【出張レポート|マレーシア・タイ】円安でも人気は健在?現地で見えた人材採用の最新事情
2026年9月、マレーシアとタイの現地大学、そして留学生向けイベントを訪問しました。
マレーシアではクアラルンプールのマラヤ大学(UM)とマラッカ技術大学(UTM)を訪ね、来年度の契約更新や共同事業について協議。タイでは、JASSO主催の留学生向けイベント「Study in Japan」にゲストスピーカーとして登壇し、バンコクの現地学生たちの声を直接聞いてきました。
今回はその中で見えてきた、マレーシア・タイそれぞれの「今」についてお伝えします。
マレーシア編
洗練された学生と、揺るがない就職力——マラヤ大学(UM)
クアラルンプールに位置するマラヤ大学(UM)は、国内トップの大学として知られています。実際に訪問して感じたのは、学生の印象の洗練度です。首都という立地もあってか、都会的で自信に満ちた雰囲気があり、就職に困るという状況はそもそも想定されていません。トップ大学であることの強さを改めて実感する訪問となりました。
“対面”がもたらす日本語力の伸び——UTMの授業を視察して
一方、マラッカ技術大学(UTM)では、今年度から始まった日本語授業を実際に見学する機会がありました。
全180時間のカリキュラムのうち150時間を終えた段階で、インフルエンザ流行に関するポスターやニュースを題材にした、通常速度のリスニング教材を使った議論に対応できるレベルに達しており、正直なところ驚きました。
特筆すべきは、オンラインと対面のハイブリッドで実施されている中で、対面授業に移行して以降、日本語レベルが目に見えて向上しているという点です。大学側からも、次年度以降の継続を望む声が明確に示されました。
「画面越し」ではなく「対面」であることの効果を、数字ではなく現場の空気として感じた瞬間でした。
なお、今回訪問はしていませんが、マレーシア工科大学(UTM)はJLPT試験センターとして12年目の実績を持ち、2026年12月試験には363名が登録しているとのことです。マレーシア国内でのJLPT人気の高さがうかがえます。

シンガポールという強力なライバル——給与格差のリアル
マレーシアの就職事情を語る上で外せないのが、お隣シンガポールの存在です。
マレーシア国内の新卒初任給は月額約13万円(3,500リンギット相当)ですが、シンガポールで就職した場合、同水準の職でも3,000リンギット相当の仕事が9,000〜10,000リンギット相当になるなど、単純計算で約3倍の差が生まれます。
特にUTMのような南部の大学の学生は、日本の1.5倍ほどの初任給でシンガポール企業に採用されるケースもあり、地理的な近さも相まって、シンガポールとの人材獲得競争は今後もマレーシア南部で顕著になっていきそうです。
しかもシンガポールの日系企業に入社した後、2〜3年でより待遇の良い欧米系企業へ転職(ヘッドハント)されるケースも多く、競争は一段階では終わりません。
政権交代後の変化——国内志向の高まり
一方で、国内の給与水準が上昇したことを背景に、海外就職への意欲はやや落ち着きを見せています。
実際、マレーシアでは最低賃金が2025年2月にRM1,500からRM1,700へと引き上げられ、アンワル首相自身も「最低賃金は今後も段階的に引き上げ続ける」と明言するなど、賃上げは一時的な措置ではなく継続的な政策として進められています。
現地で聞いた声からも、「決め手はやはり給料」というシンプルな本音が伝わってきました。円安の影響で「どうしても日本へ」という空気が薄れている今だからこそ、良い人材と出会えた際に確実に囲い込む採用側の姿勢が、これまで以上に問われていると感じます。
タイ編
バンコクで感じた、日本就職の”手堅さ”
タイでの一番の目的は、JASSO主催「Study in Japan」への登壇でした。
会場で学生たちと話す中で改めて感じたのは、日本就職の”手堅さ”に対する信頼の厚さです。新卒一括採用という仕組みや、留学から就職まで見通しを立てやすいサポート体制が、「留学からそのまま就職まで」をワンストップで実現できる日本の強みを裏付けています。
文系はN1レベル、理系はN3レベルで就職が可能とされ、先進国の中で留学からそのまま就職までつなげられる国は、現状ほぼ日本だけと言っていい状況です。会場を支える元日本留学生協会(OJSAT)という組織の存在も大きく、イベント運営を積極的に支えている様子が印象的でした。

円安・物価高が変える「出稼ぎ」感覚
一方で、円安・物価高の影響は着実にタイの学生の意識にも及んでいます。バンコクのショッピングモールの物価は、体感としてほぼ日本と変わらない水準になってきており、以前のような「出稼ぎ感覚」で日本を目指す動機は薄れつつあります。
この体感は、マクロの数字から見ても裏付けられます。タイバーツは対ドルで底堅い推移が続いており、外需依存度の高いタイ経済にとっては輸出競争力の低下要因になっているとされるほどのバーツ高です。
タイ政府自身も2026年の経済成長率見通しを+1.5〜2.5%程度と、前年からの減速を織り込んだ水準で示しています。バーツが強含み、日本の物価水準にタイの物価が追いついてきているという構図は、「日本で働けば得をする」という以前の前提そのものが崩れつつあることを意味しています。
金額的な魅力だけでは選ばれない時代に入った今、日本企業で働くことの具体的なメリットや、日本のソフトコンテンツが持つ魅力を、これまで以上に明確に言語化して伝えていく必要があると感じています。
実際、「Study in Japan」には日本の大学・専門学校なども学生獲得のために参加しており、参加者数は前年より増加していました。日本への関心そのものは、まだ確かに残っています。

まとめ——採用に向けて
今回の訪問を通じて感じたのは、マレーシア・タイともに「日本への関心」は健在である一方、それを後押ししていた金額的な魅力は、円安と現地の物価上昇・賃金上昇によって相対的に薄れつつあるということです。
マレーシアでは、シンガポールという強力な競合を前提とした採用戦略が必要になっています。タイでは、就職率97%という日本ならではの強みや、ソフトコンテンツの魅力をどう具体的に訴求するかが今後の鍵になりそうです。
いずれの国でも、「良い人材と出会えたときに、いかに確実に選んでもらうか」という視点が、これまで以上に重要になってくると考えています。
今後も現地のリアルな声を採用戦略に活かせるよう、継続的な訪問を続けてまいります。マレーシア・タイの人材採用や大学へのアプローチ方法など、気になることがありましたらお気軽にお問い合わせください。
(参考)今回訪問した大学
マラヤ大学(Universiti Malaya:UM)
クアラルンプールに位置するマレーシア最古の国立総合大学。医療・工学・理学・社会科学・人文科学など幅広い学位プログラムを提供し、QS世界大学ランキングでも国内最上位クラスにランクインしています。
マラッカ技術大学(Universiti Teknikal Malaysia Melaka:UTM)
2000年設立、マレーシア初の公立技術大学。工学・情報通信技術(ICT)・技術管理などに強みを持ち、実践・応用志向の教育を提供しています。今年度開始の日本語授業では、対面移行後に学生の日本語レベルが顕著に向上しており、大学側も次年度以降の継続に前向きです。