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【2】2029年にも米国を超える経済規模に~米国超え目指す中国(2/3)~[寄稿]湯浅健司氏

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米国超え目指す中国〜日本は「敵対」よりビジネス相手としての付き合いを〜

 

「ポスト・コロナ」において、中国の経済事情はどう変化するのか。日本企業が、中国の優秀な学生を獲得するチャンスはあるのか。
日本経済研究センター首席研究員であり、中国研究室長でもある、湯浅健司氏に寄稿いただきました。

 


(寄稿者)
湯浅健司 氏(日本経済研究センター 首席研究員)
詳しいご紹介は日本経済研究センター

 


 

【2】2029年にも米国を超える経済規模に

「先進国の仲間入り」という目標はどのくらい現実味があるのだろうか。日本経済研究センターは2020年12月、アジア・太平洋地域の15カ国・地域を対象にした2035年までの経済成長見通しをまとめた。多くの国・地域は、新型コロナの感染拡大が鎮静化しGDPの規模がコロナ前の19年の規模に戻るには今後4~5年かかる、というシナリオだが、中国の名目GDP(ドルベース)の規模は「2029年にも米国を超える」と予測した。

 

2019年に実施した同じ調査では「35年までには中国が米国のGDPを追い抜くことはない」とみていた。今回の調査では新型コロナへの対応と影響の違いから、米中の間では就業者数や研究開発(R&D)費などの見通しに大きく差が生じるため、「米中逆転が実現する」と予測を見直した。米国でコロナ禍の鎮静化がさらに遅れる深刻化シナリオでは、標準シナリオよりさらに1年早い28年に逆転するとみている。ただ、1人当たりの所得は、35年時点でも中国は約2万8000ドルに過ぎず、米国(約9万4000ドル)や日本(約7万ドル)との大きな差は残る見込みだ。

 

2008年にリーマン・ショックが起きた際、中国は4兆元(約60兆円)の経済対策を打ち出して真っ先に景気を回復させ、世界経済の復興のけん引役も果たした。今回のコロナ禍でも、中国経済はその影響からいち早く脱し、やがては米国を追い抜く勢いだ。トランプ政権下で米中対立が激化した過程では、中国の景気が悪化し、チャイナ・ビジネスを悲観する声が増えていた。「ポスト・コロナ」の世界経済では中国に対する悲観論はかすんでしまい、多くの国々が中国を頼りにするようになっている。

 

中国も米国をにらみつつ、世界に与える影響力を生かした「独自の広域経済圏づくり」を急ぎ始めている。陸路では中国から中央アジアを経て欧州へ、海路ではインド洋を経由して欧州へとつながる現代版「シルクロード」、「一帯一路」構想はすでに始動した。2020年11月には、日本などが署名した東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)への参加を決め、さらに習氏はRCEP参加に署名した5日後の11月20日、環太平洋経済連携協定(TPP11)への加入に意欲を示した。TPPは元来、オバマ政権が対中包囲網をつくるために提案したものだ。米国はトランプ政権に替わって参加を見送ったが、日本はバイデン新政権になれば米国も考えを改めてTPPに復帰することを期待していた。そこへ突然、中国が割り込んできた形だ。

 

米国に対抗して海外への影響力を増す中国と、日本はどう向き合えばいいのだろうか。安全保障の面では警戒感を保ちつつも、経済の面では連携を継続せざるを得ないだろう。

 

新型コロナの発生以降、2020年11月には中国の王毅外相が来日したが、それ以降、日中間の閣僚級の往来は途絶えている。2021年に入って米国でバイデン政権が誕生し、4月の日米首脳会談では台湾問題に言及した共同声明が発表された。菅政権において、日中間の外交関係は冷え込みつつある。

 

もっとも、中国側は米国との絆を強くする日本に不快感を示す一方で、経済連携にかける熱意は失っていない。コロナ以前には、中国の数多くの地方政府が繰り返し大規模な訪日団を送りこみ、投資誘致に熱を入れた。現在は渡航が禁止されているものの、インターネットを通じたリモート会議を開いたり、動画投稿サイト「ユーチューブ」を使ったPRビデオを配信したりと、交流の継続に必死になっている。日本のメディアがあまり取り上げないが、日本への期待はコロナの前も後も変わってはいない。

 

こうした中国の熱意に対して、日本は中国を拒み遮断するのではなく、経済発展への協力を通じて中国への影響力を保ち続けることが大切である。日本が好むと好まざるとにかかわらず、中国はアジアや欧州で存在感を増している。中国の台頭に問題が生じれば、各国と連携しながら、望ましい姿に導いていくことが重要であり、そのためには常に一定の影響力を保持しておかなければならない。中国を嫌ってばかりでは、中国を核とした巨大な経済交流圏から孤立するだけである。

 

中国政府のまとめによると、2020年の海外からの対中直接投資額(実行ベース)は前年同月比で4.5%増の1443億7000万ドルとなり、過去最高を記録した。国別ではオランダや英国など欧州勢や東南アジアからの投資増が目立つほか、関係が悪化している米国の企業も対中投資を控える様子は見られない。
欧米企業はしたたかだ。彼らは国家の相克を乗り越えて、常に成長の機会をうかがっている。日本勢は逡巡していれば商機を奪われかねない。中国からの秋波をチャンスととらえ、「ポスト・コロナ」のビジネスチャンスを探る、柔軟な姿勢が求められよう。

 

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