いつから外国人材を採用していますか?
約15年前にアルバイトとしてたまたま中国人の方が入社したのが最初だったと思いますが、積極的に始めたのは約 5 年前です。国内のDXブームなどによって採用競争が激化し、従来どおりの採用活動ではエンジニアの採用が難しくなってきたことと、事業の競争性を高めるために多様性のある組織を目指す重要性を感じていたため、積極的に外国人材を採用し始めました。
貴社では2021年卒から新卒採用を始めています。新卒採用でも外国人材を積極的に採用しているのでしょうか?
国籍問わず募集はしていますが、初年度は特に意識していませんでした。コロナ禍で新卒採用を抑える企業が多かったこともあり、優秀な日本の学生からの応募が思った以上にあったのです。
ただ、2 年目以降は新卒採用を再開する企業が増えたことで、特にエンジニアの採用が思うようにいかなくなって、困っていた時に社員から紹介してもらったのがASIA to JAPANでした。日本語が話せる新卒の外国人材を紹介いただけると聞き、それであれば何の問題もないだろうと。
外国人材の採用をするにあたり、日本語力はどの程度求めていますか?
基本的には最低N 3 を基準とし、実際の会話力を面接で確認しています。エンジニアであれば、日本語が多少片言でも大きな問題はありません。プログラミング言語や技術用語を用いて会話すれば通じやすいですし、テキストのやり取りが多く、社外とのやり取りも少ないからです。
日本語力以外に、日本人と外国人材で選考基準や評価軸に違いはありますか?
動機の部分は少し異なりますね。外国人材の場合、当社で働きたい理由はあまり見ず、「なぜ日本で働きたいのか」「日本でエンジニアとしてどのようなキャリアを積みたいのか」を聞き、「その機会を当社が提供できるか」という視点を重視して判断しています。
一方で、日本の学生を選考する場合は「なぜ当社なのか」を最も重視しますが、この違いは選択肢の量が違うからです。日本人が日本で就職先を選ぶときには多数の選択肢があるので、「あえてこの会社を選ぶ理由」が相性を見極める上で重要になります。一方の外国人材は日本における就業先の選択肢が限られますし、当社のことを調べようにも日本語の資料しか
なく、分からないことも多いでしょう。
あとは、外国人材の場合は「就職先が福岡で大丈夫か」も確認します。外国人でも知っている「東京」や「京都」のような都市ではないので。ただ、福岡は交通の利便性が高いですし、外国人コミュニティもあるので、暮らしやすいとは思います。
日本人と外国人材を比較した時に、何か特徴や傾向の違いを感じることはありますか?
三つあります。一つ目は、キャリア意識の強さです。「日本に来て仕事をする外国人材」の特徴だと思いますが、自分のキャリア構築を中長期の目線でしっかり考えている人が多く、また競争意識も強い印象があります。特に当社の外国人材は、母国のトップ層にあたる大学出身者が多く、業務でうまくいかないことがあると、人一倍勉強して乗り越えるので、その姿を見て他のメンバーも刺激を受けて頑張る。そんな良い相乗効果が生まれています。
二つ目は、実践経験があることです。当社で働く新卒の外国人材のほとんどが大学在学中や卒業後にインターンを当然のようにしています。日本人の場合は社会に出て初めて実務経験を積むことが多く、「実際に入社してみたら開発業務が合わなかった」なんてことが起こるリスクが低くありません。インターンで実務を経験している場合は、その業務を中心としたキャリアを築くことに自信を持てているので、この心配があまりないように思います。
三つ目は自己アピールの仕方です。日本人は、知識や経歴を控えめにアピールする方が多い印象ですが、外国人材は、積極的にアピールする方が多いように感じています。例えば、エンジニアが「フルスタックエンジニア」とレジュメに書く場合、日本人だと、フロントエンド開発からバックエンド開発、サーバーの構築や運用などの色々な領域に高い知見と経験を有さないと書かないことが多いのですが、外国人材は、少し経験しただけでも「フルスタックエンジニア」と書いているケースが珍しくありません。外国人材採用を始めた当初は、文字どおりに受け取ってしまってギャップが生じることもあったので、書面を見てなんとなく分かったつもりになるのではなく、面接などでスキルのレベル感をしっかり確認しておく必要があると感じます。
新卒と中途で、外国人材の採用に違いはありますか?
中途の場合は、当社に入社する前から日本に住んでいる方を採用してきました。既に日本での生活基盤がありますから、日本人と同じように扱い、外国人材だからといって特別なことはしていません。
一方で新卒の場合は、海外在住者も含めて採用しているので、そういった方に対しては、日本での生活を始めるためのサポートをしています。日本人でも、就職後に東京から福岡に生活の拠点を変えて新生活を始める際は不安に思うのに、これが海外からとなればなおさらですから。
入社をきっかけに来日したメンバーの一部は、ホームシックになったこともあったようです。我々も新卒で海外在住の外国人材を採用するのが初めてで、ケアしきれなかったという反省があります。生活を始める際の最初の部分を可能な限りサポートし、その後は他の日本人と同じようにしていたのですが、あとから聞いたら何をするにしても方法が分からない状態がしばらく続いていたようです。
幸い同期と仲が良く、プライベートで遊ぶことも多いと聞いていますし、配属先のメンバーには外国人材がそれなりにいることもあり、ウェルカムな雰囲気です。外国人材ならではの悩みや困り事もある程度分かっていますので、そこは安心感がありますね。
会社に馴染んでもらうための工夫としては、リアルでの関わりの少なさをカバーするためのレクリエーションを 2 〜3か月に 1 回、人事で企画しています。ただ、当社はリモートワークがメインで現在は週 1 の出社が基本ですので、外国人材に向けて行っているイベントではありません。加えて、忘年会など日本の伝統的なイベントを体験する機会もありますので、外国出身のメンバーにとっては新鮮かもしれません(笑)
2022年、2023年とそれぞれ 2 名、合計 4 名の外国人材が新卒社員として入社しました。仕事ぶりはいかがでしょうか?
想像以上に優秀です。海外の教育は日本より実践的な印象で、インターンなどで実務経験も積んでいるので、キャッチアップが早いです。実務経験がある分、新卒新入社員向けの研修を嫌がられるかと思ったのですが、真面目に取り組んでくれて、良い意味で驚きました。
例えば、社員総会のサポートメンバーを公募したら、当時新卒 1 年目の外国籍のメンバーが手を上げてくれました。「社内横断のプロジェクトにはできるだけ参加したい」と言っていて、素晴らしい積極性ですよね。
きっと本人たちには困り事がいろいろあるのだと思いますが、我々からすると大変だったことは今のところほとんどありません。日本語も上手ですし、むしろ「山田さんは何で英語を話さないんですか?当社はもっと英語を使った方がいいと思います」と指摘され、耳が痛かったくらいです。
外国人材に求める日本語能力の基準を緩和できれば採用の幅が広がりますし、今後日本だけで多くのソフトウェアエンジニアを採用するのはさらに厳しくなるでしょうから、将来的には日本語能力が高くない人も採用できるようにしなければという危機感があります。現在は会社でのTOEIC受験をサポートするなどして、英語学習の機運を高めようとしているところですね。
外国人材採用をするにあたり、早期退職を懸念する企業の声もあります。その点はどう考えていますか?
当社は幸いにも、21卒から23卒に至るまで、離職した新卒社員が一人もいないのですが、今は日本人でも新卒入社後 3 〜5年で転職することは一般的ですので、外国人材だから早期退職を懸念するというのはないです。もちろん長く当社で活躍してほしいとは思いますが、いずれ卒業していくことは覚悟しています。
大前提として、辞めてしまうのは悲しいですし、長く一緒に働きたい思いはありますが、エンジニアは国籍関係なく流動性が高まっています。ですから「仕方がないよね」というスタンスで受け入れつつ、退職後の良い関係性を築くことを考えたいですね。ずっといてくれる期待を勝手にして、退職したときに裏切られた気持ちになり、お互いに徒労感だけ残る、みたいな状況だけは避けたいと思っています。
当社の社長もよく言っていますが、「当社を卒業した外国出身のメンバーが母国で会社をつくり、そこで一緒に仕事ができるような関係を築けることが一つの理想」だと思っています。他にも当社で海外子会社をつくったり、海外進出したりする際に一緒にできるといいですね。現地の文化をよく知る人にアドバンテージがありますから、外国人材採用の先にそういう事例が出てくることを期待しています。
外国人材の新卒採用はハードルが高いと感じる企業も多いです。実際にしてみてどうでしたか?
思った以上に低かったです。これほど日本語が話せる人がいるとは思わなかったですね。ハードルの高さを感じる企業の多くが言語の壁を懸念していると思いますが、1 〜2人の採用なら、ある程度日本語を話せる方に絞って採用すれば何の問題もないのではないでしょうか。
また、先日採用が決定した外国籍の学生は、大学の先輩が当社に新卒で入社して働いており、その社員から「良い会社だよ」と聞いていたようで、面接の時点で「この会社で働きたいです」と積極的でした。こういった循環ができるのも良い点だと思います。
そして何より外国人材の採用活動は通常の採用活動と違う楽しさがあります。採用活動でも、一緒に働く中でも、当たり前と思っていることを見直すきっかけがたくさんあります。なあなあになってしまっている部分に対して、「なぜ?」と問いかけられることで発見がある。そうして様々な人と関わり、仕事に生かすのは面白いですから、尻込みする理由はないと思います。
当社としては、これからいろいろなバックボーンや個性を持つ人材をもっと増やしたいと考えています。現在、社会的にソフトウェア開発現場の最も大きな課題の一つは人材確保ですから、外国人材や女性など、多様な人がいることが魅力かつ安心材料になり、多くの人が「この会社には自分が自分らしく働ける環境がある」と思えることにつながると思っています。
事業競争力を保ち、さらに向上させるには、外国人材の積極的な採用と活躍などによる人材の多様化は必須です。当社で働く外国籍のメンバーの出身地はアジアが中心ですが、ヨーロッパや南米など、今後はいろいろな国の人と一緒に働き、さらに多様な考え方を取り入れていきたいですね。