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【セミナーレポート】実習生負担ゼロの技能実習制度に向けて~外国人材受入れ専門家・杉田弁護士が解説

目次

ASIAtoJAPANは10月3日、グローバル法務・労務の第一人者である杉田弁護士とwebセミナー「実習生負担ゼロの技能実習制度に向けて」を開催しました。

セミナーでは杉田弁護士より、なぜ技能実習生負担ゼロにする必要があるのか、どうして負担が発生するのかについて解説いただきました。本記事では、その一部をご紹介します。


トークテーマ:
なぜ技能実習生負担ゼロにする必要があるのか?
どうして負担が発生するのか?
どうしたら負担をなくすことができるのか?

登壇者:
弁護士法人Global HR Strategy 代表弁護士 杉田昌平氏

モデレーター:
株式会社ASIA to JAPAN 代表取締役, JGS協同組合 代表理事 三瓶 雅人

技能実習制度の問題点

昨今、技能実習制度の人権問題や、その仕組みについて非難されることが増えています。

経済産業省から令和4年9月付で「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が公表されました。
日本政府は「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しました(経済産業省)

ガイドラインでは技能実習制度について言及され、多くの実習生が借金を抱え来日している現状から脱却する必要性が示唆されています。ガイドラインの「負の影響の防止・軽減」において、自社のサプライヤーを含め人権の負の影響を軽減・防止に取り組むことを示しています。

杉田弁護士より技能実習生の負担ゼロについて解説をいただく前に、オープニングトークとしてASIA to JAPAN 代表取締役, JGS協同組合 代表理事 三瓶より技能実習制度の目指すべき姿についてお話しいたしました。

三瓶:技能実習自体は正しく運用されれば、よくできた制度です。問題なのは、サプライチェーンに関与する人の中でルールを守れない人が入ってきてしまうことです。
杉田先生とのお話の中で
●国を選べば、借金をしないスキームを作ることができる
●業種を選べば失踪をなくすことができる
●問題意識を持った人だけで回すサプライチェーンを構築する
これらが実現すれば技能実習はよい制度であることを知りました。私が代表理事を努めますJGS協同組合としても社会課題の解決として今後、取り組んでいきたいと考えています。
目指すべきものは「ゼロ人権リスク、実習生ゼロフィー」です。きちんと運用を守ることを徹底して今後取り組んでまいります。

 

なぜ技能実習生負担ゼロにする必要があるのか?

杉田弁護士より技能実習生の負担ゼロを目指す必要性について、CSRや国際的な基準の側面から解説いただきました。

杉田弁護士:技能実習制度は、送り出し国の法令と受け入れ国の法令それぞれを守って受け入れをしています。それに加えて国際基準が適用されます。大手企業がサプライヤーとの間で、CSR条項を含む調達に関する契約締結をする機会が増えてきています。(中略)つまり「サプライヤーは行動規範(Code of Conduct)を守って、事業を運営し部品等を製造して納めてください」という内容の契約書がよく見られます。

CSR条項にはResponsible Business Alliance(RBA)などの国際NGOの行動規範(Code of Conduct)に類するものが引用されています。RBAの行動規範には「外国人労働者が就労のために費用を負担することがないこと」が求められています。

杉田弁護士:技能実習生は訪日に関する費用を負担して日本へ来ています。そのうち一部は借金として負担して来ているわけです。訪日費用の負担先は送り出し機関の場合もあればそれ以外の事業者もある、さまざまなところから負担しています。このような技能実習生の費用負担について返金せよという点が問題になっています。

実際に大手飲食業者が取引先へ監査を行い、技能実習生の費用負担が発覚したケースがあります。両社間の契約で引用されているCSR条項および調達基準に基づき、大手飲食業者は取引先へ技能実習生が負担した費用の返金を求めました。最終的に、取引業者は今後の取引を重視し技能実習生の来日にあたる費用負担を返金することになりました。

 

技能実習生負担が発生する背景

来日前の負担費用

令和4年7月26日に出入国在留管理庁より「技能実習生の支払い費用に関する実態調査の結果について」公表されました。調査によると送出機関又は仲介者(送出機関以外)に来日前に支払った費用の総額の平均値は54万2,311円、来日にあたり高額な費用を負担していることがわかります。

国別の平均値は、次のとおりです。

もっとも高額な国はベトナム(約68万円)、一方でもっとも費用の支払いが少ない国はフィリピン(約9万円)です。

また、出入国在留管理庁の調査ではアンケート対象の技能実習生のうち約55%が来日費用を負担するために母国で借金をしていると報告されています。

借金は金融機関からの借入のほか、親族からお金を借りて来日するというケースも見られます。国別の借金の平均値は次のとおりです。

杉田弁護士:この来日に関する費用負担は、国際労働市場において相当高いです。また技能実習生として来日するには準備期間としても6ヶ月ほどかかります。移動に関する費用や期間を考えると、日本はもっとも移動するのが難しいホスト国のグループに属しています。

 

来日費用が高額になる背景

来日費用がこれだけ高額になる背景には、来日前に関わる仲介者の存在があります。技能実習生は自由に来日できるわけではなく、出身国の送出機関や日本の監理団体を通して日本へ来ます。

技能実習生は所得が低い農村地域出身であることが多い一方で、送出機関は都市部に集中しています。そのため日本へ行くためには、まず農村地域から都市部への移動が発生します。こうした過程で仲介となる費用が発生し、来日費用が積み上がっていきます。

 

なぜ費用負担をしてでも来日するのか?

日本は賃金が下がり続け、働き先として魅力度が下がっているという世間のイメージがあります。しかし実態としては、日本は国際労働市場において「選ばれている国」です。2019年の国際労働市場では、次の図のとおりアジア各国から日本へ労働者の移動がありました。

杉田弁護士:日本は移動に関する準備期間と費用が非常にかかる国です。そういったコストを負担してでも日本はホスト国(目的国)として選ばれています。ホスト国としての経済力の強さと安全性があるのだと思います。

費用負担が大きくても来日する背景には、東南アジア諸国をはじめとする技能実習生の送り出し国に仕事が少ないことと日本の賃金の高さがあります。そのため日本行きがプレミアチケット化しており、来日費用が高くなってしまうという側面も考えられます。

 

どうしたら技能実習生負担をなくすことができるのか?

前項でRBAの行動規範を採用する企業のサプライヤーが、RBAの行動規範を含むCSR条項により技能実習生が負担した費用の返金をしたケースをご紹介しました。しかし単に費用を負担することが、技能実習生の負担に関する問題の根本的な解決になるのかという点を考えていく必要があります。

なぜなら、費用を負担することで自営業の募集人や違法な送出機関といった仲介者が利する状況になるためです。この仕組みを理解した上で、どうしていくべきか判断が求められます。

具体的には次の対処を行うことができます。

  • 送出国・ホスト国の法令遵守のラインを把握し、コンプライアンスとして達成すべきラインを確認する
  • 自社の人権方針を決め、どの水準まで権利保障をを意思決定する
  • ゼロフィーを行うと意思決定をする場合、信頼できるパートナー(送出機関、監理団体)と行い、継続的なモニタリングと根本的な問題解決とセットで行う

 

杉田弁護士:移住労働者の問題は「技能実習生制度」など制度を理由にしても解決にはなりません。移住労働者の脆弱性を見ていく必要があります。大きな脆弱性は訪日費用の負担ですので、これを取り除く活動は重要です。ただ、移住労働者の脆弱性自体は無くならないものですので、脆弱性を利用しない、利用させない仕組みが大切です。端的に言えば「言うことを聞かないなら帰国させる」、このようなことを言わない、言わせないことが重要です。

技能実習生の負担ゼロを目指すには、送出機関、監理団体、企業のパートナーすべてが問題解決を目指す姿勢と行動が求められます。

上記3点の問題解決を目指したい、もう少し詳しく話を聞きたい企業様は、JGS協同組合にぜひお気軽にご相談ください。

JGS協同組合

 

 

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