態として紹介しました。
方向感覚を失った人材が、自分の将来に希望を持ち続けることは容易ではありません。
だからこそ、短くてもよいので週次の1on1を設け、賞賛と改善点、次への期待を具体的に伝える仕組みが必要です。
(3)キャリア設計
能力の高い人材ほど、「この会社で自分はどう成長できるのか」を見ています。
数年たっても同じ業務しか任されない、役割が広がらない、将来の選択肢が見えない。
その状態では、たとえ職場の人間関係に問題がなくても、より成長機会のある環境へ移ることを考え始めます。
日本企業にはジョブローテーション文化がありますが、その前提や意味を説明しなければ、本人にとっては「なぜこの仕事なのか分からない」「キャリアが見えない」と映ってしまう場合があります。
成長に応じた役割拡張の考え方や、将来的なキャリアイメージを丁寧に示すことが重要です。
(4)文化理解、暗黙知の可視化
日本の職場では、「本音と建前」、「空気を読む文化」、「会議での発言の仕方」、「雑談の意味」など、言葉にされないルールが数多く存在します。
日本人にとっては自然でも、外国籍社員にとっては理解しづらいものです。
そのため、暗黙の前提に依存せず、「どういう時に相談すべきか」「会議ではどのように発言するとよいか」「何を重視しているのか」を明示的に伝えていく必要があります。
当社では、これは単なる配慮ではなく、組織の生産性を高めるための重要な投資だと捉えています。
■キーワードは「心理的距離 × 期待値共有」~アシミレーションプログラム
本セミナー全体を通じての重要なキーワードとしてお伝えしたのが、「心理的距離 × 期待値共有」です。
外国籍社員にとって最大の不安は、「自分がどう評価されるか」「何を期待されているかが見えないこと」です。
一方、受け入れチームにとって最大の困りごとは、「どう接すればいいか分からない」「どこまで踏み込んでよいか判断できないこと」です。
この双方の不安が放置されると、会話は減り、誤解は増え、互いに遠慮しながら共存するだけの状態になってしまいます。
表面的には大きなトラブルがなくても、実際には静かに離職リスクが高まっている、ということが起こり得ます。
そして、このギャップを埋めるための具体策として紹介したのがアシミレーションプログラムです。
これは、外国籍新入社員と受け入れチームの間の心理的距離を短時間で縮める実践型プログラムであり、通常なら半年ほどかけて少しずつ形成される相互理解を、半日から一日程度で一気に進めることを目的としています。
受け入れ側が持っている疑問や不安を言語化し、本人もまた自分の考えや感じていることを共有する。
そのプロセスを通じて、期待値と価値観のズレを可視化し、チーム全体で合意形成を図っていくという考え方です。
導入企業や受講者の声としては、
- 「通常は半年かかって双方を理解していくところを短時間で距離を縮めることができた」
- 「業務では話せていなかったが、人となりを知る機会になった」
- 「安心して話せる場があったことで、チームが自分を理解してくれたと感じた」
といった内容が紹介されました。
こうした声からも、定着や活躍は“制度”だけでなく、“関係性の質”によって大きく左右されることが分かります。
■具体的な実務施策
セミナーでは、現場管理者が今日から実行できる具体的なアクションもお伝えしました。
例えば、
- 初期三か月分の職務範囲と期待値を文書化すること
- 初月は週次で10〜20分程度の短い1on1を設定すること
- 最初の目標を学習ゴールと業務ゴールに分けること
- 賞賛・改善点・次の期待をセットで伝えるフィードバックテンプレートを用意すること
などです。
さらに、アシミレーションの実施は入社直後、できれば1一〜2二か月以内が推奨されており、受け入れ側への事前資料共有や、ランチ・雑談などインフォーマルな場の創出も重要だと整理しました。
また、効果測定の視点も重要です。
定着率だけでなく、OJT期間の短縮、満足度スコア、業務貢献スコアなどをKPIとして可視化し、継続的に改善していくという考え方です。
高度外国人材の受け入れは、感覚論や善意だけで進めるものではなく、採用投資を回収するための経営判断として捉えるべきであることも一貫してお伝えしました。
■まとめ
本セミナーでは、高度外国人材の活用において重要なのは「採用できるかどうか」ではなく、「入社後にどう活躍してもらうか」であることを解説し、アシミレーションプログラムや、現場管理者のマネジメント手法などをお伝えしました。
採用市場が拡大するこれからの時代、差を生むのは採用そのものではなく、採用後の設計です。
期待値を共有し、心理的距離を縮め、職場として受け入れる準備を整えられる企業こそが、外国籍人材の力を引き出し、競争力につなげていくことができます。
高度外国人材は、補完的な人材ではなく、企業の未来を担う基幹人材になりつつあります。
採用から定着・戦力化までを一体で設計するという視点は、今後ますます重要になっていくはずです。
ASIA to JAPANは、これからも日本企業と海外の優秀な学生をつなぎ、ともに未来を築くためのサポートを続けてまいります。
外国籍の学生採用に興味がある企業様はASIA to JAPANへお気軽にお問い合わせください。
