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外国人材採用の現状(3)高度人材採用における日本の実力

目次

(3)高度人材採用における日本の実力

さて、外国人材全般にとって、日本という国はどう映っているのか。結論を言うと、人気は非常に高い。もともとアニメをきっかけに日本に興味を持つ人は多かったが、今はそれにプラスして訪日外国人が年々増えている。日本を訪れた人々が日本での就職を希望し、さらにその人から日本の話を聞いた人が日本に関心を持つといった具合に、追い風が吹いているのは間違いない。

また、高度外国人材にとって、日本は世界でも指折りの就労ビザを取得しやすい国だ。高度人材に限定すると、受け入れ数はカナダに次いで2位。日本では労働人口の低下が叫ばれ、少子高齢化の影響からどの企業も若手人材を欲しているが、世界に目を向ければ、若年層の就職率が低い国の方が多く、そんな中で海外から若者を受け入れる政策は国として取りづらい。つまり日本は世界でも稀に見る“外国人ウェルカム国家”なのである。

高度人材採用における日本の実力について考えると、まず日本に優位性のある分野として機械、バイオ、建築、ロボットが挙げられる。車をはじめとした機械系は言わずもがな、バイオもIPS細胞など、医療系の分野で日本の研究は進んでいる。建築業界でも安藤忠雄氏などの著名な建築家を日本は輩出しており、ロボットの分野では機械系の産業が活発であることから産業ロボが他国に比べて発展している。

これらの分野で日本は世界のトップ人材を集めやすく、また世界的に見てもこうした人材の給与が高騰しておらず、採用がしやすい。ITエンジニアは新人であってもできる人とできない人の差が付きやすく、成果もはっきり出るのに対し、機械、バイオ、建築、ロボットの分野は経験を積み上げていくことでスキルに差が出るため、新人の能力にさほど違いはない。チームプレイの重要性が高いためスタープレイヤーが出にくく、ITエンジニアと比べて新卒入社時の給与に差が付かないのだ。

では、日本国内で人手不足が叫ばれているIT人材に関してはどうなのか。まずIT人材はスタープレイヤーとそれ以外に大別できる。前者は先述した通り世界中で争奪戦となっており、採用するためにはまずグローバル水準に合わせた給与を用意し、難易度の高い仕事を与える必要がある。新卒一律給与が一般的である日本が他国と競うのは難しいが、一方で後者の“スタープレイヤー以外”の人材に対しては日本にも競争力がある。外国人材にとって日本のIT企業は、日本人にとっての公務員に近い。日本人が公務員を目指すのと同様、安定した雇用と働きやすさを求めて日本企業を希望するIT系の外国人材はたくさんいる。

ただし、ここまで挙げてきた優位性は全て「日本語力を問わない」場合の話であり、日本語ができることが必須となると話は変わる。外国人材の採用全般に共通する話だが、日本語学科などの一部の学生を除き、日本語を学んでいる学生はほとんどいないと考えた方がいい。学生が日本企業での就業を希望したとしても、日本企業で働くにあたり日本語が必要となることを知るのは就職活動を始める4年生になってから。そこから面接を日本語で行うまでの日本語力をつけるのは難しく、つまり気付いた時にはもう遅いわけだ。

人手不足が顕著なIT業界でも、日本語が大きな壁となっている。日本のIT産業の7割は受託開発。日本語しか話せない日本人顧客を相手にするため、日本語が不慣れな外国人材を顧客先に出すのは難しい。受託開発を事業とする多くの企業にとって、外国人材は採用しづらいのが現状である。

一方で、外国人材の採用と相性がいいのは自社開発を行っている企業、特にメーカーだ。メーカーがIT人材を採用しているイメージが日本人の学生になく、採用に苦戦している企業は少なくない。片や世界のIT人材が日本での就業を希望する理由の一つは「日本に住みたい」であるため、エンジニアとして働ける会社の中で待遇の良いメーカーは有利。自社開発であるため、日本語でのコミュニケーションに問題があってもフォローがしやすく、メーカーと外国人材はWin-Winな関係といえる。

日本語がネックになってしまうのなら、日本語に馴染みがある留学生を採用すればいいのではないか。そんな疑問を抱く方もいるだろう。たしかに外国人材にとって、日本は留学に行きやすい国だ。大きく分けると「トップ大学」と「人気のない大学」を中心に、留学生を積極的に受け入れている大学が増えている。背景として、トップ大学は大学ランキングを上げるために指標の一つであるダイバーシティを実現すべく留学生を増やそうとしており、人気のない大学は学生数を確保する目的から留学生を増やす傾向にある。

大半の企業が採用したいトップ大学に留学生が集まっているのであれば、一見良さそうに思える。実際、日本語ができる留学生もそれなりにはいる。ただ、そのほとんどは文系学生だ。先に挙げた機械、バイオ、建築、ロボット、IT人材に該当する理系留学生で日本語ができる人はごく少数。大学および大学院に在学している留学生の総数は約13万5000人だが、このうち理系の留学生は全体の約13%と、数にして1.8万人弱しかいない。これは総数であるため、就職活動を行う大学4年生と大学院2年生に絞れば人数はさらに減る。加えて、理系留学生は英語で授業を受けていることも多く、「日本語ができる理系の留学生で就職活動をする学年の人」はほんの一握りしか存在しないわけだ。その少ない人材を各社が取り合っているため、採用の難易度は相当高いのである。

【図表】外国人留学生在籍状況

専攻分野 2018年 2017年 18-17年比 2018年全留学生に占める割合 2017年全留学生に占める割合
人文科学 140,200 124,305 113% 47% 47%
社会科学 74,037 67,664 109% 25% 25%
理学 3,981 3,452 115% 1% 1%
工学 35,463 30,804 115% 12% 12%
農学 3,984 3,739 107% 1% 1%
保健 5,027 4,356 115% 2% 2%
家政 5,083 4,787 106% 2% 2%
教育 3,541 3,221 110% 1% 1%
芸術 10,219 8,432 121% 3% 3%
その他 17,445 16,282 107% 6% 6%
298,980 267,042 112% 100% 100%

日本留学生支援機構(JASSO)「平成30年度外国人留学生在籍状況調査結果」より

「日本で働きたい理系の人材はいる」が「日本語がネックになってしまっている」のが日本の現状であるということは、裏を返せば「日本語ができなくてもOK」であれば採用難易度はグッと下がるということ。繰り返すが、日本で働きたい外国人材自体は大勢いるのだ。

 

(関連リンク)
>>日本学生支援機構(JASSO)外国人留学生在籍状況調査

 

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