【出張レポート】政変から3年。ミャンマー国内学生の現状とは?
〜「日本語能力試験」国別受験者数No.1 の背景に迫る〜
ASIA to JAPANは、2024年1月26日〜31日の6日間にかけて、ミャンマーの工科系大学である「タンリン工科大学」「ミャンマー海事大学」の2校と、長年協力いただいている現地機関を訪問しました。
■政変から3年を迎えたミャンマーの現状は?
ミャンマーは、中国やインド、タイなどの国に隣接しており、1989年に起きた政変後にビルマ連邦から、今のミャンマー連邦共和国に変わった歴史があります。
(※ミャンマーの基礎情報はこちらから)
そして、2021年にミャンマーの国軍がクーデターを起こし、日本でも著名な当時の国家顧問アウン・サン・スー・チー氏などが拘束されたことをきっかけに、軍事政権へと変わりました。
政変以降、声を上げる国民と国軍の衝突が繰り返されるなど、ミャンマー国内の情勢は不安定になっています。
さらに、諸外国からも経済制裁を受けているため、失業者や貧困者が増加傾向にあります。
・訪問時の国の状況
訪問最終日である1月31日付で、ミャンマーの軍事政権が非常事態宣言を2月1日から6カ月延長すると発表しました。これは、2021年2月のクーデター時に発令されたもので、今回を含めて計5回の延長が行われています。
日本貿易振興機構(JETRO)によると、ミャンマーの国内情勢について
国軍と少数民族の武装組織や民主派武装組織との戦闘は2023年10月以降特に激しくなっており、国境周辺の治安悪化に伴って中国やタイとの陸路越えの国境貿易に影響を及ぼしている。ミャンマー進出の日系企業は先行きの不透明感から、撤退や縮小を決定する事例も出ており、厳しい事業運営を強いられている。
※JETRO「ミャンマーが非常事態宣言を再延長、延長は5回目」より引用
と公表しており、いまだ政治や経済において不安定な状況が続いていることがわかります。
一方で、実際に訪問した最大都市のヤンゴンは、クーデター勃発時に報道されていた状況とは違い、前回訪問した2019年当時とほとんど変わらないほど賑やかで、行動制限は深夜の外出禁止令が発せられているのみなので基本的に安全でした。ただ、紛争に巻き込まれる懸念から地方都市への訪問のみ禁じられました。
・移動手段の制限
賑やかなヤンゴン市内でも移動手段には注意が必要で、タクシーやGrab(Uberのような東南アジアで展開するライドシェアサービス)を利用した場合、予期せぬ問題に巻き込まれる可能性があるとのことで、今回の訪問では専用車を用意いただきました。街の様子とは異なり、移動手段では“万が一”が起こりうる状況が続いています。
■大学と学生の現状
今回の訪問目的は、ミャンマーの理系大卒者(高度人材)の日本就職への意向と、提携する機関での日本語学習状況の確認。そして、新たに理系学生向けの日本語授業の開設準備を行うことでした。
訪問した工科系の大学2校ではとても気になる話を伺いました。それが、「民主派の教員や生徒が大学への出席をボイコットする動きが続いている」ということです。
現在、軍事政権のミャンマーでは、国軍が国立大学の運営を取り仕切っています。そのため、国軍に対して異を唱える教員や生徒が、大学に来ないという問題が発生しており、教員不足から大学としても新たに受け入れる学生数を絞らざるを得ない状況に置かれているそうです。事実、訪問した大学では、学部によって学生数が1/3〜1/4程度に減っているとのことでした。
・多数の日本就職希望者
今回、ある日本企業の採用説明会のアレンジをしました。当日は、タンリン工科大学で97名、ミャンマー海事大学で116名の学生が参加し、学生から日本就職に対する熱意が伝わって来ました。
また、タンリン工科大学の学長から、「韓国の研究機関から学生を招聘したいとの話もあったが、日本行きを目指したいとの理由で学生に断られた」と、日本就職を強く希望する学生のエピソードをお話いただきました。ミャンマーの学生にとって、既に多くの先輩が日本で働いていることも、日本就職を希望する大きな理由となっているとのことです。
・増えるミャンマー人材
ミャンマーには、日本就職を目指す人材が多いです。実際に、日本語能力試験(JLPT)の国別受験者数では、2番目に多い台湾の33,272人より1万人以上多い45,778人と、最大の受験者数を誇ります。
また、ミャンマー出身の在留外国人材の数が、ここ数年で上昇傾向にあります。
厚生労働省が、1月26日に公表した【「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)】によると、対前年増加率が大きい主な3か国にミャンマーが含まれていました。その数は、71,188 人と前年の47,498人に比べて50%ほども増加しています。
※タンリン工科大学
※ミャンマー海事大学
・学生の悩み
前述した通り、大学では民主派のボイコットの影響もあり、普段通りの講義が行われていません。
学生は、大学時代に身につけたことが日本就職時の武器になると考えています。そのため、専攻する分野でより高度な知識や研究の機会を得ようと試みているものの、教員不足の事情も相まって、大学で研鑽するには環境が不十分である事に一部の学生は焦りを感じているそうです。
ある学生は、「電気専攻だが、研究をWeb開発に関するテーマとし、就職先もWeb開発の分野に切り替えたほうが良いか」といった、学習環境の現状から将来を見据え、「卒業研究のテーマを自分の専門以外の分野で設定すべきか」という質問がありました。
・もどかしい現状
また、とても“もどかしい”現状についても耳にしました。
高度人材として日本で就業するためには、技術・人文・国際の在留資格の取得が必要です。その取得要件の一つに、大学の卒業、学位の取得があります。
しかし、大学に行くこと自体が、反軍や民主化に背く行為と見る向きもあるとのことで、希望する将来に向けて活動するには、何かしらの犠牲を払わなければいけないという実情を垣間見ることとなりました。
・日本企業に魅力的な強み
ミャンマー学生の強みは、日本企業の組織への順応性の高さと日本語習得能力です。学生が抱く日本就職の意欲の高まりは、他の国には無い潮流といえます。
また、説明会を実施したタンリン工科大学の男女比率は、男性6割に対し女性4割。ミャンマー海事大学にいたっては、男女比が半々という集客結果でした。なんと、2校あわせて約100名もの理系女性が参加しました。日本の企業各社がこぞって取り組む「理系女性採用」においても、ミャンマーは有力な母集団だと言えるでしょう。
・学習時間問題
ミャンマーの学生は、卒業間際まで日本語を学ぶ時間を確保するのが難しいという事情があります。
これは、80年代後半に起こった当時の政変の影響を受けたものです。その当時の民主化活動を先導していた若者達の拠点が大学であったため、その後の政府が大学を分散させ、市外に遠ざけたという事情があります。その結果、大学生の多くは、数時間かけて通学しており、日本語を学ぶための時間確保が難しくなっています。
日本での就職を目指す学生は、卒業間近から日本語の学習を開始し、卒業後に一気に集中して能力を身につけます。
■採用市場としての考察
採用市場として、ミャンマーの今後はどう捉えるべきでしょうか?
今回の訪問では、「ミャンマーで事業を継続する日本企業は次の時代を見ている」ということにも気付かされました。ASIA to JAPANにおいてもその考えは同じです。
・日本大手2社の動き
訪問に先立つ1月23日、ミャンマーで携帯通信事業を共同で手掛ける住友商事とKDDIが、同国での事業を継続するとの方針表明を行いました。
日本経済新聞の報道によると、
1月23日付の発表文で両社は「ミャンマーにとどまり責任ある行動を取ることによる貢献」を重視すると強調した。両社は共同出資の会社を通じて2014年にミャンマー郵電公社(MPT)と共同事業契約を結び、事業を事実上一体化している。同国では軍政が携帯通信の接続制限や個人情報の取得などを通じ、民主派や反国軍勢力を取り締まっている。両社は従業員の安全確保や人権を巡る専門家の意見を踏まえて「国民のための通信網維持・確保が人権尊重上重要である」と判断した。
※日本経済新聞「住商・KDDI、ミャンマーで事業継続を表明 携帯通信」より引用
とあります。
・採用市場の変化
ヤンゴン滞在中、現地に駐在する日系大手メディアの方から、「クーデターから3年が経過するなか、この状況を新たな状態と捉える必要があるのではないか」とのお話をいただきました。
ASIA to JAPANでは、コロナ禍以前からミャンマー学生の採用支援を行っていますが、他のアジアの国の学生と比べた際の競争力が以前と比べ高まってきているように感じます。大手企業の本社採用で、ミャンマーの学生が内定獲得するケースが増えてきています。日本で働く先輩が増え、その先輩たちから積極的に情報収集を行うなどし、日本へ就職することについて知識を深めていることが要因にあると考えられます。
厳しい環境下にあるが故に、日本への就職意欲が高まっており、確度の高い採用ができる国と捉え、ASIA to JAPANでは今後も取り組みに力を入れていきます。
■まとめ(ASIA to JAPANの活動)
今回の訪問で、ミャンマーの学生から日本就職に対して強い思いを感じる一方で、教育環境がいまだに安定していないという事実を目の当たりにしました。
また、ミャンマー国内には危険な地域もありますが、ヤンゴンについては以前のような賑わいを取り戻しつつあるようです。
ASIA to JAPANは、長年協力いただいている現地機関の支援のもと、FAST OFFER向けの新たな日本語授業を3月より開始します。期間は9月までの7ヶ月間で、電気、機械、情報系を中心に、50名の学生を受け入れ育成していきます。
(※FAST OFFERについてはこちらをご覧ください)
ミャンマーの学生は、日本語力ゼロからのスタートでも、半年ほどで日本語の面接を行えるレベルまで成長します。内定を得てから入社までの期間も、更に学び続けることで、入社時にはJLPT-N2レベルに達することも珍しくありません。
2024年10月入社や、2025年4月入社での採用に向け、日本語での面接が可能な学生を複数名アレンジすることが可能ですので、ミャンマーの理系学生をはじめ、海外の高度人材採用にご関心がありましたら、お気軽にASIA to JAPANへお問い合わせください。