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外国人材採用の現状(2)日本の採用実務のガラパゴス化

目次

(2)日本採用実務のガラパゴス化

採用面接新卒一律給与が優秀層の外国人材採用のボトルネックになっていることは先述した通りだが、他にも採用や入社後のキャリアに関する日本特有の仕組みは多数ある。

入社のタイミング

世界的には新卒であろうと、入社時期はバラバラ。全員が同じスタートラインに置かれることはそれほど多くない。一方で日本は研修の兼ね合いもあって4月に全員まとめて入社となる。入社のタイミングを限定してしまっている点は第一のガラパゴス化だ。

総合職採用と職種別採用

世界的には職種別採用が一般的であり、仕事内容が明確でないまま内定承諾を迫ることはまずない。ジョブローテーションを前提に、幹部候補として採用する総合職は日本特有の職種だ。そもそも他国では大学入学時点で将来がある程度決まるため、マネジメント職に就くための勉強をした学生が入社後に即マネジャーとなるようなケースもある。

採用ツール

日本は新卒一括採用であるため、就職サイトをはじめとした採用チャネルが整備されており、就職活動は学生の主体性に任されている。そのため大学のキャリアセンターの職員にはそれほど専門性が問われず、「ローテーションで回る一部署」であるのが一般的だ。
片や海外では、学生向けの就職情報が集まるチャネルがないことがほとんど。そのためキャリアセンターには学生の就職支援を専門に行うスペシャリストが所属し、企業を招いてジョブフェアを企画するなどして学生と卒業生の就職を支援している。特にトップクラスの大学は学生の就職支援に熱心だ。世界大学ランキングにはさまざまな指標があり、その一つに「就職ランキング」がある。これは単に就職率が高ければいいというものではなく、卒業生の年収や就職後の満足度も関係する。つまりキャリアセンターのミッションは「学生をできるだけ良い会社に就職させる」こと。大学ランキング上位の大学ほど、キャリアセンターの職員が海外で就職した人にインタビューをするために現地を訪れるなどして、卒業生の声を集めている。そうやって企業の良し悪しを判断し、学生に推薦する就職先を選別しているわけだ。

応募の自由度

日本では基本的に全ての会社に、誰でも応募ができる。片やアメリカのトップ大学と人気企業では、大学ごとに応募者の枠が決まる。A社がマサチューセッツ工科大学から3人応募者を募る場合、同大学の成績上位者から順に応募意思を確認していき、A社への応募者が3人に達した時点で応募は締め切られる。ゆえに日本とは桁違いに大学での成績が重要になる。

転勤

海外では幹部クラスの転勤はあるが、若手のうちにジョブローテーションの一環として転勤をすることはほとんどない。最近では日本人でも転職を敬遠する人が若年層を中心に増えてきているため、転勤制度自体が見直されつつあるが、多くの大手企業では専門性とは別の理由で転勤になることがいまだにある。しかし産育休制度が過去10年ほどで明らかに変わってきているように、人手不足の解消を考えれば必然的に転勤制度も変わっていくだろう。

雇用条件通知書

海外の場合、「特定の業務ができる人」を採用して雇用条件を提示するが、その中には日本の就業規則に書かれているような内容も含まれるため、書類が数十ページにわたることも珍しくない。一方の日本は“就社”の考え方から、「会社が面倒を見る」というスタンスが強い。一般的に内定時にペライチの雇用条件を、入社した後に就業規則を渡されることが多いが、「どのような規則や給与制度があるのかが分からない会社に、どのような業務をするのか分からずに入社している」状態にあり、世界的に見れば特殊な状況となっている。

給与に関する考え方

日本では「お金のことをうるさく言うのは良くないこと」という考え方が根強いため、例えば「3年目にどういう状態になったら給与がいくらになるのか」といった先の給与が見えにくい。結果的にお金やキャリアに関して、あやふやなまま入社するということが起きやすく、ボーナスに関しても「業績による」といった説明で終わり、具体的な金額が明示されないことが多い。一方の海外では、雇用条件通知書に給与やボーナスに関する記載があることがほとんどだ。

これらの日本の採用や雇用のガラパゴス化は外国人材にとってマイナスに映ることが多いが、以下のようにプラスに捉えられることもある。

研修制度

海外では基本的に新卒も中途採用のような位置付けであり、入った瞬間から実務を任せられることとなる。日本のように入社してすぐにまとまった研修を受けることができ、基礎的な知識とスキルを身に付けられるのは、外国人材にとって安心材料となる。

ただし、IT人材にとっては研修がネックとなってしまうことも。IT人材の場合、学んできたコンピュータ言語の種類や習得度によって力量は全く異なるが、日本ではたとえ得意なコンピュータ言語であっても用意された研修に参加しないわけにはいかない。実務をスタートしてからも最初はバグの処理といった簡易な仕事を任されることが多く、優秀な人材ほどできることを毎日やらされることに苦痛を感じて辞めてしまう。IT人材の場合はある程度難易度の高い業務を与えるなど、本人の成長を考えた仕事を任せることが重要だ。

ジョブローテーション

外国人材には専門性を活かしたいと考える人が比較的多いが、かといって全ての人が一つの専門性を極めたいと思っているわけではない。ずっと同じことをやるのは避けたいという人もいる。そういう志向性の人にとって、転職せずに部署異動ができる日本の仕組みはメリットだ。

雇用の安定性

日本での就職を目指す学生の多くが魅力に感じているのが、雇用の安定性。国の解雇規定が非常に厳しく、特に大手企業の場合は企業から解雇をするのは非常に難易度が高い。よって失業率は世界でも稀に見る低さである。

他にチームワークを発揮した仕事の進め方や、製品や勤勉さに見られる“ちゃんとしてるところ”を学びたいという声も目立つ。島国で閉じている中でガラパゴス化しているからこその日本文化に関心を持つ人は多いもの。日本特有の仕組みの全てが駄目なわけではなく、むしろ良いところもあることは知っておきたい。

ただし、どうしても採用のボトルネックになってしまうのが、新卒の一律給与だ。先述の通り、特に先端テクノロジーに関するIT人材の給与の高低をつけられない以上は他国との競争に勝てない。企業によっては中途社員扱いで採用するケースもあるが、1年目から経験者である中途社員のように仕事ができるわけではないことも多く、そんな中で高い給与を与えていることに既存社員が不満を抱きかねないという懸念もある。要はただ優秀というだけでなく、“圧倒的に”優秀でなければ周囲が納得しないわけだ。

とはいえ、すぐに給与制度を変え、その他の仕組みも外国人材にとって最適になるよう動くのは現実的ではない。そもそも「全てが整うことはない」のだ。日本人社員ばかりの会社であっても、人事制度は毎年のように更新される。同じように外国人材もまずは採用し、徐々に変えていけばいい。

 

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