少子化で18歳人口が減るなか、理系の新卒採用に苦戦する企業は少なくありません。次の一手として「理系の外国人留学生を採用しよう」と考える企業も増えていますが、データを見ると、留学生の採用も決して簡単ではないことがわかります。
留学生は10年で約2倍の40.8万人に増えました。しかし受入れの多い大学の顔ぶれは早稲田大学・東京大学を筆頭にほぼ固定されており、理系の留学生は高等教育機関で学ぶ留学生の約2割です。さらに大学・大学院を卒業して日本で就職する理系留学生は、全国で年間約3,200人にとどまります。
本記事では、日本学生支援機構(JASSO)が毎年公表している「外国人留学生在籍状況調査」の2015(平成27)年度から2025(令和7)年度までの11回分の結果をもとに、留学生が多い大学の顔ぶれがこの10年でどう変わったかを整理し、あわせて理系留学生の数と日本での就職の状況も見ていきます。2025年度調査の詳しい解説は、前回の記事もあわせてご覧ください。
※各年5月1日時点の数値です。大学ごとの数は大学院生を含む在籍者数で、JASSOが調査結果の「参考」として掲載している上位30校の表を用いています。
10年間の全体推移:留学生は約2倍に
留学生総数は2015年の208,379人から2025年の408,069人へ、10年で約2倍になりました。コロナ禍で2022年には231,146人まで落ち込みましたが、その後3年で過去最多を大きく更新しています。

大学院・大学(学部)など大学レベルの留学生は110,801人から157,120人へ約1.4倍に増えました。総数を押し上げたのは日本語教育機関(約2.5倍)と専修学校(約2.8倍)で、大学の伸びはそれより緩やかです。
2025年度の上位30校は、10年前とどう変わったか
2025年度の上位30校のうち2015年度にも上位30校に入っていたのは23校で、新たに7校が入れ替わりました。上位30校の留学生数の合計は46,467人から68,690人へ、約48%増えています。
| 順位 | 大学名 | 区分 | 2025年(人) | 2015年(人) | 10年の増減 | 2015年順位 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 早稲田大学 | 私立 | 5,541 | 4,603 | +938(+20%) | 1位 |
| 2 | 東京大学 | 国立 | 4,922 | 2,990 | +1,932(+65%) | 2位 |
| 3 | 立命館大学 | 私立 | 3,386 | 1,587 | +1,799(+113%) | 11位 |
| 4 | 日本経済大学 | 私立 | 2,948 | 2,835 | +113(+4%) | 3位 |
| 5 | 立命館アジア太平洋大学 | 私立 | 2,927 | 2,649 | +278(+10%) | 4位 |
| 6 | 京都大学 | 国立 | 2,836 | 1,814 | +1,022(+56%) | 8位 |
| 7 | 東京福祉大学※1 | 私立 | 2,744 | 1,403 | +1,341(+96%) | 14位 |
| 8 | 大阪大学 | 国立 | 2,644 | 2,094 | +550(+26%) | 6位 |
| 9 | 九州大学 | 国立 | 2,618 | 2,097 | +521(+25%) | 5位 |
| 10 | 東海大学 | 私立 | 2,453 | 圏外 | ― | 圏外 |
| 11 | 京都情報大学院大学 | 私立 | 2,389 | 圏外 | ― | 圏外 |
| 12 | 東京科学大学※2 | 国立 | 2,334 | 1,223 | +1,111(+91%) | 16位 |
| 13 | 筑波大学 | 国立 | 2,298 | 2,062 | +236(+11%) | 7位 |
| 14 | 日本大学 | 私立 | 2,287 | 1,178 | +1,109(+94%) | 18位 |
| 15 | 東北大学 | 国立 | 2,274 | 1,661 | +613(+37%) | 9位 |
| 16 | 慶應義塾大学 | 私立 | 2,195 | 1,418 | +777(+55%) | 13位 |
| 17 | 北海道大学 | 国立 | 2,052 | 1,570 | +482(+31%) | 12位 |
| 18 | 名古屋大学 | 国立 | 2,034 | 1,613 | +421(+26%) | 10位 |
| 19 | 広島大学 | 国立 | 1,919 | 1,110 | +809(+73%) | 20位 |
| 20 | 東洋大学 | 私立 | 1,810 | 圏外 | ― | 圏外 |
| 21 | 東京国際大学 | 私立 | 1,601 | 760 | +841(+111%) | 29位 |
| 22 | 明治大学 | 私立 | 1,596 | 1,180 | +416(+35%) | 17位 |
| 23 | 拓殖大学 | 私立 | 1,581 | 1,041 | +540(+52%) | 22位 |
| 24 | 上智大学 | 私立 | 1,503 | 1,034 | +469(+45%) | 23位 |
| 25 | 帝京大学 | 私立 | 1,405 | 圏外 | ― | 圏外 |
| 26 | 関西大学 | 私立 | 1,374 | 圏外 | ― | 圏外 |
| 27 | 神戸大学 | 国立 | 1,339 | 1,152 | +187(+16%) | 19位 |
| 28 | 同志社大学 | 私立 | 1,279 | 1,338 | -59(-4%) | 15位 |
| 29 | 京都精華大学 | 私立 | 1,207 | 圏外 | ― | 圏外 |
| 30 | 大阪経済法科大学 | 私立 | 1,194 | 圏外 | ― | 圏外 |
※1 文部科学省の「令和7年度改善指導対象校」に指定された大学(文部科学省)。
※2 東京科学大学は2024年10月に東京工業大学と東京医科歯科大学が統合した大学です。2015年の数値は東京工業大学単独のもので、増加分には統合の影響が含まれます。
上位10校の順位はこう動いた
2025年度の上位10校のうち、11年連続でトップ10に入り続けたのは早稲田大学、東京大学、日本経済大学、立命館アジア太平洋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の7校です。

上位30校で見ても、21校が11年連続で名を連ねています(東京科学大学は前身の東京工業大学を含む)。顔ぶれは安定している一方、立命館大学と東海大学のように10年かけて大きく順位を上げた大学もあります。
10年で見えた5つの変化
1. 早稲田大学と東京大学の「2強」は変わらない
早稲田大学は11回の調査のうち9回で首位です。例外はコロナ禍の2021・2022年度で、早稲田大学が5,724人(2019年)から3,967人(2021年)まで減らした一方、東京大学は4,000人台を維持して首位に立ちました。
早稲田大学は交換留学などの短期留学生も多く、入国制限の影響を受けやすかったと考えられます。東京大学は大学院生が中心で、この10年で2,990人から4,922人(+65%)へと最も大きく人数を伸ばした大学です。
2. 立命館大学が11位から3位へ躍進
立命館大学は1,587人から3,386人と約2.1倍に増え、2022年度以降は3位を守っています。同じ学校法人の立命館アジア太平洋大学(APU、2,927人)と合わせると6,313人となり、早稲田大学を上回る規模です。
3. 国立大学は「大学院」で着実に増加
京都大学(+56%)、広島大学(+73%)、東北大学(+37%)など、主要国立大学はそろって留学生を増やしています。全国の大学院留学生も41,396人から60,013人(+45%)へ増えており、その約6割を国立大学が受け入れています(2022年度:大学院53,122人中33,056人)。
ただし私立大学の伸びがそれ以上に大きく、上位30校に占める国立大学は13校から11校へ、留学生数のシェアは45.2%から39.7%へ下がりました。横浜国立大学と千葉大学は上位30校から外れています。
4. 私立大学の「新顔」が急上昇
2015年度には上位30校外だった私立大学が、2025年度には7校入っています。
- 東海大学:2016年度の28位(794人)から2025年度は10位(2,453人)
- 京都情報大学院大学:2019年度に29位(1,059人)で初登場し、2025年度は11位(2,389人)
- 東洋大学:2017年度の26位(984人)から20位前後に定着(2025年度1,810人)
- 帝京大学・関西大学・京都精華大学・大阪経済法科大学:いずれも1,200~1,400人台で上位30校入り
既存校でも日本大学(+94%)と東京国際大学(+111%)が大きく伸びました。反対に、城西国際大学、日本ウェルネススポーツ大学、大阪産業大学、中央大学、明海大学は2015年度には上位30校入りしていましたが、2025年度は圏外です。
5. 急増・急減する大学もある
最も変動が大きいのは東京福祉大学です。1,403人(2015年)から5,133人(2018年、2位)へ急増した後、2019年に多数の留学生の所在不明が判明して国の指導を受け、2020年には1,784人まで減りました。その後再び増えて2025年度は2,744人(7位)ですが、同年度の文部科学省「改善指導対象校」にも指定されています。
留学生の数が多いことは、そのまま教育の質や学生のレベルを示すものではないといえます。大学名だけでなく、在籍管理の状況や専攻分野もあわせて確認することが大切です。
理系の留学生は、実はそれほど多くない
高等教育機関で学ぶ留学生267,895人のうち、理学・工学・農学を専攻するのは58,295人(21.8%)です。人数は10年で約1.9倍になりましたが、割合は2015年(20.2%)からほとんど変わっていません。留学生の増加分の多くは、社会科学や人文科学など文系分野です。
| 専攻分野 | 2015年(人) | 2025年(人) | 2025年の構成比 |
|---|---|---|---|
| 理学 | 2,693 | 4,633 | 1.7% |
| 工学 | 24,665 | 49,255 | 18.4% |
| 農学 | 3,387 | 4,407 | 1.6% |
| 理系(理・工・農)計 | 30,745 | 58,295 | 21.8% |
| 社会科学 | 55,075 | 95,288 | 35.6% |
| 高等教育機関の留学生計 | 152,062 | 267,895 | 100.0% |
日本で就職する理系留学生は年間約3,200人
JASSOの「外国人留学生進路状況調査」によると、2024年度(2024年4月~2025年3月)に大学院・大学(学部)を卒業・修了し、日本国内で就職した理系(理学・工学・農学)の留学生は3,233人です。専修学校なども含めると6,054人になりますが、その4割強(2,704人)は専修学校で工学系(IT・整備など)を学んだ人です。
| 卒業した学校 | 理学 | 工学 | 農学 | 理系計(人) |
|---|---|---|---|---|
| 大学院(博士・修士・専門職) | 318 | 2,009 | 219 | 2,546 |
| 大学(学部) | 54 | 575 | 58 | 687 |
| 大学院・学部の計 | 372 | 2,584 | 277 | 3,233 |
| 専修学校(専門課程) | 0 | 2,696 | 8 | 2,704 |
| 短期大学・高等専門学校 | 0 | 117 | 0 | 117 |
| 全体 | 372 | 5,397 | 285 | 6,054 |
この表からは、次の3点が読み取れます。
- 約8割が大学院修了者:大学・大学院卒の理系3,233人のうち、2,546人(79%)が大学院修了者です。学部卒の理系留学生で日本で就職したのは、全国で687人です。
- ほとんどが工学系:3,233人のうち2,584人(80%)が工学で、理学と農学は合わせて649人です。化学・物理・生物などを学んだ人材はさらに限られます。
- 全体の約4分の1:大学院・学部を出て日本で就職した留学生は12,942人で、このうち理系は約4分の1です。社会科学だけでも5,014人いることと比べると、理系の少なさがわかります。
年ごとの推移を見ると、大学院・学部卒で日本で就職した理系留学生は、2019年度卒の2,823人から2023年度卒は2,969人、2024年度卒は3,233人と徐々に増えています。ただし5年間で増えたのは約400人(約15%)で、母集団が急に広がっているわけではありません。
また、大学院を修了した留学生のうち日本国内で就職したのは約3人に1人(19,315人中6,536人)です。帰国して就職する人や進学する人も多く、留学生全員が日本での就職を希望しているわけではありません。
上位大学の理系留学生は、多くの企業が求める人材
前述のとおり、大学院の留学生の約6割は国立大学に在籍しており、東京大学・京都大学・大阪大学・九州大学などの主要国立大学は理系人材の大きな供給源です。こうした大学の留学生には、日本企業だけでなく海外の企業や研究機関も関心を寄せています。
年間約3,200人という限られた人材を多くの企業で分け合う構図であり、日本人の理系新卒と同じように、理系留学生の採用でも競争が生じやすいと考えられます。
採用担当者が押さえるべきポイント
- 留学生採用は有力な選択肢。ただし理系の母集団は限られる:留学生は増えていますが、大学・大学院を卒業して日本で就職する理系留学生は年間約3,200人です。「日本人が採れない分を留学生で補う」だけでは、十分な人数を確保できない可能性があります。
- 早い段階での接点づくりが大切:上位大学の理系留学生には多くの企業が声をかけています。インターンシップや研究室との関係づくりなど、中長期での取り組みが求められます。
- 人数だけで大学を選ばない:留学生数は年によって大きく変動する大学もあります。専攻分野、日本語力、大学の在籍管理体制もあわせて確認しましょう。
- 海外の大学で学ぶ学生にも目を向ける:日本に来ている留学生だけでなく、海外の大学で理工系を学び、日本で働くことに関心を持つ学生もいます。採用の対象を国外に広げることで、母集団そのものを広げることができます。
まとめ
日本人の理系新卒、そして理系留学生。どちらも採用が難しくなるなかで、海外の大学で学ぶ理系学生は、新たな選択肢のひとつになります。まずは自社の採用課題と照らし合わせ、国内外のどこに母集団を求めるかを整理するところから始めてみてはいかがでしょうか。
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