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失われた外国人雇用政策の30年と変化の兆し[コラム]杉田昌平弁護士

日経新聞に働く外国人の統計を整備するというニュースがあがっています。
厚労省の「外国人雇用対策の在り方に関する検討会」を受けたものですが、これは、失われた外国人雇用政策の30年からの脱却といえるものです。
このニュースに関して、外国人材受け入れの専門家である、杉田昌平弁護士による寄稿です。


杉田昌平弁護士
寄稿者
弁護士 杉田昌平(弁護士法人Global HR Strategy 代表社員)
詳しいご紹介はこちら


 

日経新聞に働く外国人の統計を整備するというニュースがあがっています。

■日経新聞2021年11月23日「働く外国人の統計整備 厚労省検討、賃金など継続把握

厚労省の「外国人雇用対策の在り方に関する検討会」を受けたものですが、これは、失われた外国人雇用政策の30年からの脱却といえるものです。
1987年、労働省は外国人労働者問題研究会(座長:小池和男)を設置し、1988年に雇用許可制の導入を含めた報告書を公表しました(報告書は季刊労働法147号98頁に掲載されています)。
1988年の報告書で、なぜ「労働許可制」(働く労働者に許可が与えられる)ではなく「雇用許可制」(使用者に許可が与えられる)が検討されたのか、使用者の力が強くなるのではという指摘(後掲濱口)があるとおり、それが労働政策として特に労働者の人権・保護という観点から十分なものであったかは、疑問があるところですが、労働政策として、外国人雇用を考えることを指向していました。

この報告書から出てくる雇用許可制については、法務省が反発し、1990年の入管法改正を迎えます。
それ以降、外国人雇用については労働政策ではなく出入国在留管理政策として扱われてきました。
この労働政策として扱われなくなったことを、独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎先生は、「失われた30年」と評しています(野川忍編著『労働法制の改革と展望-働き方改革を超えて』第13章「日本の外国人労働者法政策-失われた30年」)。
なんと次のリンクで無料で読めます
http://hamachan.on.coocan.jp/nogawa.html

 

労働政策として把握されなかったことによってどうなるかといえば、法学的にももちろん影響はあるのですが(※1 参照)、労働政策として把握されなかったことにより、いわゆる”巡航速度”(平均的な姿)の把握をしていないことになります。これは労働政策として考えれば異常で、雇用統計がなく労働事件の統計のみがあるという状況が、外国人雇用では、続いていたわけです。
すると、平均的な姿はわからず、問題化したケースのみが取り上げられるエピソードベースの議論が先行することになります。このエピソードベースの議論は学会でもそうで、これまでエビデンスベースで諸外国の短期ローテンションモデル(Temporary Labor Migration Programs(TLMPs))と比較して日本の外国人労働者の受入れを論じる等した方は、少数派だったといえます。
しかし、この失われた30年に変化の兆しがあるのが、冒頭のニュースです。

厚生労働省は2021年3月19日から「外国人雇用対策の在り方に関する検討会」を行っています。
2021年6月28日には中間とりまとめが公表されています。

この中間とりまとめは、外国人雇用に関わっているならば、読んでおいて損はないと思います。
文字通り「我が国労働市場への外国人労働者の包摂の状況や国際的な労働移動を適切に把握し、エビデンスに基づいた外国人雇用対策を講じるべき。 」として、巡航速度の把握をした上で、エビデンスベースで議論すべきとしています。
さらに、「国際労働移動」という文言を使い、正面からこの国境を越える労働者としての人の移動を労働政策として論じているわけです。
(個人的な趣味の視点では、中間とりまとめの51頁に日本の送り出しの歴史がまとめられていることや、52頁以降に海外での文献レビューをしていることはとても好印象です)。

外国人雇用における巡航速度が明らかになると、これまで描かれていたものと異なる全体像が見えてくると思います。そのとき、どういった議論が展開されるのか、とても楽しみです。外国人雇用は労働政策としての舞台に戻りつつあり、変化の兆しが感じられます。

 


(脚注)
※1 外国人雇用は出入国管理関係法令(と一部共管法令)により規定されており、労働者保護を保護法益とするはずである規程についても出入国管理関係法令で規定され(例:同等報酬要件)るという、”在留資格一元化構造”という構造をとっています。
”在留資格一元化構造”については、労働関係法令で規定していれば、直律的効力を持たせられたかもしれないとった規程(同等報酬要件)であっても、そもそも在留資格の要件を定めたものであるところ、公序良俗の中身にもならず、直律的効力の以前の当該法律行為を無効とする効力もないという状況にあります。

(関連リンク)
厚生労働省ホームページ

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