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外国人材採用に関する実務(3)内定を出してから受け入れまで

目次

(3)内定を出してから受け入れまで

最後に、外国人材を採用してから先の実務について考えていく。まずは「外国人材が来日する前までにやるべきこと」を見ていこう。

来日前

来日前のToDo 1. 日本語教育の支援

会社に仕事、日本での生活と、新しいものだらけの環境に慣れながら、同時に日本語を集中して学ぶのは現実的ではない。採用した外国人材の日本語力が必要なレベルに達していない場合は、入社前に日本語教育の支援をする必要がある。新人研修に参加できないなど実務上の不都合も生じるため、入社前にできる限り日本語力を引き上げておきたい。

「(2)採用活動を始めてから内定を出すまで・Point5」で触れた通り、日本語力の伸び方を左右するのは出身国と日本語教育の環境だが、海外の日本語学校の質はさまざまであり、N1レベルに対応できる学校は基本的に大都市に集中する。一方で外国人材が通う大学の大多数は都市部から離れたところにあり、大学の授業を受けながら都市部まで通って日本語授業を受けるのは物理的に難しいことが多い。最近ではオンラインの日本語教育も増えてきているので、こちらを利用する方が確実だろう。余裕があれば、入社数カ月前に来日してもらい、日本の生活に慣れながら日本語学校に通ってもらうのが日本語を伸ばす上では最も効果的だ。

来日前のToDo 2. ビザの手続き

ビザは3カ月ほど前から準備を進めたい。入国管理局に提出する書類の一つに卒業証明書があるが、大学や学部によって卒業証明書を出す時期や申請の仕方は異なる。内定を出すと同時に「いつ、どうやって取得するのか」を確認しておこう。学生にとっても卒業証明書の取得は初めてのことであり、本人も理解していないことが少なくない。大学の事務局に確認させる、もしくは日本に就職した大学の先輩に聞いてもらうなど、本人への確認を促すことを推奨する。

来日前のToDo 3. 航空券の手配

飛行機
ASIA to JAPANが採用のサポートをしているほとんどの企業が航空券の手配を企業側で行ない、費用も全額負担している。入社日の1週間前を目安に来日してもらい、その間に役所の手続きや携帯電話の契約、その他生活に必要なものを揃えられるとスムーズだ。

来日前のToDo 4. 住居の手配

大前提として、外国人が海外から日本の賃貸物件を借りるのは限りなく不可能に近い。日本語が堪能だったとしても、保証人や緊急連絡先が外国になってしまうこと、身分証明書やビザなどの確認が困難であることから、受け入れる不動産業者はほぼない。そのため来日してから物件を探すことになるわけだが、慣れない土地で住む場所が決まっていない不安は大きいもの。可能であれば企業側で事前に住居を手配するのが望ましいが、それが難しいのであれば当座の住まいとしてマンスリーマンションを2カ月ほど会社で用意できると安心だ。

その際、「就職のために遠方から転居する日本人社員への住宅サポートはしていない中で、外国人材にだけ対応するのは不公平では?」と懸念する人事担当者もいるが、前述の通り外国人材は来日するまで住居を借りられないという事実もあるため、特例としてサポートできるよう社内の整備を進めておきたい。なお、ASIA to JAPANを通じて外国人材を採用した企業の約6割が何かしらの「住居に関する費用」を会社で負担している。

来日前のToDo 5. 外国人材をサポートするメンターの手配

可能であれば、外国人材の日本での生活をサポートするメンター役の社員がいるといいだろう。何かあった時に気軽に相談できる人が一人いるだけで、働きやすさや安心感は格段に変わる。人事ではカバーしきれない細々したことをケアできるのもありがたい。入社が決まった段階で該当者を探し、後述する入社前の各種手続きや生活用品の買い物、家探しのフォローもメンターに頼めると理想的だ。

メンターの人選は「同じオフィスやフロアで働いている別チームの社員」で「英語が話せる」人が望ましい。利害関係になく、程よい距離感を保てる社員が適任だ。さらに留学経験者であれば慣れない土地での苦労や心細さを外国人材と共有でき、親身になってサポートをしてくれるだろう。逆に避けたいのは直属の上司や先輩。自分を評価する立場の人には悩みや困りごとを打ち明けづらいものだ。

来日前のToDo 6. 配属先の調整

外国人材を初めて受け入れる際は、海外勤務経験のある上司や部門長がいる部署への配属を検討したい。外国人との接し方に慣れていればトラブルになりにくく、外国人材の働きやすさにもつながる。

来日前のToDo 7.本人と出身国に関する社内共有

所属部署とメンターに向けて、外国人材に関する情報共有の場を設けよう。大学の専攻や入社理由、やりたい仕事、人柄、宗教など、本人の情報とともに出身国の基本情報や文化、風習についても説明しておくといい。例えば中国では2月初旬~中旬の春節(旧正月)が祝日と制定されているが、この時期に中国人の社員から会社を休みたいと言われた時、春節への理解があるかどうかで受け止め方は異なるだろう。文化や習慣の違いを知っておくことで、理解不足から生じるトラブルを回避できる。

来日前のToDo 8. 印鑑の用意

来日後の各種手続きには印鑑が必要だが、ほとんどの外国人材の場合、印鑑は特注になる。手元に届くまではある程度時間がかかるため、事前に用意しておき、来日してすぐに渡せるとスムーズだ。

航空券などの来日の手配や住居のサポート以外、基本的には外国人材の受け入れに際して特別な制度や設備を整備する必要はない。入社してから細かい部分で不具合が生じることはあるが、その都度対応していけば十分だ。

次に「外国人材が来日してから入社するまで」に行うべき対応について紹介する。研修や業務に集中できるよう、日常生活を送る上で必要な手続きは入社前に済ませたいところ。一通りの手続きや日本での生活に親しむための期間として、1週間程度は見ておきたい。

 

来日後

来日後のToDo 1. 空港でのピックアップ&Wi-Fiの手配

外国人材を採用した企業の多くは専門業者に依頼をするなり、自社の社員が迎えに行くなりして、空港でのピックアップを行なっている。その際に用意しておきたいのがポケットWi-Fi。日本に到着したことを親に報告したり、空港から目的地に向かう際にわからないことを調べたりと、常にネットがつながっていることの安心感は大きい。携帯電話を契約するまでの期間中にも使えるよう、2週間程度レンタルしておきたい。

来日後のToDo 2.各種手続きのサポート

来日後に必ず手続きをしなければならないのが、住民票の届け出、銀行口座の開設、クレジットカードの作成、携帯電話の契約だ。外国人が携帯電話を契約するには、まず銀行口座を開設してクレジットカードを作らなければならない。そして銀行口座を開設するためには住民票が必要となる。マンスリーマンションなどの仮住まいであっても住民票は取得できるが、役所や銀行の手続きにはそれなりに時間がかかるため、住民票を取得してから携帯電話を契約するまでに1週間程度かかると想定しておきたい。

来日後のToDo 3.生活用品の買い出しへの同行

人事ないしメンターと一緒に、住居の近くのスーパーやドラックストアを回れると安心だ。英語表記がない商品も多いので、生活必需品を一緒に探しに行けるといい。文化や慣習の違いから生じるトラブルを防ぐために、ゴミ出しの仕方など、生活に関するオリエンテーションを同時に行えるとベストだろう。

来日後のToDo 4.物件探しのサポート

引っ越しの段ボール来日後であっても、外国人が賃貸物件を探す難易度は高い。外国人不可の物件も多く、それなりに日本語を話せたとしても住宅に関する用語に馴染みはないもの。加えて家賃相場や土地勘どころか敷金・礼金といった日本の慣習もわからないため、一緒に物件を探したり不動産会社を訪れたりといった人事担当者やメンターのフォローがあると心強い。その際、外国人の住居探しに前向きな不動産業者を見つけたら積極的に関係を築こう。懇意の不動産業者が見つかれば、翌年以降の物件探しが格段に楽になるはずだ。

なお、数十万円にもなる敷金・礼金を支払えない外国人材も多いため、住居の初期費用の支払いに当ててもらう目的で給与を前払いする企業もある。シェアハウスであれば初期費用がかからず、通常の賃貸物件よりも探しやすいメリットがあるものの、特に女性の場合はシェアハウスを嫌がる人がいることも念頭に置いておこう。

最後に入社後、外国人材と円満に働いていくために最低限やってほしいことについて紹介しよう。

入社後のToDo 1.入社初日に歓迎会を行う

何もかもが新しい環境の中で外国人材は緊張しているもの。特に入社初日は最も緊張するタイミングだからこそ、ランチと夜の歓迎会をセッティングし、「歓迎している」ことを表明したい。宗教上の理由からアルコールや食事に制限があることも多いので、事前の確認は不可欠。飲み会よりは食事会がベターだ。

初日に限らず、一緒に食事をする機会は多ければ多いほど良い。食事を共にすることで社内でもコミュニケーションが取りやすくなり、外国人材への声掛けが増える効果も期待できる。同じチームに限らず他の部署の人も交えて、定期的に食事の機会をセッティングできると理想的。社内コミュニケーションの活性化と日本語力向上のためにも、積極的に日本人社員との交流の場を設けるよう意識しよう。孤独になりがちな外国人材を一人にさせないよう、常に声をかけることを心掛けたい。

入社後のToDo 2.定期的なメンターとのランチ会を設ける

メンターにも初日、最初の週末、入社1カ月後など、折にふれてランチやお茶に行ってもらえるとより安心だ。その際、業務ではなく、「友人としてサポートしている」というスタンスが重要。人事や上司への報告を義務づけてしまうとスパイのようになってしまい、メンターと外国人材の関係性構築にマイナスに作用してしまうことも。何か重大な問題が発生しない限り、人事や上司は関与しない方が無難だ。

特に初めて外国人材を受け入れる場合、社内制度の思わぬ不具合や細かなトラブルが発生することもあるが、基本的にはその都度対応していけば問題はない。一緒に働く中で日本人の常識とは異なる行動を取ることも時にはあるだろうが、頭ごなしに怒ったりただ注意したりするだけではなく、「どうしてこういう言動をしているのか」を考え、それを踏まえて指導する癖をつけることが重要だ。

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