「右肩上がり」の裏側にある実態とは?数字だけでは見えない、日本の外国人留学生を取り巻く課題
外国人留学生の数が再び増え、2024年には過去最多の33万人を突破しました。
人材の多様化を目指す企業にとっては、採用のチャンスが広がっているようにも見えます。
しかし、増加の中心は東南アジアから日本語学校へ入学する学生で、「学び」よりも「就労」が目的となっているケースも少なくありません。
一方、欧米などの優秀層は縮小傾向にあり、採用現場としては注意が必要です。
この記事では、留学生数の推移とその背景を整理しながら、採用側が知っておくべき最新のトレンドと課題をわかりやすく解説します。
■留学生数はコロナ禍を経て回復、再び増加傾向へ
・2024年は初めて30万人を超える
※出典:「2024(令和6)年度外国人留学生在籍状況調査結果・在学段階別推移」(日本学生支援機構)
(https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2025/04/2024_zaiseki_suii_22.pdf)
外国人留学生の数がコロナ禍を経て再び増加しています。
JASSOが先日公開した「2024(令和6)年度外国人留学生在籍状況調査結果」によると、2024年にはついに33万人を突破し、過去最多を記録しました。
留学生の数が戻ってきたという事実は、日本企業にとっても「グローバル人材採用のチャンスが広がった」と感じさせるかもしれません。
ただし、いま増えているのは必ずしも「日本の大学や大学院を卒業して、高度人材として就職を目指す学生」ばかりではありません。
・回復の中心はアジア諸国からの留学生
その内訳を見ると単純に喜べるものではありません。
全体としては右肩上がりの回復を見せる一方で、留学生の出身地域や来日目的には大きな偏りが生じており、「数」と「質」のバランスに課題が浮かび上がっています。
■増加の中心は日本語学校ルートの学生たち
・ネパール・ミャンマーを中心とした伸び
留学生数増加の主な要因となっているのが、日本語教育機関(日本語学校)への入学です。
※出典:「2024(令和6)年度外国人留学生在籍状況調査結果」(日本学生支援機構)
(https://www.studyinjapan.go.jp/ja/statistics/enrollment/data/2504301000.html)
※出典:「2024(令和6)年度 外国人留学生在籍状況調査結果」(日本学生支援機構)
(https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2025/04/data2024z.pdf)
2024年時点で、留学生336,708人のうち、約31%にあたる107,241人が日本語教育機関に在籍しています。
特に目立つのが、ネパール、ミャンマー、ベトナムといった南アジア・東南アジアからの来日です。
留学生で最も多い国が中国で全体の36.7%を占めますが、
2024年にはネパールからだけで64,816人が来日しており、続いてベトナムから40,323人、ミャンマーから16,596人で、
3カ国を合わせると36.1%、中国も含めた4カ国では6割以上を占めています。
・「留学」の名を借りた短期労働目的の増加傾向
この背景には、「留学」を名目とした就労目的の渡航が存在しています。
日本語学校に通うことで「留学ビザ」を取得し、資格外活動として週28時間以内のアルバイトが可能となるため「働けるビザ」として一部の学生たちに認知されています。
そのため日本語学校への留学は「働きながら滞在する」手段となっているケースも少なくありません。
もちろん、日本語を学び、日本の大学や専門学校への進学を目指す学生も多数います。
しかし、実態としては学業よりも就労に重きを置く“留学”が一定数存在しているのが現状です。
こうした傾向は、日本語学校の質や経営体制のばらつきという課題とも密接に関係しています。
■欧米からの留学生はごくわずか
・欧米諸国からの留学生はわずか2.2%
一方で、欧米諸国からの留学生は、全体的に増加しているものの、出身国上位20国を合計しても全体の2.2%とごくわずかです。
その要因には、母国までの距離や、言語の壁があると考えます。
たとえば、日本の大学は日本語での講義がほとんどを占めます。
日本語能力が芳しくないと授業について行けず苦労します。
一方で高度な専門分野を学ぶ場合は、英語での学習環境が充実している欧米の大学を選ぶ傾向が強いでしょう。
また、日本からの留学先としてアメリカは人気ですが、フライト時間は直行便でも10時間近くかかります。
逆に、アメリカ人が日本留学した場合、高額な移動費と母国まで10時間以上かかることを考えると、学生にとって気楽に帰国できません。
そういった面からも、日本留学を選択する人が少ないのではないでしょうか。
こうした中で、日本企業が欧米出身の優秀な留学生を呼び込むには、至難であることが予想できます。
■留学生の「数」と「質」をどう捉えるべきか
・単なる人数増では語れない、留学生の質
数の回復は良いニュースですが、企業が注目すべきは「どのような学生が来ているのか」という点です。
就職を視野に入れて日本の大学・大学院・専門学校でしっかりと学び、日本語能力やビジネス理解を身につけた学生も多く存在していますが、その割合が相対的に減ってきていることには注意が必要です。
また、日本語学校からの進学ルートをたどる学生は、経済的に厳しい状況に置かれていることも多く、学業との両立が難しいこともしばしばです。
受け入れ側の教育機関によってサポート体制の差も大きく、質のばらつきが懸念されています。
・大学別に見る留学生数の傾向
JASSOの統計によれば、大学や大学院に在籍する外国人留学生は2024年時点で145,636人と、全体の約43%を占めています。
このうち、国立への在籍は約45,255人、公立への在籍は3,895人、私立大学には96,486人が在籍しています。
私立大学が留学生の大多数を受け入れている構図は変わっていませんが、近年は一部の大学に偏りが見られるのが実情です。
特に、留学生受け入れに積極的な私立大学や、専門職大学などに集中しており、地方の中小規模大学では受け入れ数が伸び悩むケースもあります。
実際に、受け入れ人数上位32校の大学での増減をみると、全体で3,431人増加している一方で、
旧帝大や早慶上理レベル以上の大学では、受け入れ合計数は-237人と大幅な減少が見られます。
※出典:「2024(令和6)年度 外国人留学生在籍状況調査結果」(日本学生支援機構)
(https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2025/04/data2024z.pdf)
専攻で確認すると、日本語学部や学科がカテゴライズされる人文科学の人気が高く、前年から24,195人も急増している一方で、理系学部の伸びは工学部以外が減少傾向にあります。
■採用を見据える企業が今知っておきたいこと
・大学や専攻で“見極め”が必要に
留学生の受け入れが積極的な一部大学に学生が集中する傾向もあり、「どの学校で、どんなことを学んできたのか」を丁寧に見る必要があります。
専門性が自社業務に合っているか、日本語力やビジネスマナーをどれだけ身につけているか、といった点も評価の基準になります。
・留学生就活の“情報格差”
日本の就職活動は、海外の学生にとってはまだまだハードルが高いのが現実です。
優秀な成績を収めていても、時期や文化の違いで戸惑うことも多く「情報を得られず就職できなかった」というケースもあります。
企業側から積極的に情報発信することが、学生との接点を増やすきっかけになります。
■留学生採用の“次の一手”を考える
留学生の数が増えているというニュースを見て、「採用のチャンスが広がった」と期待する声もあるかもしれません。
ただし、単純に母数が増えた=優秀な人材が増えたとは限らない、という点には注意が必要です。
実際のところ、日本に来ているすべての留学生が即戦力になるとは限りません。
もちろん日本の大学や大学院でしっかり学び、地道に努力を重ねて結果を出している学生も確実にいます。
そうした人材と出会うためには、早い段階で接点をつくり、相互理解を深めていく姿勢が欠かせません。
とはいえ、現実として「留学生だけで採用ニーズをすべて満たす」のは難しいのが現状です。
企業にとっては、視野をもう一歩広げることも大切です。
そこで注目したいのが、海外にいる現地の人材です。
現地で日本語や日本文化を学び、働く意欲を持っている学生たちに、企業が直接アプローチする動きも増えています。
国内にいる留学生とあわせて、「海外の就活生」も選択肢に入れることで、より多様で可能性のある人材に出会えるチャンスが広がっていくはずです。
■まとめ
日本で学ぶ留学生の状況は、年々変化しています。
最新の調査結果は2024年度の情報ですが、2025年も同様の傾向がより強く出てくることが予想されます。
数字だけに捉われず、内情を理解した上で最適な採用プロセスを進めていくことが、留学生採用を検討する企業には必要と言えるでしょう。
私たちASIA to JAPANは、日本で働くことを目指す外国人学生と日本企業との最適な出会いをつくることをミッションに、単なる“採用支援”にとどまらず、双方にとって価値あるマッチングを通じて、企業の未来と個人のキャリアを支えていきます。
これからの採用戦略を見直すうえで、外国人材採用に少しでもご関心をお持ちいただけたなら、まずはASIA to JAPANへ気軽にお問い合わせください。