-祖父愛用の日本製時計を通じた日本との出会い、そして日本語学科へ –
日本という国に興味を持ったのは、祖父がきっかけです。祖父は退職するときにもらった日本製の時計を愛用しており、その時計の質がいかにいい(素晴らしい)かを説明してくれました。そこで、日本はものづくりに強い国であるというイメージを持ちました。その後、高校生の時にJ-POPを聴き始め、日本の文化に触れるようになりました。
日本語学科に入ったのは、偶然というべきか運命というべきか。大学入試を考えた時に、私はどうしても山東大学に入りたい、という思いがありました。中国の高考(大学入試のテスト)は統一テスト(大学入学共通テスト)のようなもので、スコアに基づいてランキングを付けられそれに応じた大学を受験するようなシステムです。1点でも及ばない場合、違う大学や学科の受験を考えなければなりません。自分が選べる大学の幅は模試でだんだんわかるようになります。私のスコアと総合ランキングを見た時に、たまたま山東大学でちょうど入れる学科が日本語学科でした。そうして、私は日本語学科に入り、日本語を全般的に学ぶことになりました。
–長崎への交換留学で見えた、違う日本の姿と、架け橋としての自分 –
中国で学ぶ日本と(実際に)日本に行って見る日本は当然違います。日本に行く前は、私にとって日本は先進的な国で、憧れの場所でした。ですが、いざ行ってみると、日本にも様々な社会問題があったり、田舎と都市の格差があったり、逆に行かないとわからない日本の良さがあったりしました。長崎は私が暮らしていた済南市と比べると、静かでのどかな場所でした。私は地方創生などを主な活動として様々な場所で20回以上ボランティア活動をしてきました。その中で、長崎では、社会の変化による人口流出や少子高齢化などの課題を目の当たりにしました。このような問題は、表に出ている日本の姿を見るだけでは決して分からず、現地にきて初めて分かることです。それらを少しずつ、若者として、同時に外国人としての視点を提供しながら改善していくこと、そしてその中で溶け込んで生活することに喜びを感じます。自分のコンフォートゾーンを抜けて非ネイティブとして馴染みのない場所で様々なことにチャレンジしたいと思いました。
また、その一方で、日本に来て初めて分かった日本と日本人の良さも沢山ありました。日本人の根底にある人々(他者)への気遣いや、バリアフリー設備が整っていることからみえる障がい者を始めとした社会的弱者へのケアなど、こうした細かいところは日本ならではの良さがあると思います。技術や生活だけで見ると、中国の大都市のほうが進んでいることもあると思いますが、それでもこのような細かい気遣いがあらゆるところに出ているのは日本ならではだと思います。
また、私の中で一番誇りに思っていることは、東京で参加した企業訪問プログラムの経験を元に中国でも同様のプログラムを自ら企画し、様々な企業と学生をつないで開催出来たことです。東京でのプログラムに参加した際、このように企業と学生が面と向かって交流できることのありがたみを感じるとともに、このようなイベントを創っている人たちは本当にかっこいい、と強い憧れを抱きました。中国では周りの学生たちがコロナによって対面できないことによる就職難の真っ只中にいたので、自分がその学生たちに企業の人と会ったり実際に企業に行ったりする機会を作りたいと思いました。作り上げる過程は本当に大変でしたが、いろいろな人といろいろなアクターを巻き込んで作り上げる中で自分の好きなこと、そして方向性が見えてきました。
日本への留学の中で、私は中国人としての視点、中国での取り組みを日本に持ち込んだり、逆に日本で経験したことを中国で活かしたりと、自分は日本と中国の架け橋になりたいしなることができるということを実感しました。また、日本にまた戻りたい、という気持ちも膨らみました。
–日本で働くことへの期待と苦労–
その中で、大学を通してFast Offer Internationalのプログラムを知りました。大学の就職支援のウェブサイトではリンクが張ってあるだけで、正直、最初はサービスが全部無料だなんて詐欺グループかなにかだと思って何も期待をしていませんでした。しかし、そのあとASIA to JAPANの方と面談をしてからは、だんだん日本で就職できることへの期待とそのための準備のプロセスが明確になり、現実感がわいてきました。期待が膨らむ一方で、去年12月の面接会では企業に選ばれることができず、1月の来日型面接会の中止も決まり、とても落ち込みました。その中で遂に、今の内定先から選ばれた、という連絡をもらった際は、期待と緊張でいっぱいでした。ASIA to JAPANのスタッフのみなさんやメンターの方、そして先生に、企業へ提出する文章を見てもらったり、テストの対策をしたり、面接の質問内容を予想して回答を準備したりして対策をしてきました。
日本の採用が中国や欧米の採用と決定的に違うのは、今持っている実力よりも、その人の過去と企業とのマッチングから入社後のポテンシャルを見ている、ということです。その点も、日系企業の魅力だと私は考えています。その分、私にとってはとても難しかったのですが…(笑)特に、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)を書いたり話したりすることとウェブテストが難しかったです。特にガクチカを問い重要視するのは日系企業の特徴の一つでもありますが、外国人にとっては慣れないことで難しくもありました。ウェブテストは、日本語が母語でない私にとって限られた時間に日本語を使って思考するということが非常に難しかったです。そのため、YouTubeで対策動画をあさったり、攻略サイトを見たりして、たくさんの練習を積みました。また、実際に別の企業でテストを受けた時の経験は貴重なものでした。
今の内定先の最終面接のことは今でも覚えています。面接の前は極端に緊張していました。ここは自分にとって最後の正念場で、日本にまた行く、日本で働くという夢に近づく最後のステップを前にしてとても不安でした。その時に、ASIA to JAPANの方からの「丁さんはありのままの自分を出せばOKですよ」という言葉でとても安堵し、背中を押してもらったことは今でも忘れません。面接が終わった後も、結果について不安でいっぱいだったのですが、担当の方に「丁さんは今日言いたいことが全部言えましたか」と問われ、自分は全部出し切った、自分の伝えたいことは全部伝えた、ということを自分で理解し、「結果にかかわらず、私の想いは全部伝えた、だから私は勝ったんだ!!」と強く思いました。内定です、と言われたときは本当に嬉しかったです。
–これからの目標とメッセージ –
内定はいただきましたが、卒業まであと1年あるので、正直まだ実感がわいていません。ですが、入社が本当に楽しみです。入社してからは、脱石油、および再生可能エネルギーと水素を利用したエネルギーのサプライチェーンの構築へ貢献したいと考えています。また、日本に行ったら、たくさん旅をして、日本のことももっと深く知りたいと思います。
日本への憧れはあるけれど一歩踏み出せない、そんな人がいたら、まずは自分の心に従ってみてほしいです。自分の正直な思い、自分自身の意思に向きあってほしいです。現実的ではない、とか、周りの目が気になるかもしれません。ですが、もしあなたが日本で働きたいという思いが少しでもあるならば、自分の想いを口に出してみれば、サポートしてくれる人はそこにいます。自分の夢に正面から向き合う勇気を出してみてください!