【マレーシア最前線 #1】大学の最終学年は「企業で学ぶ」時代へ。日本企業に求められるインターン受入れとは

シリーズ「マレーシア最前線」(全2回)
第1回(本記事):「最終学年は企業で学ぶ」大学が、日本企業に求めること
第2回(近日公開):マルチリンガル理系人材はなぜ日本を選び、何に迷うのか?マレーシア人材に「選ばれる」企業の条件

来日したUTeM学長・副学長とASIA to JAPANスタッフの集合写真
UTeM学長・副学長とASIA to JAPANスタッフ

はじめに

2026年10月中旬、マレーシアの国立工科大学「マラッカ技術大学(UTeM)」の学長・副学長が来日し、ASIA to JAPANのアテンドで日本企業3社を訪問しました。目的はひとつです。UTeMの学生を、在学中から日本企業の現場に送り出す道をつくること。

マレーシアの大学はいま、「最終学年は企業で学ぶ」という方向へ制度ごと動いています。シリーズ「マレーシア最前線」の第1回となる本記事では、その制度の変化と、UTeMが日本企業に何を求めているのかを、今回の訪問の様子とあわせて整理します。外国人エンジニアの採用や、インターンシップの受入れを検討している企業の方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。

※訪問先企業の名称は伏せ、A社・B社・C社と表記します。

マレーシアの大学で何が変わったのか

マレーシアの大学は、ここ数年で「最終学年は企業の現場で学ぶ」という方向へ大きく舵を切りました。卒業前の短期研修ではなく、在学中の数か月から1年を企業で過ごす仕組みが、国の政策として広がっています。

「3〜6か月の実習」では足りない

マレーシアでは以前から、最終学年での産業実習(インダストリアル・トレーニング)が必修でした。ただし期間は3〜6か月程度が一般的です。現場を「見る」ことはできても、技術を身につけるには短すぎるという声が、専門家から上がっていました。背景には、卒業生の就職率をどう高めるかという国全体の課題があります。

改革の流れ

年 出来事
2024年 人的資源省と高等教育省が、学生の実習期間をさらに延ばす方向で協議。実習生の約4割が、実習先にそのまま就職しているとの説明
2023年 高等教育省が、大学向けのアプレンティスシップ(企業内育成)指針を公表
2021年10月 高等教育省が新たな教育枠組み「EXCEL」を発表。職場学習・コープ教育・アプレンティスシップを「産業主導型の体験学習(IDEAL)」として全国の大学に広げる
2019年 UTeMを含む工科系4大学(MTUN)が、技術学士課程に「3u1i(大学3年+企業1年)」型の職場学習(WBL)を導入。その後、工学技術系の学士課程にも拡大
2016年 高等教育省が「2u2i(大学2年+企業2年)」を導入。UPM・UMKなどの国立大学から開始
2015年 高等教育省が「マレーシア教育計画2015-2025(高等教育)」を策定。産業界と連携した柔軟な教育を柱に据える

「2u2i」は総称で、実際の組み合わせは大学ごとに異なります。3u1i、2u2i、2u1i、1.5u1iなど、大学で学ぶ年数と企業で学ぶ年数を、プログラムに応じて組み合わせます。

職場学習(WBL)は「長いインターン」ではない

WBLの特徴は、企業での期間が大学の単位としてカリキュラムに組み込まれている点です。学生は大学の教員と企業側のメンターの両方から指導・評価を受け、企業の実際の課題に取り組むプロジェクトを、1年かけて仕上げます。

マレーシア国内でも、受入れ企業が「通常の実習と同じもの」と誤解しがちなことが課題として指摘されています。一方で、1年間じっくり現場で過ごした学生の多くが、そのまま就職のオファーを受けているという報告もあります。

日本企業にとっての意味

マレーシアの学生にとって、最終学年に企業で働くことは当たり前の学び方になりつつあります。言い換えれば、日本企業が「在学中の受入れ先」になれるかどうかで、優秀な学生との接点が大きく変わるということです。

UTeMとはどんな大学か

UTeM(Universiti Teknikal Malaysia Melaka)は、2000年に設立されたマレーシア初の公立技術大学です。世界遺産の街マラッカにキャンパスを構え、マレーシア工科系大学ネットワーク(MTUN)の一校として、実践的な技術教育(TVET)を担っています。

  • 学部構成:電気、電子・コンピューター、機械、産業・製造、情報通信、技術経営の各分野
  • 規模:2022〜2024年に3年連続で、学士課程の入学者数が過去最多を更新
  • 特徴:産業界のニーズに応える技術系人材の育成を重視し、実践・応用志向の教育を提供
  • 日本との関係:2014年に日本の大学と共同で、遠隔の日本語授業を行う拠点を学内に開設。2025年11月にはASIA to JAPANと初めてMOU(覚書)を締結し、2026年度から学生向けの日本語プログラム(全180時間)を共同で運営しています

日本語プログラムには30名を超える学生が登録しています。2026年9月にASIA to JAPANが授業を視察した際には、150時間を終えた段階で、通常速度のニュースを題材に議論できるレベルに達していました。日本で働くことへの関心は、年々高まっています。

UTeMとASIA to JAPANのMOU締結
UTeMとASIA to JAPANのMOU(覚書)締結

企業訪問で見えたこと

3社に共通していたのは、「日本語ができれば、専門分野が多少違っても現場で活躍できる」という実感でした。すでにUTeM卒業生を採用しているB社・C社からは、その働きぶりを高く評価する声が聞かれました。

日本企業での面談の様子
企業訪問での面談の様子

A社(精密機器メーカー):短期インターンの受入れを検討

A社では、UTeM学生の短期インターンシップ受入れについて具体的に話し合いました。求める日本語レベルは日常会話ができる程度で、敬語まで使えればなお安心とのことです。英語だけで現場の指導を行うのは難しいため、日本語は前提条件になります。

インターンの時期に必要な日本語力をどう確保するかについては、「1年生から学び始めれば、3年生のインターンに十分間に合う」という点で双方の認識が一致しました。面談の後は、約1時間かけて工場を見学しました。

B社(グローバル展開する機械メーカー):毎年アジアから採用

B社は、マレーシア・インド・インドネシア・タイ・ベトナム・中国の大学から、毎年約10名を採用しています。売上の多くを海外で上げており、その事業を支える人材が必要だからです。

国内では「機械メーカー」のイメージが強く、機械設計の応募は多い一方で、AIや電気系の学生は国内で採用しにくいという課題があります。

面談には、B社に入社したUTeM卒業生も同席していました。採用の決め手を尋ねると、B社は「優秀だから」と即答。この卒業生は、日本語プログラムの中でも特に日本語がよくできた学生の一人です。UTeM側からは、大学を訪問して施設を見学し、日本語プログラムの学生と直接面接してほしいと招待がありました。

C社(製造業):まず2名から

C社では、UTeM出身の社員が同席し、通訳を務めました。その日本語は、ほぼミスのないレベルです。本人は「機械やAIの専門知識がなく、語学だけで入社したが、それでも現場で活躍できている」と、自らの経験を語りました。

UTeM側は、まず2名のインターンから始めることを提案しました。C社がAI系と機械系のどちらを必要とするかに合わせて学生を選び、インターン期間中の働きを見て採用を判断してもらう形です。C社は「日本語の要件が最も重要なポイントになる」として、社内で検討を進めることになりました。

UTeMが日本企業に望むこと

UTeMが求めているのは、「卒業後に採用してもらう」ことだけではありません。在学中から日本企業と一緒に学生を育て、インターンを経て採用につなげる流れをつくることです。今回の訪問で聞いた要望は、次の6点にまとめられます。

要望1在学中に、日本企業の現場で学ばせてほしい

マレーシアでは、最終学年の産業実習が単位として必修です。その受入れ先として、日本企業にも加わってほしいと考えています。可能な期間は学科によって異なります。

  • 技術学士課程(Bachelor of Technology):6か月〜1年
  • 工学系:4か月(その後は大学に戻って学期を修了)
  • IT・ビジネス系:6か月(最終学期に実施)

要望2日本語教育を前倒しし、早い学年から準備させる

これまでは課程の終盤に日本語を学ぶ形でしたが、1年生から始める方向へ見直しています。インターンや就職の時点で、現場で通用する日本語力を身につけさせるためです。

要望3企業ごとに合わせた「事前育成」をさせてほしい

UTeMはすでに、マレーシア国内の日系メーカーと「大学で事前に訓練してから工場に送り出す」連携を進めています。同じように、日本企業の要件(日本語、機械学習の基礎など)に合わせて、学内で学生を育ててから送り出したい考えです。

要望4面接・選考は在学中に行ってほしい

日本語研修を終えてから面接に臨むだけでなく、その前の段階で企業に学生を知ってもらいたい。インターンでの働きを見て、気に入れば採用してほしいという考えです。

要望5小さく始めて、育てていきたい

まずは1社2名など小規模で実績をつくり、改善しながら規模を広げる。UTeMは繰り返しこの姿勢を示しました。

要望6大学に来てほしい、そして連携を広げたい

キャンパスを訪れ、施設と学生を直接見てほしい。その先には、共同研究、教員の交流、インターンとは別の形での工場への実習派遣など、幅広い連携を望んでいます。

背景には、マレーシアの大学に共通する「企業と共に育てる」という教育の考え方があります。日本企業にとっては、自社の現場を知り、日本語で働ける人材を、卒業前から確保できる機会だといえます。

日本側の壁と、橋渡しの仕組み

UTeMの要望に応えたい日本企業は少なくありません。それでも受入れが進みにくいのは、日本側に次のような壁があるからです。

壁 中身 乗り越え方
受入れ文化 日本は新卒一括採用が中心で、長期インターンを受け入れる慣行が薄い 4週間程度の短期から始め、実績をつくってから延ばす
指導体制 現場は忙しく、英語で指導できる社員がいない 日本語力を受入れの前提にし、大学側で事前に育てる
在留資格・法令 報酬の有無や期間で在留資格が変わる。無報酬でも、実態によっては労働法令の対象になり得る 制度に沿ったスキームを事前に設計し、企業の手間を減らす
日本語レベル 4年生は会話ができても、3年生はまだ難しい 1年生からの日本語教育と、学年に応じたつなぎの研修

在留資格については、海外大学の学生が教育課程の一環として日本で就業体験をする場合、報酬の有無と滞在期間に応じて「特定活動」「文化活動」「短期滞在」のいずれかになります。報酬を受ける場合は「特定活動」で、期間は1年以内、かつ通算で大学の修業年限の2分の1以内です。報酬を伴わず90日以内であれば「短期滞在」が該当します。また入管庁は、インターン生に最低賃金法などの労働関係法令が適用されるかどうかを、事前に労働基準監督署などで確認するよう呼びかけています。

ASIA to JAPANの役割

ASIA to JAPANは、この壁を一つずつ取り除く役割を担っています。

  • 日本語教育:UTeMで日本語プログラムを運営し、学年に合わせた前倒しの設計を進めています
  • マッチング:FAST OFFERを通じて、企業と学生の面接・選考の場をつくります
  • スキーム設計:インターンの在留資格、費用負担、精算方法などを、法令に沿って事前に整理します
  • 大学訪問のアテンド:企業によるキャンパス訪問や、現地での面接会を手配します

おわりに

マレーシアの大学は、「最終学年は企業で学ぶ」という方向へ制度ごと動いています。日本企業がその受入れ先になれば、日本語で働ける優秀な理工系人材と、卒業前から出会うことができます。

今回訪問した3社のうち2社では、すでにUTeM卒業生が活躍しており、インターン受入れの検討も始まりました。UTeMが掲げる「小さく始めて、育てていく」という姿勢は、初めて外国人インターンを受け入れる企業にとっても取り組みやすい形です。

次回予告:第2回「人材と採用のリアル編」

第1回では、大学と制度の側から見たマレーシアをお伝えしました。第2回では視点を学生側に移し、マレー語・英語・中国語を話すマレーシアの理系人材が、なぜ日本を選ぶのか、そして何に迷うのかを、内定者の声から読み解きます。シンガポールとの給与差、円安と手取り、宗教への配慮、日本語は「いつまでに」必要か。マレーシア人材に「選ばれる」企業になるための準備を、具体的に整理します。

ASIA to JAPANにご相談ください

マレーシア人材の採用・受入れは、目的に合わせて3つの入口からご相談いただけます。

こんな企業に ご相談いただけること
まずはインターンから始めたい UTeM学生のインターン受入れ(1社2名からの小規模スタートも可)。在留資格や費用負担などのスキーム設計まで、ASIA to JAPANが整理します
新卒採用でマレーシア人材に出会いたい FAST OFFERによる面接会への参加。日本語の事前研修を受けた理工系学生と、短期間で面接・選考ができます
大学や学生を直接見てみたい UTeMをはじめとするマレーシアの大学への訪問アテンド、現地面接会の手配

「自社に合うか、まず話を聞いてみたい」という段階でも構いません。スタッフとの個別相談も承っています。

参考資料

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