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外国人雇用に関する法分野のスキルセット[コラム]杉田昌平弁護士

杉田昌平弁護士コラム

目次

外国人雇用に関する法律面で、疑問が生じたり、お困ごとに直面される人事担当者の方もいらっしゃるかと思います。
どういった法律を知っておくと、スムーズに業務を運ぶことができるのでしょうか。外国人雇用の専門家である杉田弁護士のコラムをお届けします。


杉田昌平弁護士
寄稿者
弁護士 杉田昌平(弁護士法人Global HR Strategy 代表社員)
詳しいご紹介はこちら


不思議と先々週、先週と、複数の箇所で外国人雇用に関する法分野のスキルセットについて検討する機会がありました。
丁度、弊法人でも資格手当を検討していることもあり、現状、弊法人で考えている外国人雇用に関する法分野のスキルセットの考え方を、なんとなくまとめてみようと思います。
(なお、私にそのスキルセットが備わっているというわけではなく、私も勉強中です。)

入管法と労働法の融合分野である

外国人雇用というと、どうしても入管法(出入国管理関係法令)に目がいきがちです。もちろん、入管法はとても重要で、外国人雇用分野の土台となる法律であることに疑問の余地はありません。

しかし、重要性でいうと、実は同程度に労働法(社会保障関係法令や労働市場関係法令を含む)も重要です。
現在、拡大が続いている在留資格「技能実習」や「特定技能」は、労働法的要素を多分に取り込んでいる在留資格です。そして、入管法における定め方と、労働法における定め方が一致しない部分が多々あります(例:特定技能制度における非自発的離職者など)。

また、例えば、派遣法における3年の抵触日と特定技能の在留期限の5年が一致しないといった労働市場関係法令でも、同様に法分野間において一致しない問題があります。

ここで重要だと思うのが、クライアントが困難に直面するのは、この入管法分野と労働法分野が重なる部分で、入管法と労働法が一致しない部分であることが多い点です。

入管法における問題は、入管法体系で整合が取れるようになっていて、労働法における問題は、労働法体系で整合がとれるようになっています(もちろんそうじゃないところもありますが)。

ですが、法分野を横断した瞬間、その整合が取れなくなるところが急に増え、かつ、監督官庁が不在になるわけです。
正確には、共管になるのでしょうが、例えば、官公署間で回答が異なることも少なくないわけです。

さて、そうすると、クライアントも困ります。片方の役所に聞いた回答ともう片方の役所に聞いた回答が異なれば、どちらに依拠して企業活動を行えば良いか判断がつきにくくなります。
そういった際に、法分野の所管を持たず入管法も労働法も対応できるから、外国人雇用分野の法律家というのは必要になるのだと思っています。

ですので、「入管法に詳しい」、「労働法に詳しい」だけではなく「入管法と労働法を理解した上でその交錯分野の問題に対応できる」が求められるスキルなんだと思います。

お勧めの研修[基礎編]

入管法×労働法の双方が重要で、さらに個別には技能実習法、労働安全衛生法、職安法、派遣法といった法律についても学ぶ必要があります。
弊法人では、所属してくれている弁護士、職員に次の研修の受講を推奨しています(受講費用を負担しています)。

・申請取次研修
・職業紹介責任者講習
・派遣元責任者講習
・監理責任者講習

これらの研修は、それぞれ、業務を行う際に受講が必要な研修ですが、入管法と労働法に関する事項を広く浅く知ることができます。

お勧めの資格[基礎編]

第一種衛生管理者の免許

上記の研修を受けた後にお勧めなのは、第一種衛生管理者の免許試験です。
労働法分野で重要でありながら手薄になりがちな法律として労働安全衛生法があります。しかし、現業職として働く技能実習生や特定技能外国人は、労働安全衛生法に関する問題が多く、技能実習計画の認定取消事由として多い理由の一つにも、労働安全衛生法違反による罰金刑があります。
労基法や最賃法などの労働関係法の基本を学びつつ、労働安全衛生法をある程度深く学ぶことができるので、第一種衛生管理者の免許試験は、外国人雇用分野と相性が良いと思います。
なお、試験が年に何回も行われていて、受験も比較的容易です。

プロへの道

行政書士試験

社会保険労務士試験

(司法試験)

上記の研修及び免許の次は、専門家として業務が遂行できるレベルを目指すとすると、この両資格を目指すことになると思います。
理想的には両資格のダブルライセンスが、外国人雇用分野については良いと思います。
なお、ダブルライセンスが良いというのは外国人雇用に限ったお話しで、イミグレーション分野でも、身分系では日本の親族相続法・国籍法、出身国の親族相続法・国籍法、法の通則法といった具合にスキルセットが全く異なると思います。

得意分野の形成

行政書士、社会保険労務士、(弁護士)になった後は、それぞれ、得意分野を形成していくと思います。
雇用関係助成金×外国人雇用等、様々に考えられますが、その他に弊法人の中では、次のような分野が必要だと考えています。

・送出国の法令
・公益法人、事業協同組合等の特殊法人のガバナンス
・入管法、労働法の特別刑法における刑事手続
・ビジネスと人権などの国際規範分野
・個人情報保護法等のデータ分野
・マネロンや資金移動を含めた金融分野
・不動産業や旅行業等の関連分野業法

これを1名の資格者がカバーするのはとても大変(無理)なので、それぞれのバックグランドを活かして、担当したいものを担当していく体制がいいのかな、と思っています。

業務の水準

また、弊法人で重要だと思っているのは、法分野のスキルセットだけではなく、企業法務を扱うというスキルセットです。
弊法人では、事業再編に伴う子会社と親会社の合併と、技能実習の在留資格や特定技能の在留資格の方の所属法人を変更する際の手続一切を代理する等、コーポレート・トランザクションに付随した業務を行っています。

ここで重要になるのは、当該トランザクションの全体構造を理解し、それぞれの過程で求められることとスケジュール感を共有でき、コンサルティング・ファーム等のプロジェクトメンバーと同じ言葉で話しができることだと思います。
この企業法務としての仕事の仕方は、そういった事務所に入って学ぶしかないと思います。

弊法人でいえば、企業法務を扱う事務所の出身者が複数いて、そこから内部でスキルを共有していくことで、全体的な底上げをしたいな、と考えています。
2021年は、とりあえず組織を作った年でしたが、2022年は、法人のカルチャーと目指す方向性を徐々に形作っていきたいと思っています。
今後とも、ご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。

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