EN

“外国人材ならでは”の経験や視点を生かすための「外国籍ネットワーク」とは?/東日本旅客鉄道

2月20日、ASIAtoJAPAN本社にて、グローバル採用とダイバーシティ推進に関するセミナーを行いました。テーマは『今なぜ、「海外大採用」を行うのか?』。大手2社の人事担当者に、外国人学生採用の狙いと課題についてお話いただきました。

 

ここでは東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)の人財戦略部人財育成ユニットマネージャー、尾上さやかさんの講演をご紹介します。

 

JR東日本の人財戦略部人財育成ユニットマネージャー尾上さやかさんによる講演

 

1987年に民営化されたJR東日本。社員数5万3200名、1日の利用者は1790万人にも上り、売上は連結で約3兆円、純利益は3000億円弱にもなる超大企業です。

 

事業内容は多岐に渡りますが、主な柱は輸送サービス、「くらしづくり(まちづくり)」を推進する生活サービス、そしてICカード「Suica」を軸としたIT・Suicaサービスの3つ。中でも「安全で安定した輸送」を提供している点が、外国人学生の関心を惹くといいます。

 

「外国人学生は『日本の鉄道は素晴らしい』と口を揃えておっしゃいます。海外では鉄道が時間通りに来なかったり、運休になっても連絡がなかったりしますが、日本の鉄道はとにかく正確で綺麗で快適。私自身、当たり前のように思っていたことが大きな魅力に映っているようです」

 

JR東日本の外国人社員の多くはアジア出身者ですが、最近では欧州やロシアなどからの入社もあるとのこと。将来的に母国に帰って鉄道敷設時にJR東日本での知見を生かしたい人、インバウンド戦略に携わりたい人、先進国の中でもいち早く少子高齢化が進む日本にJR東日本の事業を通じて向き合うことで、将来母国で役立てようとする人など、「応募者はさまざまな志を抱いている」と尾上さん。

 

同社が外国人材の採用を行うきっかけのひとつとなったのが、国際事業の展開。現在イギリスやミャンマー、インドネシア、タイ、インドなど、さまざまな国の鉄道事業に携わっています。

 

「現地とのコミュニケーションが増える中、これまで以上に外国人材の採用に向き合うべきなのではないか。そう考え、国際事業の進展に伴い2014年から本格的に外国人材の採用を始めました」

 

想定通り、国際事業を担う人材としての外国人社員への期待感は増している、と語る尾上さん。ただし、外国人材だからという理由だけで特別に国際事業に従事することはないと付け加えます。

 

「もちろん意欲と適性があれば積極的に国際事業に携わっていただきたいと思っていますし、事業を展開している国の出身者がプロジェクトに入ることは、当社にとって長い目で見たら必ずプラスになるはずです。ただ、国際事業に携わりたい人は日本人にもたくさんいます。語学力も十分すぎるくらいにある社員もいますから、『外国人材だから』を理由にしてしまうことが逆差別になってしまうと考えています」

 

外国人社員の目線で議論し、提言として報告する場を用意

 

外国人材の受け入れに関する課題は大きく2つ。1つ目は言葉の問題です。最初に鉄道のオペレーションを学んでから別の仕事にキャリアステップするため、英語ができれば日本語は不問というわけにもいきません。

 

外国人社員は社員全体の0.1%にすぎず、社内のコミュニケーションはもちろん、就業規則や社内試験なども日本語となり、「言葉の面で苦労をかけてしまっているのが現状」と尾上さん。

 

続けて2つ目の課題としてあげたのは、「外国人材ならではの経験や視点をどのように生かすのか」ということ。

 

「母国語が通じない国で働くには、相当な覚悟やメンタリティ、そして意欲が必要です。それらを持って当社に入った外国人社員に、“日本人と同じ”を求めるのは違う。悩ましいところだと思っています」

 

こうした外国人社員への対応を考えるなか「外国籍ネットワーク」という新しい取り組みが生まれたといいます。

 

「ある外国人新卒者から『どんな先輩が働いているか教えてほしい』という話があり、外国人の先輩と交流する機会として2018年に『外国籍ネットワーク』を立ち上げました。勤務時間内にこれまで4~5回開催しています」

 

「サービス品質の向上」「キャリア」といった仕事に関することから、住居や在留資格、コミュニケーションについてなど「日本で生活する上での困りごと」まで、毎回40名前後が任意で参加し、テーマごとに分かれて外国人社員の目線でさまざまなディスカッションを行っているという。

 

「それぞれ議論してもらったものは会社への提言として発表してもらっています。それを人事部長に報告してもらい、我々としてもきちんと受け止め、提言に基づいて改善すべきことがないか検討しています。2020年度も情報交換やお悩み相談、人事部門として解決すべき課題について考える場を設定していきたいと考えています」

 

JR東日本ではグループ経営ビジョン「変革2027」を遂行中。この中で国際事業のビジネスモデルの確立や、アジアを中心により豊かなライフスタイルを提供することを謳っています。

 

「外国人社員の力を存分に発揮してほしいと思っています。そのためにも、まずは会社に定着し、その上で能力を発揮し、やりがいを持って、できれば長く日本で働いてほしい。そしてJR東日本を好きになってもらって、万が一退職することがあっても、『JR東日本で働いてよかった』と言ってもらえるのが理想です。取り組みは道半ばですが、そんな思いで外国人材採用を推進しています」

この記事をシェアする!