外国人エンジニアに日本語力はどこまで必要?|N2にこだわらない採用基準の決め方

はじめに:「N2以上」と書いた瞬間に、候補者の半分以上が消える

「社長からは外国人エンジニアの採用を進めてほしいと言われている。でも現場からは『日本語ができないと困る』という声が上がる」。外国人採用を任された人事担当者から、最もよく聞く悩みです。経営者側にも「言葉の壁で現場が混乱しないか」という不安があります。

板挟みの末、求人票に「JLPT N2以上」と書く会社は少なくありません。しかしASIA to JAPANの調査では、企業の80%がN2相当以上を求める一方、外国籍社員・内定者でN2相当以上と自己評価する人は41%にとどまります。「念のため」と加えたこの一行で、実は候補者の半分以上が対象外になってしまうのです。

では、外国人エンジニアにはどのくらいの日本語力を求めればよいのでしょうか。この記事でお伝えしたいポイントは、次の3つです。

結論:N2で線を引かず、「現場で何を話すか」で決める

  • N2はエンジニアの必須条件ではない: 2026年4月に就労ビザ(在留資格)の手続きが一部変わり、「エンジニアにもN2が必須になった」という誤解が広がっています。ですが、入管庁の案内で対象とされているのは、主に通訳や接客など、言葉を使うこと自体が仕事の中心になる職種です。
  • 必要な日本語は職種と場面で決まる: 設計・開発、生産技術、施工管理では、求められる場面がまったく違います。
  • 足りない分は、内定から入社までに育てられる: 採用時点の完成度より、入社までの伸びしろを設計するほうが近道です。

本記事では、インドをはじめ海外大学の理系新卒の採用・日本語教育を支援してきた立場から、この3点を順に解説します。

なぜ今「日本語力」が問われるのか

日本語の壁は、外国人を雇う企業の悩みの1位です。しかも年々増えています。

雇用上の課題1位は「コミュニケーション」46.2%

厚生労働省が2026年8月31日に公表した「令和7年外国人雇用実態調査」では、外国人雇用の課題(複数回答)の最多は「日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい」で46.2%でした。前年の43.9%から2.3ポイント上がっています。2位の「在留資格申請等の事務負担」24.8%の約2倍です。

一方、働く側の声もあります。仕事上のトラブルがあった外国人労働者のうち11.9%が「事前の説明以上に高い日本語能力を求められた」と答えました(前年8.8%)。企業側の「言葉が通じない」と、本人側の「聞いていた話と違う」は、同じ問題の裏表です。求める日本語力を事前に言語化できていないことが、双方の不満につながっています。

2026年4月の技人国の明確化で「エンジニアもN2?」という誤解

もう一つのきっかけが、在留資格「技術・人文知識・国際業務」(技人国)の取扱い変更です。出入国在留管理庁は、2026年4月15日以降の申請から、一定の条件で「CEFR B2相当の言語能力」を証する資料の提出を求めると公表しました。日本語ならJLPT N2以上などが目安です。

このニュースが「技人国にN2が必須になった」と受け止められ、エンジニア採用にもN2を求める動きが出ています。次の章で、何が変わり、何が変わっていないのかを整理します。

技人国の言語要件:エンジニアとして働くならN2の証明は求められていない

先に結論をお伝えすると、設計・開発や生産技術などのエンジニアとして技人国を申請し、通訳や接客のように言葉を使うことが中心の仕事に就かないのであれば、入管庁の案内上、N2などの日本語能力の証明は提出書類に含まれていません。

入管庁の案内で、言語能力の資料の提出が求められるのは、次の2つの条件を両方満たす場合です。

条件内容
所属機関カテゴリー3または4(下表参照。上場企業などのカテゴリー1・2は含まれない)
業務内容主に言語能力を用いて対人業務等に従事する場合(例:翻訳・通訳、ホテルフロント等の接客)
求められる資料業務上使用する言語のCEFR B2相当を証する資料
B2相当とみなされる例JLPT N2以上、BJT 400点以上、日本留学試験(日本語)200点以上、JPT 525点以上、日本の大学等の卒業 など

出典:出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』」(2026年10月29日閲覧)

「カテゴリー」とは、入管庁が在留資格の申請手続きのために企業を4つに分けた区分です。規模や納税の実績が大きい企業ほど、提出書類が少なく済みます。

カテゴリー主な企業今回追加された言語能力の資料
1上場企業、国・地方公共団体、独立行政法人など追加の対象に含まれていない
2前年の給与の源泉徴収税額が1,000万円以上の企業など追加の対象に含まれていない
3前年の源泉徴収の法定調書合計表を提出した企業(カテゴリー2を除く)業務内容によって求められる
4上記のいずれにも当てはまらない企業(設立間もない企業など)業務内容によって求められる

大まかに言えば、源泉徴収税額が1,000万円に満たない中小企業や、設立して間もない企業がカテゴリー3・4にあたります。

POINT押さえておきたい3つのポイント

  • すべての技人国の申請で日本語の証明が求められるわけではない。 入管庁の案内では、主に言語を使う対人業務などについて、資料の提出を求める形になっています。
  • 対象は「業務で使う言語」。 日本語に限りません。英語で対人業務を行う場合は、英語の能力について資料を求められる可能性があります。
  • ただし、申請職種と実態は一致させる。 入管庁は「上記以外でも申請内容を踏まえて提出を求めることがある」としています。エンジニアとして申請した人を、実際には通訳や接客中心で働かせるのは避けるべきです。

エンジニアの日本語レベルは、ビザの手続きだけを基準にするより、「現場で何をしてもらうか」から逆算して考えるのがおすすめです。

⚠ 在留資格の手続きについて

本記事は、2026年10月時点で入管庁が公開している情報をもとにした一般的な解説です。必要な書類は個別の事情によって異なる場合があるため、実際の申請にあたっては入管庁や行政書士などの専門家にご確認ください。

「N2必須」で採用が止まる3つの理由

N2を一律の足切りにすると、応募できる候補者が少なくなるうえに、入社後のギャップも防げません。理由は3つあります。

理由1:企業が求める水準と候補者の実態に約40ポイントの差がある

ASIA to JAPANが2026年7〜8月に実施した企業アンケート(n=40社)では、外国籍社員に求めるJLPTレベルは「N2相当」60%、「N1相当」20%で、N2相当以上が80%でした。一方、外国籍社員・内定者への受講者アンケート(n=99名)では、N2相当以上と自己評価した人は41%。最も多いのはN3程度の46%です。

これは当社の候補者に限った話ではありません。2025年12月の日本語能力試験(JLPT)の実施結果を見ると、海外で受験した約47万人のうち、N1・N2に合格したのは約7万人で、受験者全体の約15%でした。N2を受けた人に限っても、合格率は約4割です。海外で日本語を学ぶ人全体で見ても、N2以上に届く人は一部に限られるのです。

理由2:JLPTは「話す力」を測っていない

JLPTは言語知識・読解・聴解のマークシート試験で、「話す」「書く」は測りません。N2を持っていても会議や報連相で苦労する人もいれば、資格がなくても日本語で面接できる人もいます。

そこでASIA to JAPANでは、面接前の面談で日本語の会話力を5段階で評価しています。本記事では以降、この評価を「会話評価」と呼びます。

会話評価会話の目安
Aスムーズな会話が可能
Bほぼ日本語で面接が可能
C日本語と英語が半々
D簡単な会話は可能
E日本語は話せない

ASIA to JAPAN経由で入社した211名(一定期間の入社者の合計)を見ると、この差ははっきりしています。

面接時のJLPT保有状況人数構成比うち会話評価A・B(日本語で面接可能)
N1・N287名41%86名(99%)
N3〜N580名38%78名(98%)
未取得44名21%40名(91%)
合計211名100%204名(97%)

N3以下・未取得の124名でも、9割以上(118名)が日本語で面接できていました。N2で線を引いていたら、この118名を書類の段階で落としていた計算です。課題の中身も同じ傾向です。企業アンケートで日本語力に課題を感じる場面の上位は、電話・口頭のやり取り(45%)、顧客・取引先との会話(45%)、報連相(42%)、会議での発言(40%)でした。いずれもJLPTが測っていない「話す・聞く」領域です。

理由3:試験の時期と出身国で、N2の意味が変わる

JLPTは7月と12月の年2回で、申込は3〜4か月前です。就職活動の時期に「学習中でまだ受験していない」学生が多いのはこのためです。

最近は、受けたくても受けられないケースも出ています。JLPTの応募者は2025年12月に過去最多の約104万人となり、会場の確保が追いつかなくなりました。2026年7月の国内試験では、当初4月7日だった申込締切を待たずに、N4が3月25日、N3が3月27日で受付を打ち切っています(秋田魁新報/共同通信、2026年4月13日)。「JLPT未取得=日本語ができない」とは限らない状況が、さらに広がっています。

また、漢字を知っていると点が取りやすく、東アジア出身者は比較的取得しやすい傾向があります。同じN3でも、漢字圏と非漢字圏では意味が違います。

インドの理系新卒は「入社時に流暢」ではない。それが前提

この傾向が最も強く出るのが、インドの理系新卒です。ASIA to JAPANが現地の日本語教師や学習者に取材したところ、インドでは大学2〜3年生から日本語を学び始めるケースが多く、卒業までの学習時間は約500時間です。一方、日本企業が求めるN2〜N3相当で業務をこなすには、約1,000〜1,500時間の学習が必要とされます(インド最前線 #1)。大学の専門科目と両立しながらでは、在学中にこの水準まで届く学生は限られます。プネの工科大学の学長も、日本での就職を目指す学生は全体の約5%と話しており、日本語学習の環境はまだ広がり始めた段階です(インド最前線 #2)。

当社の入社者データでも、会話評価が最上位のAだった人のうちインド出身は3%でした。一方、Bの層では46%を占め、出身国で最多です。インドの理系新卒は「入社時点では流暢ではないが、日本語で面接ができ、伸びしろがある層」の中心にいます。N2で足切りをすると、この層をまるごと逃すことになります。

海外大学の外国籍学生の日本語レベルの目安を、資料にまとめました。採用基準を決める際にご活用ください。

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職種別:日本語が必要な「場面」から逆算する

必要な日本語レベルは、職種ではなく「誰と、どんな場面で話すか」で決まります。まずは技術職を3つに分け、日本語が必要な場面と、英語・図面・コードで代替できる場面を切り分けてください。

職種日本語が必要になる主な場面英語・図面などで代替しやすい場面入社後に伸ばすべき力
設計・開発(機械・電気・ソフトウェア)チーム内の報連相、仕様のすり合わせ、設計レビューでの質疑図面・CAD・コード、技術文書の読解、海外拠点とのやり取り会議での発言、社内文書の読み書き
生産技術・品質管理製造現場の作業者への指示・ヒアリング、トラブル時の口頭報告、安全教育工程表・データ分析、設備仕様書現場の専門用語、口頭での即時報告
施工管理職人・協力会社との調整、朝礼・KY活動、施主や近隣への対応、電話写真・図面による進捗管理、見積・工程表作成電話応対、現場用語、資格試験の日本語

設計・開発:最初は「チームの中」で通じればいい

設計・開発の主な相手は社内のエンジニアです。図面やコードという共通言語があり、技術の詳細は英語で補えます。最初に必要なのは、自分の作業状況を報告し、わからない点を質問する力です。当社では、理系職種は会話評価C以上を推奨ラインとし、入社前研修でBに引き上げる設計をおすすめしています。

生産技術:現場の「口頭」と「専門用語」がカギ

生産技術・品質管理は、製造現場の作業者と話す場面が多くなります。図面より口頭のやり取りが中心で、工場ごとの独特な用語も飛び交います。企業アンケートでも「独特の専門用語をどう伝え、学んでもらうかが大きな課題」という声がありました。配属先の用語集を内定期間中に渡すだけでも、立ち上がりが変わります。

施工管理:日本語の比重は高いが、採用・定着の実績はある

施工管理は、職人や協力会社との調整、電話対応など日本語の比重が3職種で最も高い仕事です。それでも、当社経由で施工管理職を採用した企業では、JLPT N3・会話評価Bのミャンマー出身者が入社しています。また、スリランカ出身者を中心に2023年から採用を続ける建設会社では、2025年4月末時点で1期生の離職率は0%です。生活面のサポートや母国語で相談できる窓口など、受け入れ体制とセットで成果が出ています。

いずれの職種でも、「入社初日から日本人と同じように話せる人」を探すのは現実的ではありません。「最初の3か月で何ができればいいか」を現場と一緒に決めることが、レベル設定の第一歩です。

内定から入社までの数か月を「日本語の準備期間」にする

海外大学の新卒採用では、内定から来日・入社まで半年〜1年ほど空くのが一般的です。この期間を使えば、「採用時はC〜B」の人材を「入社時はB以上」に引き上げられます。

必要な学習時間の目安

JLPTを1ランク上げるには、約150〜200時間の学習が必要と言われます。週5時間の独学では、1ランク上げるのに7〜10か月かかる計算です。受講者アンケートでは、64%が週5時間未満しか学習できていませんでした。独学任せでは、入社までに間に合わないケースが多いということです。

一方で、本人の意欲は高い傾向にあります。入社前の集中研修に「参加したい」「少し興味がある」と答えた外国籍社員・内定者は90%でした。研修内容で最も希望が多かったのは「職場での会話(報連相・会議・電話)」の78%で、「JLPTより職場での会話力を上げたい」という声が目標レベルの回答で最多(37%)でした。

入社前教育の3ステップ

  1. 採用時:会話力で見極める。 JLPTは目安にとどめ、面接での会話評価を併用します。理系職種は会話評価C以上を対象にすると、母集団を確保しやすくなります。
  2. 内定期間:日本語+ビジネスマナーを集中強化する。 オンラインで文法・語彙に加え、敬語、報連相、「空気を読む」といった日本企業の文化まで学びます。配属先の専門用語もこの時期に渡します。
  3. 入社後:実務の会話を定着させる。 報連相・会議・メールなど、実際の業務の中で使う日本語を伸ばします。必要に応じてJLPT取得も支援します。

ASIA to JAPANの入社前日本語教育

ASIA to JAPANでは、内定者のレベルと入社時期に合わせて次のようなプログラムを提供しています。

プログラム期間・時間対象と目標
入社前日本語研修(初級/中級/上級)約3か月・授業80時間+課題中級(会話評価B−〜B+)から始めて、入社時にBレベル到達が目安
Katsuyaku日本語(内定者・入社後向け)6か月・週3回120分・計100時間来日準備から報連相、ビジネスメールまで60以上のCan-doで行動レベルを育成
日本語特訓クラス200〜300時間会話評価C(一部B−)の内定者を対象に、B〜CEFR B2相当を目標

※ASIA to JAPANでは、4技能をCEFR基準で判定するオンラインテストを使い、研修前後の伸びを測定しています。

経営者の方へ:現場を混乱させないのは「日本語レベル」より「受け入れの設計」

「言葉の壁で現場が混乱しないか」という不安は、採用時の日本語レベルを上げても解消しません。N2保有者でも、会議や報連相でつまずくことはあるからです。混乱を防ぐのは、受け入れ側の準備です。

  • 求める日本語を「場面」で言語化する。 「N2以上」ではなく、「朝礼の指示を理解できる」「作業の進捗を口頭で報告できる」のように書きます。本人にも事前に伝えれば、「聞いていた話と違う」を防げます。
  • 入社前教育を採用計画に組み込む。 企業アンケートでは、入社前集中研修に77%の企業が関心を示しました。一方で「ノウハウがなく社内検討が堂々巡りになる。採用プランに組み込んでほしい」という声もあります。オプション扱いにせず、内定から入社までのスケジュールに最初から入れておくのが確実です。
  • 相談役を決めておく。 配属先に日常的な相談相手を置き、入社後2週間・1か月・3か月・6か月・12か月と定期的に面談します。小さな行き違いを早めに拾えます。
  • 日本人社員側も歩み寄る。 ゆっくり・短く話す、指示は口頭と文字の両方で出す、といった工夫だけでも伝わり方は変わります。外国人社員を迎えたことで、日本人社員が語学を学び始めた職場もあります。

外国人社員の日本語力は、入社後の環境で伸びます。当社の2023年の調査(日本で働く外国人材、n=171)でも、来日・入社後に日本語レベルが上がったという回答が多く、選考時点で高い水準を求めすぎる必要はないことがわかっています。

まとめ:「N2があるか」ではなく「入社時に何ができるか」で決める

この記事のポイント

  • 2026年4月の技人国の手続き変更で、入管庁の案内上、言語能力の資料が求められるのは主に翻訳・通訳や接客など言語を使う対人業務です。エンジニアに一律でN2が必要になったわけではありません。
  • 企業の80%がN2相当以上を求める一方、候補者でN2相当以上は41%。N2の足切りは母集団を大きく削ります。
  • JLPTは「話す力」を測りません。会話評価を併用し、職種ごとに日本語が必要な場面から求めるレベルを決めましょう。
  • インドをはじめとする理系新卒の多くは、入社時点では流暢ではありません。内定から入社までの期間に教育を組み込めば、伸びしろを戦力に変えられます。

社長と現場の板挟みになったら、「N2以上かどうか」ではなく「配属後3か月で、誰と、どんな場面で、何を話せればいいか」を現場と一緒に書き出すところから始めてみてください。

外国人エンジニアの採用・日本語教育は、ASIA to JAPANにご相談ください

ASIA to JAPANは、インド工科大学(IIT)をはじめ海外大学の理系人材の採用から、内定者の日本語教育、来日後の受け入れサポートまで一貫して支援しています。

  • 職種ごとの日本語要件(JLPTの目安+会話評価)の整理
  • 会話評価A〜Cの候補者プロフィール例のご紹介
  • 内定者・既存社員向け日本語研修のお見積り

海外大学の学生の日本語レベルについては、お役立ち資料「海外大生の日本語レベルについて」でも詳しくまとめています(無料でダウンロードできます)。外国人エンジニアの採用や日本語教育のご相談は、お気軽にお問い合わせください。