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韓国の就職活動は厳しい?〜韓国人学生と日本人学生の就活事情の違い

目次

日本から地理的に近く、日本語話者が多い国、韓国。
韓国と日本で共有している文化も多くありますが、韓国と日本では就職事情は全く異なります。

そこで、新卒韓国人学生の就活事情について、韓国人学生のヒアリング調査や現地大手メディアの情報をもとに見ていきます。

【韓国】人事のための大学情報まとめ

【学生の就活スケジュール】

日本の大学生は早い人では、大学3年生の夏頃から就職活動をはじめますが、韓国の大学生の多くは、就職活動を4年生の2学期からはじめます。ただ、韓国の場合は、大学に入学してからすでに企業への就職活動が始まっているとも言えます。韓国の大学生は1年生の頃から志望する有名企業に入社するために、就職に有利な資格の取得や、長期インターン、語学学習、海外留学など、自らの『SPEC』を高めるために多くの時間を使います。また、韓国では『学業成績』も就職活動において重要な選考基準となるため、学生は良い成績を取るために勉強に力を入れています。そのため、大学の成績で、”A,B,C,D, F”の5段階評価の”B”をとって絶望する学生もいます。

学生が『SPEC』や『学業』に力を入れるのは、韓国の採用が実力を重視したスキル採用が主流なことに理由があります。日本では新卒学生のポテンシャルを重視した一括総合職採用が毎年計画を立てて行われていますが、韓国では日本企業の『中途採用』のように、各企業のそれぞれのポジションで欠員が出た際に随時採用募集が行われます。サムスンなど一部の財閥系の大企業では日本のように、春採用、秋採用のように新卒一括採用が存在します。しかし、大多数の韓国企業では新卒学生であっても、職種・スキルベースの通年採用が主流となっています。

 

【学生が就職活動で企業を選ぶ基準】

韓国の学生に人気の企業は、財閥系の大企業や公的機関です。これは、韓国の中小企業の給料が低いためであり、多くの学生は給料が良く、福利厚生が充実している大企業を目指します。公務員は、年収こそ財閥系の企業よりも下がるものの長年に渡って安定した収入が見込めるため、人気があります。ある韓国人学生によると、学生のなかにはソウル大学の入学試験と公務員の試験両方に受かり、大学には行かずに公務員としては働きはじめる人もいる、とのことです。しかし、近年は韓国の大手企業の給料が年々高くなっているので、一流大学から、公務員を目指していた層が大手企業を目指して就職活動をする、優秀層の公務員離れが起きはじめています。

日本では、若手のうちから経験を積むためにベンチャー企業や外資系企業の内定を目指して就職活動をすることが、一つのトレンドになっています。しかし、韓国人就活生の間ではベンチャー企業への人気はまだまだ下火で、Naverなど一部の有名ベンチャーは学生の間で人気がありますが、ベンチャー企業全体を見渡すと、ベンチャー企業をファーストキャリアとして選ぶ学生はまだ多くありません。また、外資系企業に新卒学生が就職することは、たとえその企業で長期インターンを経験していたとしても極めて難しく、転職で入社するのが王道とされています。

*韓国の給料事情についてはこちら:韓国の方が日本より給料が高い?〜韓国の年収事情〜業界別平均年収・新卒年収

 

【就職活動で内定を手に入れるまでの厳しい道のり】

日本では、学生が企業にエントリーシートを送ってから、能力試験、複数の面接を突破し、企業から内定、入社が一般的なフローです。一方、韓国の場合はESを送ってから、面接、その後に長期インターンシップを挟んでから、最終面接、内定となります。この長期インターンシップの期間は業界によって異なりますが、文系のポジションの場合は1ヶ月〜3ヶ月、エンジニア系のポジションで最大6ヶ月もの間、インターン生として一つの企業で働かなければいけません。そのため、日本のように複数の企業に応募し、選考を同時並行で進めることができません。さらに、長期インターン中はその学生の業務能力が厳しくチェックされ、評価が良くない場合は最終面接に進むことができません。このような理由で、韓国ではたとえ優秀な学生であったとしても就職するまでに2〜3年かかってしまうことも珍しくありません。
【関連記事】
・韓国大学生のスペックがインフレ中?日本就職を決めた韓国大学生の就活事情

 

【新卒韓国学生の就職率】

韓国の4年大学に通う新卒学生の就職率は過去5年60%〜65%の間で推移しており、日本の新卒学生と比較すると30%も低い値となっています。韓国の総合系トップ大学でSKYと呼ばれている、ソウル大学、高麗大学、延世大学でも新卒学生の就職率は6割後半から7割前半であり、韓国の上位校を入れても1番就職率が高い大学(成均館大学)でも8割には届きません。そのため、韓国のトップ層以外の大学ではさらに就職率が低いことが予想されます。

ただ、ここで一つ注意すべき点があります。韓国の就職率は大学4年生が終わった後も卒業せずに大学に在学し、仕事を探すために何年間学生のままでいる人も含んでいます。大学4年生の秋学期から就職活動をはじめ、その後数ヶ月で企業から内定を取れる人はそこまで多くありません。それを加味すると日本のように、大学を4年間、または、大学院を6年間で内定を獲得してストレートで卒業できる学生は、この数値よりもずっと低いと考えられます。韓国の就職ポータルのインクルートが行った調査によれば、2018年の大卒の新入社員の平均年齢が30.9歳と、日本の大卒新入社員の年齢よりもずっと高い年齢で最初の職を得る人が多いようです。

高学歴、そして来る就職に向け経験、語学力などのスペックを積み重ねた韓国のトップ大学に通う学生でさえ、就職率が7割前後であることを考えると、韓国で就職することは非常に困難であることが伺えます。就職難で就職先をなかなか見つけられない学生の中には、就職活動半ばで燃え尽きてしまい、企業への就職を諦める人もでてきます。

*韓国大学ランキングについてはこちら:韓国大学ランキング~優秀な学生を採用したい企業がチェックすべき「韓国の人気大学」とは

 

【厳しい大企業・公務員への道】

学生の多くは、給料が高く、福利厚生が整った大企業を目指しますが、そのような大企業に入社できるのはごくわずかな学生のみです。ロイターの報道では、250名以上の従業員が働いている大・中企業で働ける韓国人は国の労働力の13%のみで、2019年の大卒者約30万人に対して、大手・公的機関に就職できる新卒学生の割合は全体の1/3以下と言われています。

韓国では公務員になることも非常に狭き道です。大手企業での就職が難しいと考える学生は公務員を目指し、公務員試験を受けます。しかし、同じような考えを持つ学生が多くいるため、ある公務員試験では、20万人が受験し、合格したのが約5000人のみでした。公務員試験の合格率が非常に低いことから、ハーバードに入学するよりも、韓国の公務員になるほうが競争が激しいと、メディアで取り上げられたこともあります。

 

【韓国の文系と理系で異なる就活事情】

厚生労働省が出した、『令和3年度大学等卒業者の就職状況調査』によると、日本では文系・理系関係なく、就職希望者の9割以上が就職できています。しかし、韓国では文系か理系かによって就職率に大きな差あります。現地の大手新聞社の朝鮮日報によると、ソウル最上位の大学の哲学科を卒業した学生の就職率は28.6%、それに対して、同大学のコンピューター工学科、76.6%、材料工学85.7%と就職率に大きな開きがあります。その他のソウルにある上位大学でも同様な傾向が見られ政治外国学40%に対して、コンピューター工学、82.3%、電子工学75%です。このように韓国では、文系と理系で就職率に大きな差がでます。

この文系と理系の就職率の大きな隔たりは、韓国の労働市場における理系人材需要によって生じています。文系人材が多く就職していた、金融業界やマーケティング、財務分野でも仕事のデジタル化が進み、今ではデータ分析やプログラミングができる理系人材が求められるようになっています。サムスンやSKハイニックスなど最先端の技術を扱う企業では、商品を販売するために高い技術的な理解が必要とされるため、営業部でも理系学科出身の学生が多く採用されています。

理系人材の需要が韓国の労働市場ではとても高いため、文系の学生の中には大学とは別にIT技術を学ぶために塾に通う学生もいます。しかし、塾の授業料はとても高額で、大学の授業料と同じくらい、場合によっては大学の授業料以上のお金を払いプログラミング塾に通います。そのため、学生は金銭的、時間的に膨大なコストを払わなければなりません。さらに、文系の学生が一生懸命プログラミングを勉強したとしても、コンピューター工学を卒業した学生と同じように就職活動ができるわけではありません。SKYの一つである高麗大学に通うある文系の学生は、サークルで部長で、複数の長期インターンを経験し、プログラミング塾に通いアプリ開発経験もありましたが、就職先を見つけるまでに2年かかっています。このように、韓国では大学入学時の専攻選択が、その後の仕事や就職のしやすさに大きく結びついています。

 

【海外就職を考える韓国人学生】

韓国で海外就職を選択肢に入れている学生は多いです。韓国のYBM韓国TOEIC委員会が2019年に行った、就活準備をしている学生6,043名を対象にした海外就職に関するアンケート調査では、海外就職に関して、約8割が「機会があればしたい」、1割を超える人が「計画や準備をしている」と回答しています。また、韓国の就職ポータルが2019年に行ったアンケート調査では、1,118人のうち47.6%は国内就職が難しければ、海外での就職も選択肢として入れると答えている。2つのアンケート調査では、質問内容やアンケート調査対象が異なるため、数値に大きな差がありますが、依然として約半数の韓国人学生にとって、海外就活は選択肢としてありうるということが分かります。

 

【海外就職を後押しする韓国政府】

韓国では、20代の若者の失業率が高いことが問題となっており、2013年から韓国政府によって若者の海外就職を支援する『K-move』というプログラムが始まっています。世界70カ国の送り先の国の中でも日本は重要な国と考えられ、韓国政府は2022年までに1万8千人の若者の海外就職を支援する方針を発表し、そのうち、4割以上の学生が日本に割り当てられました。2019年には2カ国の関係性が冷え込み、2020年からはコロナによって国を行き来できなくなったため、日本企業に就職する韓国人学生は減り当初のプラン通りには行きませんでした。しかし、入国制限が緩和され始めた2022年になると、日本企業向けに行われた海外就職博覧会に1000人を超える学生が事前登録を行うなど、日本への就職を目指す学生が増え始めました。コロナ禍以前の状態に戻るにつれ、韓国の労働市場の状況に変化がない限り、日本就職を考える韓国人学生が増えていく可能性が高いのではないでしょうか。

 

【まとめ】

韓国は受験戦争で有名かもしれませんが、その競争は就活競争へと変わり大学に入学してから、そして卒業後も続きます。そのため一部の学生は自身の能力を自由に活かせる場所や、自分を最も成長させることができる環境を求めて海外就活を視野に入れ、韓国政府もそれを支援しているのが韓国学生の就活事情の現在の状況です。

ASIA to JAPANの外国人採用支援サービス、『FAST OFFER』では、韓国人学生も含め、日本就職を目指す学生の支援を行っています。

【参考資料】

ハンギョン社会 低くなった大学就職率」「来年がもっと怖い」

厚生労働省 令和3年度大学等卒業者の就職状況調査(令和441日現在)

中央日報 新型コロナウイルス感染症に深刻化した「文科専攻の就職だけがさらに難しくなった。

中央日報 韓国、就職難で新入社員の平均年齢30歳超える

Globe+ 韓国の公務員試験は「ハーバード合格より難しい」 過熱ぶりは海外でも報道

ロイター 「焦点:韓国が輸出する「大卒無職」の若者たち、日本も受け皿

Newswee  「韓国で、再び盛り上がる「日本就職」。日本を目指す若者は日本人が考えるよりはるかに多い」

JETRO 「若者の日本での就職、韓国政府が支援に乗り出す」

Acrofan 「大学生・就学生10人中9人「海外就職意向あり」」

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