【出張レポート】大学側の受け入れ姿勢が変わりつつあるインド学生の就活事情とは?
12月1日よりインド最高峰のトップ大学「インド工科大学(通称:IIT)」では、世界中の企業が参加する採用面接イベント「プレースメント」が始まりました。
ASIA to JAPANはプレースメントでの採用支援のため現地インドを訪問しました。
併せて2024年12月3日〜11日にかけてインド現地の様々な大学を訪問し、日本語話者育成プログラムの誘致や大学関係者と今後の取り組みに向けた打ち合わせをしました。
※2024年度IITプレースメントについてはこちらの記事をご覧ください。
この記事では訪問した大学の紹介や、インドの大学事情についてご紹介します。
■今回訪問した大学
・MIT世界平和大学(MIT World Peace University / MIT-WPU)
MIT世界平和大学は元々マハラシュトラ工科大学として知られ、1983年にMAEERグループの最初の大学として、かつマハラシュトラ州で最初に設立された私立工科大学の一つです。
2017年に独立しMIT世界平和大学となりました。
今回の訪問では大学とMOUを新たに結び、半年間実施するASIA to JAPANへのインターンシッププログラムの打ち合わせをしました。
また、もともとASIA to JAPANは「All India」というインド国内大学を対象とした日本語講座をオンラインで開講していますが、同校はこのプログラムから独立し専用プログラムを開講することが決まったため、授業内容の打ち合わせを実施しました。
・プネ・ヴィディヤルティ・グリハ工科大学(Pune Vidhyarthi Griha’s College of Engineering and Technology and G. K. Pate (Wani) Institute of Management / PVG)
プネ・ヴィディヤルティ・グリハ工科大学は、1909年に設立されたマハラシュトラ州の有名な慈善団体「Pune Vidyarthi Griha」によって、1985年に援助のない大学として設立されました。
AICTE (全インド技術教育評議会) およびマハラシュトラ州政府によって認可された、サヴィトリバイ・プーレ・プネ大学の系列校で、約140以上系列校がある中でトップ10に入っています。
今回の訪問では、学長と学部長にお会いし、学生の就活状況のヒアリングに加え、インターンシッププログラムを提案しました。
また日本就職を考えさせるきっかけづくりとして、急遽新入生のオリエンテーションに参加することになり、約300名に向け日本就職について紹介しました。
紹介の際、日本文化の一例としていくつか漫画やアニメのタイトルを伝えると大多数が知っており、日本文化が10年以上前と比べて深く浸透してきていると感じました。
・プネ大学 MMCOE(Marathwada Mitra Mandal’s College of Engineering / MMCOE)
プネ大学 MMCOEはインド政府の元内務大臣、故シャンカラオジ チャヴァン氏を「創立者会長」として1967 年に設立されました。
社会的および教育的に情熱を持った人物たちの影響を受けており「Yethe Bahutanche Hit」(大衆の福祉)というモットーを掲げています。
大学では経営、法律、商業、薬学、工学、建築などに対応する優れた教育施設を創設し、12,000人以上の学生に優れた教育を提供しています。
今回の訪問では、インターンシッププログラムについて提案しました。
・ピンプリチンチワッド工科大学(Pimpri Chinchwad College of Engineering /PPCoE)
ピンプリチンチワッド工科大学は、サヴィトリバイ・プーレ・プネ大学系列の最高の工科大学として1999年に設立されました。
ピンプリチンチワッド教育トラストという独自の教育メゾットによって育成しています。
工学および経営学の学生に、学問や業界向けトレーニング、スポーツ、課外活動、文化活動、様々なコンテストに関する最高の専門環境を積極的に提供しており、社会に貢献できる技術的に有能なエンジニアおよび管理専門家を育成しています。
大学内での就職イベントの開催も盛んであるのが特徴。
ASIA to JAPAN提供の日本語授業出身者の就職実績も多数あり、大学就職課の教授陣からも学生の日本への就職を加速させたいという意向が伺えた。
今回の訪問では、個別で日本語講座開講の提案をいただいたので、インターンシッププログラムについて提案し打ち合わせしました。
・D.Y.パティル大学( Dr. D. Y. Patil Vidyapeeth, Pune / DPU)
D.Y.パティル大学は、1956年UGC法第3条に基づきインド政府大学助成委員会によって2003年に設立されたサヴィトリバイ・プーレ・プネ大学の系列校です。
今回訪問したのは、そのD.Y.パティル大学の分校のような立ち位置にあるDR. D.Y Patil College of Engineering And Innovation(DRPCOEI)になります。
医学、歯科、看護、理学療法、検眼、バイオテクノロジー、経営、アーユルヴェーダ、ホメオパシー、デザイン、関連健康科学、教養、科学技術、オンライン学習センター、スキル開発センターの分野と全部で15学部があります。
今回の訪問では、個別で日本語講座開講の提案をいただいたので、インターンシッププログラムについて提案し打ち合わせしました。
・RMK大学(R.M.K. Engineering College / RMKEC)
RMK大学は1995年にチェンナイ北部で設立された理系大学です。
コンピュータ サイエンス エンジニアリング、電気工学、電子通信工学、機械工学、情報技術など18の専門分野を扱い、また独自にN4を目指した日本語カリキュラムが設定されています。
同校からは学生が日本の大手自動車メーカーに就職した実績があります。
今回の訪問では、この日本語カリキュラムのサポート依頼がメインで、今後ASIA to JAPANの日本語講座を別途個別プログラムとして組み込む予定です。
今回は1年生の学生を対象に日本語講座や日本就職についての説明会を実施しました。
日本のような早期での就職活動準備の概念がないインドですが、弊社では低学年に対しても説明などを行い、できるだけ早い段階での日本語学習モチベーションのアップ・日本就職準備をサポートしています。
・チェンナイ工科大学(Chennai Institute of Technology / CIT)
チェンナイ工科大学は、首都圏で第一世代の起業家として成功を収めてきたシュリ・P・スリラム氏が「技術教育機関を設立したい」という強い思いから、十分な産業経験を積んだ質の高い技術教育を提供することを目的に2010年に設立されました。
産業に関する専門知識を活かして模範的な技術教育を提供しており、革新的な教育方法で若者のニーズに応えています。
また企業が求める人材育成を進めており、就職予備校のような役割を担っています。
同大学では日本の大学との提携にも力を入れており、交換留学や短期研修制度などで日本への滞在経験をもつ学生が複数名います。中には日本滞在の経験から、2回生ながらにしてN3-2レベルの日本語力を保有する学生もいました。
同校は学生の日本就職を強める意向を示しており、今回の訪問では新たにMOUを結ぶためのすり合わせや、インターンシッププログラム導入に伴う打ち合わせをしました。
・サンジュバニ工科大学(Sanjivani College of Engineering:SRES-COE)
サンジュバニ工科大学は、1983年に社会経済変革の先駆者であるシャンカラオジ・コルヘ・サーヘブ氏によって、農村の人々に技術教育を施すことを目的として設立されたプネ大学に所属する大学です。
サンジワニ工科大学は、マハラシュトラ州のシルディという、都市から離れた小さな町にある大学でありながら、今年はインド国内の会社から、5名の学生がINR 27 LPAの給与でオファーをもらいました。昨年は1名。大学の注目度も上がっている様子です。
今回の訪問では創業者とお会いし、インターンシッププログラムを提案しました。
内容に興味を持っていただき導入が決まりました。早ければ年明けからプログラムを開始します。
■インドの大学事情
・学生の就活事情
学生からのヒアリング内容は概ね5ヶ月前(2024年7月)に訪問した時と大きく変化はありませんでした。
※当時のヒアリング内容はこちらから
実は就職先の先細りとは逆に、インド国内での大学生の数は年々増加傾向にあります。
IT・エンジニア系の学部生は、比較的に企業からの人気があるので就職先を探しやすいですが、文系はもちろん、工学部などのその他理系は人気が少ないため就活に苦戦を強いられています。
・大学の思い
訪問した大学でのヒアリングで印象に残ったものが「学生をもっと日本に就職させたい」という、教授陣の切実な思いでした。
ASIA to JAPANはインド人学生の日本就職支援の実績が多数あり、また大学訪問も欠かさず実施しているため重要な生の声を伺えました。
経営者として悩ましいことが「学生はいるのに行き先がない」という状況で、この深刻な問題は各大学で最優先事項として扱われています。
そのためか直近の訪問では、大学の学長やファウンダー(投資家)が打ち合わせに参加されるケースが増えてきました。
・大学の縛り
インドの大学では、自校のカリキュラムを独断で変更するには「オートノマス」という独立校としての認定を受ける必要があります。
この認定を受けるには国の機関による審査を受け、そのためのポイントが必要なため、大学としては手間がかかるのに加え実績が必要という点において、やや敬遠する傾向にありました。
オートノマスでない場合、プネ大学のようなどこかの大学の系列として所属するのが一般的です。
その場合、大学内の希望を実現するには大元の大学(経営陣)からの許諾を受ける必要があり、もし経営者が反対した場合は希望が通らないというケースもあります。
そうした中、近年このオートノマスを取得する大学が増えてきました。
具体的な理由はヒアリングできていませんが、系列校のままでは思うようにカリキュラムを変更したり方針を変えたりできず、学生誘致がうまくいかないといった問題があり、その解決に向け取り組むようになったからではないかと考察します。
・大学の価値を左右する大事なポイント
過去記事でも触れていますが、私立大学は教育機関であるとともにビジネス(経営)としての側面があります。
ネームバリューがすでにある大学を除くと、運営するにはより多くの学生を集める必要があり、各大学が1人でも多くの学生を入学させるためPRを実施します。
大学の価値を上げる一つの判断材料、それが企業が学生に提示した年収です。
この年収が高ければ高いほど、優秀な学生を輩出しているという判断がされるのです。
現状日本企業が提示する額は、インド国内の多くの大学にとって非常に魅力的な金額であり、学生の日本就職を後押しする要因にもなっています。
■日本語プログラムで新たな試み
ASIA to JAPANが提供する日本語講座は、通常1年半でJLPT(日本語能力検定)N3レベルまで育成するプログラムで、海外の理系学生を対象に開講しています。
今回新たな試みというのが、この育成期間を“半年”に縮め短期間で日本語での面接を可能にするレベルまで育成するというものです。
1年半プログラムは2年生の後期から始まり4年生で修了することを前提にしているため、3,4年生になってから「日本就職を目指したい」と相談を受けても残念ながら間に合いません。
しかし半年プログラムであれば、4年生の前期から始めたとしても面接に間に合わせられます。
そして、半年プログラムを修了した学生は、続けてASIA to JAPANへのインターンシップに参加してもらい、日本企業で働く経験と労働環境への理解を深めてもらう予定です。
この半年プログラム + インターンシップの組み合わせは、興味を持っていただいた各大学の「カリキュラム」に組み込んでいただくことになります。
短期集中で育成するためには講義を1〜2時間ではなく、半日かけて実施する必要があるため大学の協力が不可欠です。
近年インドの大学では就職先の先細りを懸念しており、海外の就職先を積極的に探しています。
そのためASIA to JAPANが提供する日本就職に向けた就職支援は大学にとってまたとない機会だと認識され、カリキュラムの変更を前向きに実施いただけるまでに至っています。
■成長するインド市場
近年、インド国内の企業が大学生にオファーをかける年収額が上昇傾向にあります。
前回の2024年IIT速報記事でも触れていますが、IIT学生に対しRs 1.65 crore(1,200万円-3,000万円)ほどの金額が提示されました。
そのほかインド国内トップ企業でも300〜400万円ほどの提示がされるようになってきており、今後優秀な人材が国内に残るケースが増える可能性があります。
ASIA to JAPANはかねてより各国のトップ大学を中心に訪問し関係を構築してきましたが、さらに訪問大学の幅を広げていこうと考えています。
またインドにおいては、プレースメントでの支援やオンライン講座だけでなく、各大学のカリキュラムに入り日本語話者育成に勤しむ新たなフェーズに突入しました。
■まとめ
今回はインドの学生事情などをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
半年前に比べて、日本就職を求める声がより強くなってきたと感じました。
さらにインターンシッププログラムを提案できるようになったのは、インド人材の採用を希望する日本企業が増えてきたからです。
訪問校の大半は今回の訪問で初めて同プログラムについて提案しました。
予想ではほとんどから断られると思っていましたが、蓋を開けると全ての大学から前向きに検討すると返答されました。
互いのニーズが強くなっている点からもインドは改めて引き続き注目すべき国だと考えています。
ASIA to JAPANは理系人材採用以外にもお客様のご要望に寄り添った採用支援をしています。
海外の高度人材採用へのご関心、また採用後から入社までの手続き方法など気になることがありましたら、お気軽にASIA to JAPANへお問い合わせください。