【出張レポート | タイ】 「日本で働く=おトク」はもう古い?物価は日本並み、給与は3分の2――タイ人材採用のリアル

【出張レポート | タイ】「日本で働く=おトク」はもう古い?物価は日本並み、給与は3分の2――タイ人材採用のリアル

2026年7月、ASIA to JAPAN代表・三瓶がタイの現地大学を訪問しました。訪問先はチェンマイ大学、KMITL(キングモンクット工科大学ラートクラバン校)、コンケン大学の3校で、いずれも2025年7月の前回訪問時と同じ大学です。各校の説明会には20〜30名ほどの学生が集まり、日本への関心の高さは変わらず健在でした。

前回のレポートでは、バーツ高による日本の相対的な魅力低下や、都市部トップ大学生の国内志向の高まりをお伝えしました。今回はその続きとして、現地で感じた物価・給与の実感値と、各大学のヒアリングから見えてきた「学生の定着」という課題についてお伝えします。

物価は日本並みなのに、給与は3分の2 ―現地で見た“変わるタイ” 

スターバックス1杯600〜700円、10年前とは変わった学生の日常 

食事面・住居面において、タイはアジアの中でも特に過ごしやすい国だと感じます。一方で、活動を始めた10年前と比べると、学生の持ち物はiPhoneMacに変わり、スターバックスを片手に説明会を聞く学生の姿も珍しくなくなりました。1600700円ほどのコーヒーが日常的に飲まれている様子からも、物価水準は日本とほとんど変わらない感覚になってきています。 

都心より地方が高給?日本語人材の給与に見る逆転構造

日本との大きな違いは、日本語人材の給与水準の「地域差」です。都心ほど日本語人材の給料は安く、地方ほど高くなる傾向があります。地方の方が人材ニーズが圧倒的に高い一方、都心は働きたい人材自体が多いため、企業側は比較的安く採用できるという構造です。

この傾向は日系企業に限らず、大学でも同様に見られます。 

給与水準は、一般的な条件で月10万円ほど、条件の良いところで月15万円ほどと、日本の3分の2程度まで上がってきています。物価が日本に近づく一方で給与が追いついていない構造のため、タイの学生を採用するハードルは年々高くなっていると感じます。それでも、日本のコンテンツ人気や訪日旅行者の増加を背景に、日本で働きたいと考える若者は増加傾向にあります。 

 

大学ヒアリングで見えた“定着”の壁 ―日本語学習をどう「続けさせる」か

チェンマイ大学:アジア言語の難易度と、日本語インターンシップ化という処方箋 

チェンマイ大学へのヒアリングでは、アジア圏の言語習得の難易度について興味深い指摘がありました。

タイ語・中国語・ミャンマー語はいずれも「声調」(同じ発音でも音の上げ下げによって意味が変わる仕組みで、日本語にはない概念)を持ち、タイ語は5段階、中国語は4段階、ミャンマー語は6段階の声調があり、発音の習得自体が難しいとされています。

一方、日本語は漢字の知識があれば比較的学びやすいとされる反面、「食べますか」と「召し上がりますか」のように、場面や相手に応じて表現を使い分ける敬語のハードルが高いという声もありました。 

タイは宗教・食文化上の制約が少なく製造業の工場も多いため、日本企業にとって比較的採用しやすい国とされています。

しかし、大学が日本語学習プログラムを導入しても、募集自体が難しい、あるいは学生の途中離脱が発生するという課題が共通しています。ある大学では定員25名を確保するために3大学にまたがって募集する必要があり、学生の約70%が途中でいなくなるという厳しい現状も明らかになりました。

日本就職には最低でもN3レベルの日本語能力が求められ、特にIT分野では業務自体が日本語で行われるため、語学力が不可欠とされています。 

この「途中離脱」への処方箋として挙がったのが、日本語学習のインターンシップ化です。

インドの私立大学では、4年生前期の半年間・450時間の日本語学習をインターンシップとして単位認定することで、学生の定着率を高める事例があります。「就職に直結せずとも、日本語学習自体に価値がある」という考え方のもとで機能しているモデルで、タイの大学、特に私立大学でも展開できるのではないか、というアイデアとして意見交換をしました。 

KMITL:日本語人材のすそ野は広がるも、企業とのマッチングがカギ 

KMITLでは、タイの学生約80名が200時間の日本語コースを修了し、うち50名がさらに200時間の追加コース(合計400時間)に進む予定です。日本語を学ぶ学生のすそ野は着実に広がっており、日本行きを強く希望する学生も多く見られます。ASIA to JAPANでは、こうした修了生の中から一部の学生に日本企業でインターンシップに参加してもらう案を大学側と調整しています。 

ヒアリングを通じて見えてきたのは、このインターンシップ参加者を絞り込む場面で、「日本語の成績上位者」だけを見るのではなく、企業の専門分野(機械・ITなど)と学生の専攻の一致を重視する必要があるという点です。

単純な語学力の優劣だけでなく、専門性のマッチングが採用の質を左右するという示唆は、日本企業側の選考基準を考えるうえでも参考になるポイントです。また、インターンの狭き門に入れなかった学生にも就職の機会は十分にあり、一定の日本語レベルに達していれば就職は可能という点も確認されました。 

コンケン大学:年収300万円という条件への率直な反応 

コンケン大学では、日本企業の働き方に学生側がどう合わせていくかが話題に上がりました。

中でも印象的だったのは、年収300万円という条件に対して学生から「よくない」という率直な意見が出たことです。給与・待遇条件の見直しと、日本式の働き方への理解促進が今後の課題です。 

まとめ 

今回の訪問で改めて感じたのは「日本で働きたい」という気持ちそのものは今も強く残っている一方で、その気持ちを実際の就職まで結びつける“仕組み”の設計が、以前にも増して重要になっているということです。 

物価が日本並みに近づき、給与の伸びがそれに追いつかない中で、タイ人材の採用ハードルは年々上がっています。

だからこそ、日本語学習を「単位・インターン」として評価し途中離脱を防ぐ仕組みや、都心よりも好条件になり得る地方勤務の魅力の打ち出し、そして学生の率直な反応(例:年収300万円への「よくない」という声)を踏まえた条件面の見直しが、今後の採用成否を左右すると考えています。 

ASIA to JAPANでは、こうした現地のリアルな声を企業の採用戦略に活かし、日本と海外の「まだ出会っていない」人材の架け橋として、今後もサポートを続けてまいります。 

タイ人材へのご関心や、大学へのアプローチ方法など気になることがありましたら、お気軽にASIA to JAPANへお問い合わせください。 

 

(参考)タイで訪問した大学 

チェンマイ大学(Chiang Mai UniversityCMU 

1964年、プミポン・アドゥンヤデート国王陛下の勅許によりタイ政府の政策と北部の人々の要望に基づいて設立された、タイ初の州立総合大学です。前身のチェンマイ医学校を引き継ぐ医学部は国内有数の規模と実績を誇ります。今回、エンジニアリング学部との間で年内を目標に初のMOU(協定書)締結が決まりました。 

キングモンクット工科大学ラートクラバン校(King Mongkut’s Institute of Technology LadkrabangKMITL 

日本政府の技術支援を受け、前身の電気通信訓練センターとして1960年に設立、4年後に大学へ改組された国立大学です。国内初の電気工学分野の博士課程を開設するなど工学分野のレベルの高さで知られ、東海大学との関係が深く、毎年100名近い学生が日本でのインターンシップに参加しています。 

コンケン大学(Khon Kaen UniversityKKU 

1964年、高等教育の地方分権を目的にタイ東北部の中心都市に設立された国立総合大学です。医学部・工学部・農学部の人気が高く、大学病院は東北地域の高度医療センターとしての役割も担っています。