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中国の大学入試で日本語熱~外国語で英語に次ぐ人気~[寄稿]日本経済研究センター湯浅氏

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目次

中国の大学入試で日本語熱〜外国語で英語に次ぐ人気〜

中国で、日本語を学ぶ高校生が急増しているといいます。
それは何故か?中国人の留学生増や、新卒採用に好影響をもたらすでしょうか?
日本経済研究センター首席研究員であり、中国研究室長でもある、湯浅健司氏に寄稿いただきました。

 


(寄稿者)
湯浅健司 氏(日本経済研究センター 首席研究員)
詳しいご紹介は日本経済研究センター

 


中国で若者の一生を大きく左右する全国統一大学入試(普通高等学校招生全国統一考試、通称「高考」)がこのほど実施された。年に一度の試験に臨む高校生の数は年々、増加し、今回は過去最高の1078万人にのぼったという。激しい競争から現代版「科挙」ともいわれる「高考」を巡っては、意外なことに日本との関係が中国メディアなどで話題となっている。近年、受験科目のうち外国語で「日本語」を選択する学生が急増しているのだ。

 

日本語受験生、4年で10倍に

四川省の省都、成都市から車で1時間半。小さな地方都市、資陽市楽至県の高校に通う劉岩さんは昨年、高考を受験した一人だ。外国語科目ではクラスメートの大半が選ぶ英語ではなく、日本語を選択した。「試験はそれほど難しくなかった。たぶん145点(150点満点)くらいは取れたと思う」。中国紙のインタビューに明るく、こう答えている。

劉さんは数年前、日本のスポーツ番組がきっかけで、日本語に興味を持った。日本語を勉強したいと思うようになったのだが、高校には日本語専門の教師がおらず、独学するしかなかった。ネットで教材を買い、「あいうえお」から始めたという。それでも入試では満点近い成績を残したのだ。

中国で劉さんのような高校生が増えている。高考で日本語を選択した受験生の数は、2016年は全国で約1万人だったが、その後、右肩上がりで増加して、20年には実に10倍の10万人を突破した。高考の受験総数の伸びを遥かに上回る増加ペースである。総数に占める割合は、16年はわずかに0.1%だったのが、20年は1%となった計算だ。地域別では広東、浙江、江蘇省などの出身者が多いとされる。

 

難関・英語より得点しやすい

高考は年に1度、6月上旬に2日間に渡って実施される。受験科目は合計4科目。初日が国語と数学、2日目は文系総合か理系総合のいずれかと外国語だ。外国語は英語のほか日本語、ロシア語、フランス語、ドイツ語、スペイン語のいずれかを選ぶことができる。軍や医療、外国語系などの一部の大学を除けば、どの言語を選ぶかは学生の自由で、英語だろうがそれ以外の言語だろうが、いずれも同じ150点満点。ただ、日本と同様、中国の学生はこれまで大半が英語を選んできた。

ロシア語など他の言語を選ぶ学生は目立って増えてはいないという。では、なぜここに来て、日本語を選ぶ学生だけが急増しているのか。中国にある日本語学校などの解説によると、理由はいくつかあるようだ。
1つは、高考自体の競争倍率が上がるにつれ、主流である英語の試験問題の内容が年々、高度になり、生半可な学習レベルでは高得点が望めなくなっているためだ。中国では、英語はいまや小学校から必修科目。放課後に英語教室へ通う子供も少なくない。小さい頃から必死に勉強した英語の得意な学生が高考で高得点を続出させるので、出題する側も受験生の実力を見越して、年々、試験問題を難しくする。このため、英語が苦手な学生は高得点を得るのが極めて難しい。

一方、日本語などその他の言語は、教育省の方針により、政策的に問題の難易度が英語より低くなっている。例えば、英語で求められる語彙数は約3500だが、日本語なら2000前後。設問も英語ほど複雑ではない。
さらに、西洋の言語と異なり、日本語は中国語と同じ漢字を使用するため、初めて学ぶ人でも、比較的短時間でレベルを上げることが可能だ。高校生なら2年程度、学習すると、高考で110点以上をとる水準に達するという。英語なら150点中、80点ぐらいしかとれない学生でも、日本語なら120点とれるというわけだ。

2つ目に、多くの若者が小さい頃から日本のアニメやドラマ、音楽などに親しんでいることがある。日本の作品はスマホで簡単に見ることができ、日常に日本語が溢れている。ある中国人から聞いた話だが、娘さんは学校で一度も日本語を学習したことがないのに、上海に住む日本人と突然、日本語で話し始め、驚いたという。また、新型コロナウイルスの感染拡大前は家族で日本に旅行に来る中国人も多く、そこで日本に興味を持ったという子供も大勢いるだろう。

 

教師不足が課題~大学ではやはり英語?

受験生の間に広がる日本語熱はいつまで続くのだろうか。高考で、あまりに日本語が優位になると、制度そのものが見直される可能性がないわけではないが、今のところ、そうした議論は出ていないようだ。
学生の日本語需要を反映して、日本語のクラスを設ける高校は増えている。ただ、肝心の教師は不足気味。各地で少ない教師を奪い合っている状態で、特に日本人教師は賃金が高騰しているとの報道もある。教師の数と質を高めることが日本語熱を保つポイントとなろう。

もっとも、受験を終えた若者が、大学でも引き続き日本語を学ぶかというと、必ずしも、そうではないようだ。やはり就職には英語が必要と考える学生のほうが圧倒的に多い。アニメや音楽ではない、ビジネスで使えるしっかりした日本語を習得して、日本企業で働こうという人は、ごく少数である。日本企業の知名度がいまだ学生の間では高くなく、就職先としての人気が欧米勢に大きく後れをとっているためだろう。
年々、激化する高考と日本語熱。せっかくのブームを一時のものにせず、ぎすぎすした現在の日中関係を好転させる、よき一助となれば良いのだが。それには現地に進出する日本企業が日本語に親しんだ学生をうまく活用することが必要だろう。(了)

 

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