現在、外国人メンバーは何名いますか?
柴田:役員 2 名と従業員 3 名で、全員インドの方です。
行岡:当社は2015年10月にインドのマヒンドラ&マヒンドラ社と協業し、外資系総合農機メーカーとして新たに歩み始めました。CFO(最高財務責任者)はマヒンドラ&マヒンドラ社からの出向者ですし、島根オペレーションを統括しているCOO(最高執行責任者)も同社エンジン部門で最高責任者だった人です。
2018年からの約 3 年間はマヒンドラ&マヒンドラ社と共同開発を行い、多い時は45人ほどのインド人技術者が当社所在地の松江市東出雲町に滞在していました。共同開発が一区切りついた2020年には帰国しましたが、その後も国内の別の企業で就労していた技術者の中には、当社でもう一度働きたいと入社された方もいます。
柴田:一方、マヒンドラ&マヒンドラ社とは関係なく、当社が独自に外国人材採用を始めたのはここ数年のことです。最初は国内の留学生をターゲットに採用活動をしていましたが、なかなかご縁がなく、2022年から海外在住の外国人材採用を始めました。
なぜ外国人材採用を始めたのでしょうか?
柴田:大きく二つの背景があります。まず一つは人材確保。今は国内採用の難易度が上がり、特に開発系の理系人材は引く手数多です。さらに、当社の場合は県外から島根に来ていただくハードルもあります。もう一つは企業風土の改革です。多様性を確保することで風土を変えていきたいという思いがあります。現状は島根の人材が多いですが、外国人材や女性、障がい者など、様々な人材が一緒に働くことで生まれるものは大きいですから。
行岡:多様な人材交流をきっかけにお互いの文化や意見の摩擦が生まれ、そこから新しいものが生まれていく。それが変革だと思っています。今後はもっとお互いが積極的に議論をする会社にしなければいけませんし、それはマヒンドラ&マヒンドラ社の期待でもあります。外国人材との交流は、その点でプラスに働くと思っています。外国人材を相手に「推して知るべし」という態度では成り立ちませんから。そうやって活発な議論が生まれ、会社の成長につながるような変革が起こせればと考えています。
外国人材採用はどのように行いましたか?
柴田:ASIA to JAPANの方と打ち合わせをし、マッチングをしていただきました。様々な国籍の方の書類とPR動画を10名以上拝見し、その中で最初にウェブ面接をし、採用したのが2023年 4 月に入社したシルパさんです。ぜひ採用したいと思い、シルパさんも入社の意思を示してくれたのでスムーズに採用が決まりました。
彼女はドラマや音楽をきっかけに日本への強い憧れを持っていて、コロナ禍でもインドの日本企業でインターンを経験するなど、ずっと日本で働く機会を窺っていたそうです。マヒンドラ&マヒンドラ社はインドの有名企業ですので、憧れの日本で働くにあたり、インド企業と関係がある会社で働けることへの安心感があったようです。また、インドは農業大国ですので、農機メーカーという点も魅力に映ったようです。
行岡:面接は日本語で行いましたが、語学力が理由で本人の力が発揮できないのはもったいないので、「日本語で表現しきれないところは英語でいいですよ」と伝えていました。ところが、シルパさんは実によく日本語を勉強していましたね。「本当に日本に来たことないの?」という高いレベルの日本語力で、しかも独学というから驚きました。
正直、大学で行った実験自体は初歩的な内容でしたが、努力する姿勢を高く評価しましたね。微笑ましくも思いましたし、そこに技術本部長はじめ、選考に関わった当社の人間は好印象を抱きました。
柴田:趣味は歌と聞いたので「何か日本の曲を知っていますか?」と面接で聞いたら、菅田将暉さんの曲を一節歌ってくれました(笑)。そういう明るさや人懐っこさ、度胸みたいなところがとても良かったですね。
外国人材採用について、日本人採用と異なる点はありましたか?
柴田:採用の仕方については特に違いを感じませんでした。国内採用でもオンライン面接をしていますので、海外だからといって距離を感じることもなかったです。
行岡:選考で見るポイントの違いは、日本文化や日本語への順応力ですね。そこはどうしても気になります。その点、シルパさんは会話ができるレベルの日本語を独学で習得し、日本文化に対する興味や憧れも非常に強い。日本人以上に日本人らしいと感じるところもあるくらいですので、懸念はありませんでした。
それ以外の評価軸は日本人と同じです。新卒採用は入社後の教育を経て一人前になっていくので、本人の素直さや学ぶ姿勢が重要です。それによって教える側の熱の入り方も変わりますから。そういう意味でも、シルパさんは素晴らしかったですね。
外国人材の採用をするにあたり、早期離職を懸念する人もいます。その点はどのように考えていますか?
柴田:シルパさん自身は長く働きたい意思を示してくれていますが、何かしらの事情で本国に帰ることもあるかもしれませんし、離職の懸念はあると思っています。ただ、それは日本人であっても同じことです。世の中全体の入社 3 年以内の離職率は上がっていますし、1 社で勤め上げるという考え方も薄れていますので、外国人材だから早く辞めてしまうということはないと思っています。
むしろ「この会社で長く働きたい」と思ってもらえる会社になる企業側の努力が必要です。仕事の面白さはもちろん、企業を選ぶ際に待遇はとても重要ですので、2023年 4 月には新卒社員の初任給を大幅に引き上げました。それが当社の魅力の一つになればと思いますし、そうやって選ばれる会社にしていきたいと考えています。
面接は日本語で行ったとのことですが、どのくらいの日本語力を求めていたのでしょうか?
柴田:社内で英語を話せる人は 1 割程度と少ないので、ある程度のコミュニケーションがとれるレベルの日本語力は求めていました。
行岡:個人的にはあいさつと自己紹介ができれば十分かなと思いますね。技術者には共通言語がありますし、技術本部のメンバーはインド人技術者と共同開発をしていたので、そのあたりは慣れてもいます。2015年にマヒンドラ&マヒンドラ社と協業を始めて以来、基本的な資料は全て日英表記ですし、日常的にウェブミーティングでインドとつながり、社内では英語が飛び交っています。そういう意味では、外国人材を受け入れる土壌はそれなりにあると思いますね。
外国人材採用を始めるにあたり、事前に準備したことはありますか?
柴田:特別なことはしていません。英語対応のパソコンを用意したくらいでしょうか。今回採用したのは 1 名ですので、引っ越しの手伝いや市内の案内、各種登録や銀行口座の開設など、生活準備は人事課が一緒に行いました。
振り返って、入社前にしておいてよかったことはありますか?
柴田:まずは日本語教育ですね。シルパさんには入社までの期間中、インドで日本語授業を受けていただきました。本人も熱心に勉強してくださり、おかげでより日本語力を向上させた状態で入社できたのではと思います。
あとは、入社前に何度か交流の機会を持ったこともよかったと思います。内定者のオンライン交流会を行ったことで、同期同士が「初めまして」ではなく「久しぶり」からコミュニケーションを始めることができました。同期はグループ会社を含めて 6 名います。シルパさん以外は全員日本人ですが、休日にバーベキューをしたり、同期の家に集まって遊んだり、とても仲良くしています。
他に、オンライン面談で何名かの社員とざっくばらんに話す機会も設けました。そこで疑問や不安を解消し、日本で働くイメージを持ってもらえたように思います。
入社前のオンライン面談ではどのような質問があったのでしょうか?
行岡:例えば「スーツを着た方がいいですか?」という質問がありました。彼女は日本の新入社員がスーツを着ることが多いと知っていたので、気になったのでしょうね。当社としては服装は何でもいいと思っていましたが、日本企業の慣習や同期に合わせてスーツを着ることで、会社に馴染もうと考えたのだと思います。
柴田:入社後もゴミの捨て方や洗濯物の干し方など、細かなことの質問もありました。それだけ気軽に質問ができる関係性をつくれたのかなと思いますね。
改めて、外国人材採用を行った感想を教えてください。
行岡:人材不足は日本が直面する大きな問題であり、日本企業は人材ポリシーをシフトせざるを得ない時期にあります。シルパさんは当社が方向転換をする良いきっかけになってくれたと思います。
柴田:地元の冊子やテレビでシルパさんのことを取り上げていただき、反響の大きさを感じています。それによって社内のメンバーのワクワク感も醸成されたように感じています。今やこの地域でシルパさんはちょっとした有名人です(笑)
行岡:事業を成長させるのはもちろんですが、同時にこの地域の産業を振興させることも考えなければと思っています。当社は1914年の創業以来、島根で事業を行ってきましたが、島根県は全国で 2 番目に人口が少なく、人口の30%以上が65歳以上。
だからこそ地域全体で人を呼び込み、産業を盛り上げることを考える必要がありますが、外国人材採用はその手段の一つにもなり得ます。これは大都市圏との大きな違いですが、地方都市は規模が小さい分、自治体との距離が近いので、当社の外国人材採用が地域課題への取り組みを進める第一歩になればという思いもありますね。
というのも、インドとの共同開発がいち段落し、インド人技術者が帰国した際、地域の方から「インドの皆さんはどこに行ったんですか?」と声をかけられたことがありました。実は我々の知らないところで町の皆さんが交流イベントを行ったり、インド人が講師になって日本人向けの英語教室をしたりといった動きがあったようなのです。
もちろんインド人がたくさん来たことで摩擦もあったとは思いますが、人口減が深刻な地域ですから人が入ってきてくれること自体をプラスに感じる人も多く、「また来ないのですか?」とおっしゃる方もいました。町の活性化という意味での外国人材採用の可能性を感じました。
柴田:地方だからこそできる外国人材採用もあるのだと思います。地域の魅力を発信することが動機付けにつながることもあるでしょうし、地方だからと引け目に感じることはないのではないでしょうか。
最後に、今後の目標や展望を教えてください。
行岡:今後も外国人材採用は積極的に行いたいと思っています。特に新卒は幹部候補として採用していますので、そもそも優秀な人を採用しなければいけません。現状、外国人社員は全員インド人ですが、優秀さに国籍は関係ありませんから、これからは様々な国から採用をしたいと考えています。