【インドネシア最前線 #2】ITBキャリアセンターに聞く、インドネシア人材「採用のリアル」—就活は遅め、決め手は課外活動。ITB(バンドン工科大学)インタビューから見えた採用のヒント
📌 本記事は「インドネシア最前線」全3回シリーズの第2回です。
はじめに
「インドネシアの大学生は、どんな企業を目指しているのか」「日本はその中でどんな位置づけなのか」——こうした疑問を持つ採用担当者は多いのではないでしょうか。
今回はバンドン工科大学(ITB)キャリアセンター長のIntan Taufik氏へのインタビューをもとに、ITB生の就職動向と、日本企業が採用を検討する際に知っておくべきポイントを整理しました。
ITBとはどんな大学か——インドネシア理工系のトップ校
ITBは学生数約27,000人を擁するインドネシア屈指の理工系国立大学です。QS世界大学ランキング2025では世界256位・アジア16位にランクインし、石油工学・鉱業工学分野では世界上位(51〜100位)、建築・機械工学・電気工学・数学・環境科学などでも高い評価を得ています。西ジャワ州バンドンの高地キャンパスに、全国から厳しい選抜を経た学力・意欲ともに高い学生が集まっています。
ASIA to JAPANとは過去7年にわたり関係を築いており、共同でのジョブフェア開催や日本就職ブースの出展などを協力して進めています。
学生に人気の業界——ITでもエンジニアでもない学生がITを目指す
Taufik氏によると、現在ITB生に人気の業界は大きく3つあります。
1つ目はデジタライゼーション(IT)関連産業です。興味深いのは、情報工学・電子工学専攻の学生だけでなく、理学系や現場系(フィールド)出身の学生もIT業界を志望する流れが強まっている点です。
2つ目は金融業界です。ITBには経営学部(School of Business and Management)しかありませんが、エンジニアリングや理学専攻の学生が金融業界に流れるケースが増えており、Taufik氏自身も「意外な流れ」と話しています。
3つ目は製造業・サービス業です。急拡大しているわけではないものの、需要が年ごとに安定しているのが特徴です。
なお、IT学部出身者に限れば、初めての就職先が専攻内容と一致している割合は90%以上というデータもあり、専門性がそのまま職に直結しやすい傾向がうかがえます。
採用担当者へのポイント:ITBは「IT・電子工学専攻の学生だけがIT人材」という単純な図式ではありません。理学・工学出身でIT/デジタル分野に関心を持つ学生層にもアプローチの余地があります。
採用の仕組み——就活は「みんな遅めにゆっくり」
ITBでは学生が本格的にキャリアを考え始めるのは、早くても3年生の終わりから4年生にかけてで、それも「まだ漠然としている」とTaufik氏は言います。
就活のヤマ場は年2回のジョブフェア(4月・10月、卒業式の時期に合わせて開催)で、1回あたり7,000〜10,000人が来場する規模です。ただし来場者の約50%はITB以外の大学出身者(バンドン近郊やジャカルタ、遠くはスラバヤから)で、特定企業目当てに集まってくる構造になっています。
ジョブフェアで履歴書を提出しても、その場で内定が出るわけではなく、その後数ヶ月かけて選考が進む「息の長いプロセス」であることも特徴です。
また、ITBでは在学中のインターンシップが必修(カリキュラムの一部)となっており、そこでの評価が採用に直結するケースも多く見られます。実際、学生の約50%が卒業前にすでに内定を得ており、卒業後平均2ヶ月以内に初めての職に就くというデータもあります。
採用担当者へのポイント:ITBの就活は「早期に動き出す学生」より「インターン経由でじっくり」が主流です。日本企業が採用のタイミングを合わせるなら、必修インターンの受け入れや、大学のキャリアセンターとの関係構築が有効な入口になります。
企業が評価するポイント——専門性より先に「課外活動」が見られる
採用選考で企業がまず見るのは技術力ですが、Taufik氏はその次に課外活動の経験が重視されると強調します。学生団体への参加、文化・スポーツ系のサークル活動、国内外のコンペティションへの参加実績などが、チームワークやコミュニケーション力を測る材料として使われています。
ITBでは大学として2年次以降、学生に文化系・スポーツ系いずれかの課外活動への参加を促す方針を取っており、これは技術力偏重になりがちな理工系大学としては珍しい特徴です。
採用担当者へのポイント:履歴書の学業成績だけでなく、学生団体やコンペ参加歴を聞くことで、日本企業が重視する「チームで働く力」を見極めやすくなります。
日本への関心——「なぜ海外か」「なぜ日本か」
Taufik氏によると、ITB卒業生の海外就職先として最も多いのは中東(石油関連企業)で、日本はそれに次ぐ2番目の人気先です。IT・製造業を中心に、様々な業界で就職しているといいます。
海外就職を選ぶ理由として最初に挙がるのは、国内にはまだない先端産業へのアクセスです。特定分野で最先端の技術を学びたい学生は、その技術が生まれた国——たとえば日本——を選ぶ傾向があります。
日本が選ばれる理由については、「欧米以外で身近に感じられる文化」という点が大きいとTaufik氏は指摘します。アニメや映画などを通じた文化的な接触が、心理的な距離を縮めているようです(ただし近年は韓流ドラマの影響も強まっているとのこと)。
一方で、日本を選ばない・選べない理由としては、言語の壁が最も大きいとされています。Taufik氏自身も学生時代に日本留学を志望しながら奨学金が得られず、結果的に別の国を選んだ経験を語っています。
また、より根本的な壁として「家族と離れることへの抵抗感」が挙げられました。インドネシアでは家族との結びつきを重視する文化が根強く、海外に出ること自体への心理的ハードルが、日本に限らずどの国に対しても存在するといいます。
採用担当者へのポイント:日本への関心は「文化的な近さ」によって一定の土台がある一方、言語面のサポート(入社前後の日本語研修など)と、家族の不安を解消する情報提供(待遇・生活環境・キャリアパスの明確化)の両方が、応募・内定承諾の後押しになります。
まとめ——ITB採用で押さえるべき5つのポイント
| ポイント | 採用担当者への示唆 |
|---|---|
| IT人気は専攻を超えて広がっている | 理学・工学出身でデジタル分野に関心を持つ学生にも目を向ける |
| 就活はインターン経由でじっくり進む | 必修インターンの受け入れや大学との関係構築が採用の入口になる |
| 企業は課外活動経験を重視する | 学生団体・コンペ参加歴からチームワーク力を見極められる |
| 日本は海外就職先として2番手の人気 | 中東(石油)に次ぐポジション。まだ十分に開拓余地がある |
| 言語と家族への配慮が意思決定を左右する | 日本語研修と家族向け情報提供の両輪が内定承諾の後押しになる |
次回(#3)は「制度」より「対話」——インドネシア人材とムスリム受け入れの実務についてお届けします。