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国際労働力移動のメカニズムと外国人を”脆弱な立場”に追い込む原因[寄稿]杉田昌平弁護士

先日、虚偽の申請で在留資格を更新し、ネパール人男性を違法に食品工場で働かせた等の疑いで、派遣会社の代表者や行政書士が逮捕されたというニュースが報道されました。
このニュースのような違法行為について、外国人材受け入れの専門家である、杉田昌平弁護士による寄稿です。


杉田昌平弁護士
寄稿者
弁護士 杉田昌平(弁護士法人Global HR Strategy 代表社員)
詳しいご紹介はこちら

 


 

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を有する方について、食品工場に派遣していたとして派遣会社の代表者や行政書士が逮捕されたという件が報道されています。

 

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を有する方が、もっぱら現業職の仕事を行うことを、一般的には”なんちゃって”技人国や偽装技人国と呼びます。
入管法において不法就労活動は「第十九条第一項の規定に違反する活動又は第七十条第一項第一号、第二号、第三号から第三号の三まで、第五号、第七号から第七号の三まで若しくは第八号の二から第八号の四までに掲げる者が行う活動であつて報酬その他の収入を伴うものをいう。」と定義されます(同法24条第3の4号)。

 

大雑把にまとめると、次の2つに分類できます。

(1)在留資格はあるが、その在留資格で認められた報酬を得る活動以外の活動から報酬を得た場合

(2)在留資格がなくて、報酬を得る活動を行った場合

 

このうち、実務上良く見ますが、同時に闇が深いのが(1)の類型です。
(1)の中でも、まだクリーンな議論がされるのは、入社時OJTと現業職の範囲で、これは、既に入管から詳細なガイドラインが出ていて、ある程度解釈としては決着がついていると思います。
それよりも、入社時OJTといえるようなレベルではなく「技術・人文知識・国際業務」の在留資格でもっぱら現業職の業務を行わせている例は、相当程度あります。

 

そして、ここから闇が深くなっていきますが、本来現業職に就くことができないことはわかっていながら就職できない方(就労範囲が狭い専門学校の卒業生等)に対して、虚偽の書類を作成し、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を得させることの対価として、50万円前後の費用を徴収することを業とする方がいます。
外国人が一度このルートに入ってしまうと、不法就労活動を行ったことになり外国人も負い目があるため、脆弱な立場に置かれます。
これは、わかりやすく批判される「技能実習」だけではなく「技術・人文知識・国際業務」も問題ある事例はあるといった単純な話しではありません。

 

移住労働者を脆弱な立場に置く原因は、制度だけではなく、受給のバランスの不均衡であったり、送出国の市場であったり、送出国と日本の間の個々のコリドーであったり、労働者の情報アクセスの困難さだったり、それぞれに、個々に原因があります。
国際労働力移動において、移動労働者の権利侵害がされるときに、多くの場合本質として共通しているのは、外国人が”脆弱な立場”に置かれている事象があるという点です。
移住労働者の権利擁護が実現できるようにするには、国際労働力移動のメカニズムを分析して、個々”脆弱な立場”を形成する事象を明らかにしないといけません。

今回のようないわゆる”なんちゃって”技人国の事例で逮捕事例が出るというのは、一定程度、警鐘を鳴らす効果はあると思います。
しかし、本質的には、日本で働くことを希望する人の供給と労働市場にギャップがあり、在留資格に対応しない形で働くという歪な労働市場があることを見つめないといけません。
そして、この市場の不均衡も外国人を”脆弱な立場”に置くことにつながります。
働くことができると信じて費用をかけて訪日した留学生が働けないと知った際に、コストを回収するために、違法性には気がつきつつ、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を得て働くことをすることもあるでしょう。
そして、一度違法な行為をすれば脆弱な立場に置かれ、その後、在留期間が更新できなければ、今度は在留資格を失い、より脆弱な立場に置かれることもあります。

 

日本では、制度論や制度間の比較論は活発に行われますが、国際労働力移動のメカニズムの検討や、制度の背後に共通する課題についてはあまり注目をされていないと思います。
国際労働力移動がより活発になっていく中で、国際労働力移動のメカニズムと、何が人を脆弱な立場に追いやるのかという点は、もっと真剣に研究されないといけないのではないかと思います。

 


 

(関連リンク)
不法就労助長の疑い 人材派遣会社の代表や行政書士ら逮捕(TBSニュース)

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