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【3】中国との付き合い、大切な「人材」~米国超え目指す中国(3/3)~[寄稿]湯浅健司氏

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米国超え目指す中国〜日本は「敵対」よりビジネス相手としての付き合いを〜

 

「ポスト・コロナ」において、中国の経済事情はどう変化するのか。日本企業が、中国の優秀な学生を獲得するチャンスはあるのか。
日本経済研究センター首席研究員であり、中国研究室長でもある、湯浅健司氏に寄稿いただきました。

 


(寄稿者)
湯浅健司 氏(日本経済研究センター 首席研究員)
詳しいご紹介は日本経済研究センター

 


 

【3】中国との付き合い、大切な「人材」

「ポスト・コロナ」の中国ビジネスは、政府の景気刺激策などに反応して回復してくる需要を、いち早く取り込むことがカギとなる。中国では2020年、自粛や節約の反動需要を表す「報復性消費」(リベンジ消費)という新語が流行した。「リベンジ」の対象はモノやサービス、旅行などが代表例だ。資生堂の魚谷雅彦社長は20年5月、「中国はリベンジ消費という言葉に象徴されるように、デパートなど店頭の集客がコロナ前に戻っている」ことから、「中国市場で戦略的に投資していきたい」と話している。

 

中国が抱えるリスクを逆手にとる手段もある。2020年は国内企業の業績悪化により、中国では新卒大学生の就職難が顕在化した。これは日本企業にとって、優秀な中国人の人材を獲得するチャンスでもある。中国の新卒者は、中国国内でのビジネス展開だけでなく、中国が影響力を増すアジアなど幅広い地域での活用も期待できる。IT関連の技術者も豊富だ。中国はインターネット技術では日本の一歩も二歩も先を行く。ネットに長けた学生は、即戦力となるだろう。

 

中国が長期的に安定した経済成長を続けても、外国志向の若者の規模は一定程度で推移すると思われる。その理由の1つに、中国国内での生活環境の悪化がある。賃金の伸び悩み、あるいは住宅費の高騰などで、都市部で暮らす若者は年々、生き辛くなっている。彼らの購買力の後退は明らかで、それが中国全体の消費力の低減につながっている。

 

ところで、日本で仕事につく中国の学生は、日本に何を求めているのだろうか。改革開放路線が始まった1980年代と現在を比較すると、その変化は非常に大きい。

 

1980~90年代に日本で職についた学生は多くが本国の有力大学を卒業した後、日本の大学や大学院に進んでから、企業などに入った。出身地は北京や上海など大都市が大半で、いずれも厳しい受験戦争を勝ち抜いた「成功者」であり、日本に来るのは、さらに自分の箔をつけるためだった。ビザの取得など入国条件が厳しく、物価も日本の方がはるかに高ったので、生活を維持するため、慣れないアルバイトに汗を流す学生が少なくなかった。寸暇を惜しんで働き学ぶ学生はおのずと優秀な人材が多く、まだ中国に不慣れだった日本企業は彼らを採用し大いに役立てた。職についた中国人は苦労して来日していたので、来日後は長く日本で暮らし、自ら起業したり、日本国籍を取得したりした人も少なくなかった。

 

しかし、時がたつにつれ、来日の目的も変わって行く。中国経済の成長が著しかった2010年前後になると、中国人の対日感情も変化した。経済面で日本に対する優越感が芽生える一方、一部の住宅費や物価などの面では「日本の方が暮らしやすい」といった逆転現象もみられるようになった。

 

来日する学生は両親が豊かで、仕送りだけで暮らしていける人が増えた。アルバイトに明け暮れるような若者は減り、自分の興味や勉学により集中できるようになった。ただ、一人っ子政策のもとで生まれているため、年老いた両親の面倒を見る必要から、一定期間を経て、帰国せざるを得ない人も少なくない。

 

最近、日本に留学する学生は、本国での厳しい受験競争に敗れ、進学できないので、仕方なく来日する人もいるようだ。ビジネスの戦力としては、そうした若者は向いていないかもしれない。本国の大学で学ぶ優秀な学生を探して日本に呼び込む方がリスクは小さい。住宅事情など中国の生活環境は今後、ますます厳しくなるだろう。若者たちに日本で魅力ある職場と生活環境を提供できれば、優秀な人材を獲得することは十分に可能なはずだ。(了)

 

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