ASIA to JAPANは2024年、三重県桑名市と「外国人も働きやすく、住みやすいまちづくりの実現」に向けた包括連携協定を締結しました。
そして今年2月、同市に本社を置く扶桑工機株式会社に、協定締結後初となる高度外国人材が入社したことを記念し、桑名市長・伊藤徳宇さん、扶桑工機社長・服部 岳さん、ASIA to JAPAN代表・三瓶の3名が扶桑工機に集まり、懇談会を行いました。
本記事では、桑名市及び扶桑工機社が抱く外国人材採用への期待や今後の展望など、当日語られた内容の一部を編集してご紹介します。
三重県桑名市で「外国人材の受け入れ」を行う理由
ーー扶桑工機が外国人材採用をスタートした理由について教えてください。
服部:国内採用が非常に厳しい状況にあることがきっかけです。
当社ではグローバル展開をしており、その一環として、コロナ前にインド人を採用したことがありました。
彼は日本語が話せず、インドに戻る前提の一定期間の受け入れだったこともあり、英語が話せる社員でケアはしたものの、やはり語学の面で課題を感じたのが正直なところです。
その点、ASIA to JAPAN社の面接会では、日本語が堪能な外国人材を採用できます。
最初は本当に当社に来てくれるのだろうかという心配もあったのですが、2度の面接会参加をへて、オファーを出すことができました。
三瓶:ASIA to JAPANでは、日本で働きたい海外大学の学生に日本語授業を提供し、日本語がある程度話せるようになった段階で日本に招き、面接会に参加してもらっています。
日本語授業を受けている学生は、インドだけで約2000人。そのうち日本語で面接ができるレベルになる学生は200〜300人ですね。
服部:ASIA to JAPAN社からご紹介いただく外国人材は、日本で働きたい希望があり、かつ日本語が話せる人たちです。
採用はしやすかったと感じています。

ーー三重県桑名市では「外国人も働きやすく、住みやすいまちづくりの実現」に向けて取り組みを進めています。どういった背景があるのでしょうか。
伊藤:桑名市はものづくりの街として発展し、素晴らしい企業もたくさんあります。
そんな各社の話を聞いていると、やはり人材確保に大きな課題があることが見えて来ました。
実際に、桑名市の人口は13万8000人と減少傾向にあります。
その一方、どんどん増えているのが外国人の皆さんです。
2024年12月現在、57カ国・約6200人の外国人が桑名市に住んでいます。
そこで、桑名市の企業で働く外国人材を増やし、市が彼ら・彼女らの生活をサポートする体制を整えようと考えました。
現在は、世界に向けて開かれた桑名市として、多文化共生の環境整備を強化しようと取り組んでいます。
その一環として、昨年ASIA to JAPAN社と連携協定を結ばせていただきました。
ーー取り組みへの反響はいかがですか?
伊藤:外国人の皆さんを積極的に受け入れる時代が少し先にあるのだろうと、住民の皆さんがなんとなく思っていたところに、今回の取り組みがピタリとはまったように感じています。
「外国人の皆さんの力を借りないと地域が成り立たない」というのは、桑名市全体で共有し始めている課題だと思っています。
例えば、桑名市で一番大きなお祭り「石取祭」で山車を引いて街をねり歩くのですが、年々人手が足りません。それを手伝ってくれているのが、ベトナム人の皆さんです。
地域の清掃活動などでも、外国人の皆さんの力を借りています。
そうした中で、今回扶桑工機に協定後初となる高度外国人材第1号の方がご入社されたことを、とてもうれしく思っています。
日本語が話せれば、受け入れのハードルは下がる
ーー外国人材を採用し、受け入れることに不安を感じる企業は少なくありません。実際に採用を行ってみて、いかがでしたか?
服部:それほど問題はないと思っています。
今回入社いただいた方は、インドのSRM大学のコンピューターサイエンス学部で機械学習を勉強していた方です。
しっかりした日本語を話すことができ、面接も日本語で行いました。
面接には現場の社員も入り、「うちの部署でぜひ受け入れたい」という意向があっての採用です。
ご本人も「働きたい」と言ってくれたので、ハードルはあまり感じませんでしたね。
実際に2月に入社し、想像以上の歓迎ムードがあるのを感じています。
伊藤:懇談会前に入社された外国人材の方と顔合わせをしましたが、好青年で、何より日本語が上手で驚きました。
普通に会話ができ、あれだけコミュニケーションが取れれば、受け入れ側のハードルも下がるだろうと感じましたね。
服部:彼は誠実かつ真面目で、明るい人です。
いつもニコニコしていて、既存社員も温かく迎え入れてくれています。
今後は情報システム部で社内のインフラ整備やセキュリティ系の業務を担当してもらう予定ですが、大学で学んだ機械学習を生かしたいと、当社で実現したいことも語ってくれています。
いろいろなことに前向きに取り組んでくれそうな印象なので、一緒に頑張っていきたいですね。
伊藤:彼のように日本で働こうと思ってくれる人はありがたい存在です。
市としてもしっかりサポートしていきたいと思います。
ーー桑名市として、外国人材に対してどのようなサポートを行っているのでしょうか。
伊藤:新しい取り組みとして、市役所の1階に外国人支援コンシェルジュサービスを設置しました。
「やさしい日本語」での対応はもちろんですが、ポルトガル語、英語、ベトナム語、中国語の4言語への対応が可能となり、生活の不安や災害時の対応など、彼ら・彼女らの母語でも直接説明ができるようになりました。
伊藤:まだまだ取り組みを進めている最中ですが、さまざまな相談が寄せられていますので、外国人の皆さんのニーズを理解した上で、日本人にとっても外国人にとっても住みやすい街をつくっていきたいと思います。
外国人材の受け入れは原点に立ち返る機会
ーー外国人材を受け入れることは、社内にどのような影響を与えると思いますか?
服部:当社は基本的には日本人で構成されていて、お客さまの多くも日本企業です。
これまでは、あうんの呼吸が成り立つ場面も多くありました。
そこに外国人材が入ることで、教え方を見直したり、業務を整理したりと、「なぜそれをやるのか」という原点に立ち返る機会になるかなと思っています。
また、日本人の新卒社員の中には海外に興味がある人もいますので、外国人材との交流によって視野が広がることを期待しています。
そのためにも、まずは地道に風土をつくっていきたいですね。
4月には2人目の高度外国人材として機械設計のマレーシア人が入社予定ですので、引き続き準備を進めていきたいと思います。
ーー桑名市として、外国人の受け入れ強化を通じてどのような街にしていきたいでしょうか。
伊藤:「世界に向けて開かれた街にしていきたい」というのは、13年前の選挙で私が掲げた公約の一つです。
三重県は伊勢志摩サミットの開催もあり、グローバルに向けた取り組みを行ってきましたが、一時的なものになってしまっていたと振り返って思います。
この先必要なのは、外向きの国際化だけでなく、内なる国際化です。
桑名市に住んでいる外国人の皆さんがより暮らしやすい街づくりを進めることも、内なる国際化の大切な一歩です。
今回、「桑名で暮らし、桑名で働く」という、面でのサポートがようやくかたちになりました。
この動きを着実に続け、日本人からも外国人からも選んでいただける街にしていきたいと思っています。
三瓶:ASEANの人が住みたい国の首位は日本です(2024年5月25日 日本経済新聞)。
日本に来たい外国人はたくさんいて、ネックになっているのが仕事。
つまり働く場所さえあれば、ものすごい人数の外国人が日本に来られるのです。
我々はその環境を作るべく、優秀な外国人学生に日本語を教えることで、彼ら・彼女らを受け入れる企業を増やしていきたいと思います。
桑名市の先進的な取り組みをモデルケースに、他の自治体や地域にもこうした動きを広げていきたいですね。
外国人材採用にはトップのリーダーシップが不可欠
ーー最後に、外国人材の採用を検討している企業へメッセージをお願いします。
服部:今回の採用を通じて、日本語の能力が高い外国人材が想像以上にいることがわかりました。
継続的に取り組むメリットは大きいと感じています。
採用はゴールではなく、スタートラインです。
まずは入社いただいた外国人材が当社の一員として、そして桑名市の住民の一人として、やりがいを持って働き、生活していただけるような基盤づくりを早期に進めていきたいと思います。
今回の取り組みのモデルケースとなれるよう責任を持って、桑名市とASIA to JAPAN社との連携を密にしながら、3人目、4人目と、長く外国人材採用を続けることで、彼ら・彼女らと当社の成長がリンクする状態を目指したいと考えています。
そして、外国人材採用の文化が地域に根付くよう、当社としても発信をしていきたいと思います。
伊藤:扶桑工機さんに外国人材の方がご入社されたことをきっかけに、他の企業の皆さんも外国人材採用に興味を持ってくださるのではと思います。
ぜひ遠慮なく、市役所にご相談ください。
元気な桑名市をみんなでつくっていきましょう。
三瓶:2024年3月に初めて市長にお会いしてから、1年後にこのような成果が出ているというのは、まさにリーダーシップの賜物だと思います。
日本全体の人口に目を向けると、総人口のピークは2008年の1億2808万人で、2100年には約6000万人と、大正7年とほぼ同じ水準になると予測されています。
「就職白書2023」によると、目標人数の新卒社員を採用できた企業はわずか40.4%と、60%が予定人数を採用できていない状況です。
2001年から2022年までの21年間で、出生数は約34%減少。
大学進学率も2023年に頭打ちとなり、この先は大学生の人数も減っていきます。
要するに、国内採用が今よりしやすくなることはありません。
一方、世界を見れば、実は大学生は余っています。
日本の大学生は約400万人ですが、インドは約4000万人もいます。
インドでは大学生が供給過多の状態にあり、3〜4割が卒業後に就職できていません。
大卒の平均年収は80万円ほどであり、実は日本企業の一般的な新卒採用の枠組みで十分採用が可能です。
外国人材採用は、どこかのタイミングで必ずやらなければいけないことが目に見えています。
やる・やらないの選択肢ではなく、「いつからやるか」という状況です。
始めるには、リーダーシップが必要です。
全国の経営者の皆さん、自治体の皆さんには、ぜひリーダーシップを発揮し、一歩を踏み出していただきたいと思います。