世界に優秀なエンジニアを数多く輩出する名門校、『インド工科大学』。
インド最高峰の理系大学であるインド工科大学は入学難易度が高いことで知られ、合格率はわずか2%以下。「世界一入試倍率が高い理系大学」と言われるほど、入学することが難しい大学です。
インド工科大学の学生・卒業生の優秀さを示すようにユンコーン企業の創業者数ランキングでは、マサチューセッツ工科大学やオクスフォード大学を抜き、全体4位になるなど、世界トップレベルの経営者も数多く輩出しています。
この記事では、世界の有名企業に優秀なエンジニアや経営人材を輩出する「インド工科大学」について迫ります。
【インド工科大学とは?】
インド工科大学(Indian Institute of Technology)は、インド最高峰の理系大学で、省略して『IIT』とも呼ばれ、インド全土に23校、合計で約10万人の学生が在籍しています。
IITはインドの近代化を担うエンジニア人材の育成を目指しイギリスから独立後に、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)をモデルとして設立されました。
インド工科大学は日本には馴染みが薄いかもしれませんが、イギリスのケンブリッジ大学やオクスフォード大学のようにカレッジ制の大学です。カレッジ制の大学では、〇〇大学というブランドがあり、その下に〇〇大学△△カレッジが存在します。
それぞれのカレッジには、経済学部や法学部、工学部など同様な専攻が用意されているので、どのカレッジに入学しても学びたい学問を勉強することができます。ただし、同じ大学ブランドのカレッジ間でランキングが存在し、得られる教育やリソース、卒業後の進路が異なります。そのため学生はランキング上位のカレッジの自分が学びたい学部を目指します。
インド工科大学の運営はそれぞれのカレッジで独立して行われていますが、「IIT協議会」と呼ばれる組織のもとで連携をとっています。IITは現在23校のカレッジで構成されていますが、もともとは5校から始まりました。その後、IITに加わった2校を加えた7校が『Old IIT』と呼ばれIITの中でも別格の存在とされています。それ以降にIITに加わったカレッジは『New IIT』と呼ばれ、2023年時点で16校ありますが、今後新しいIITのカレッジが誕生する可能性もあります。
インド人学生がインド工科大学への入学を目指すのは、インドの平均年収の10倍以上にもなる夢のチケットを手に入れるためです。インドの成人平均年収は約34万円。例えば、学生がOld IITのコンピュータサイエンス学部に入学すると、その学生は大学卒業後に海外の大手IT企業から1500万年以上のオファーをもらうことも夢ではありません。インドには依然としてカースト制度が残り、低いカーストに生まれた子供が経済的に豊かになることが難しいこともありますが、インド工科大学への入学はその人の人生だけでなく、家族の人生を変える大きな可能性を持っています。
夢のチケットを手に入れるために、インド工科大学への入学を目指して、毎日12時間以上勉強生活を数年間や、単身で”大学受験の街”に乗り込み、インド工科大学への入学を目指す学生と日々高いプレッシャーの中で競争する、はインド工科大学への入学を目指す学生の間ではよくある話です。
【超難関!インド工科大学(IIT)の入学試験】
IITに入学するためには2つの試験を受ける必要があります。その一つ目がJEE-Main (Joint Entrance Examination-Main)と呼ばれる共通テストです。このテストを約100万人の学生が受験しますが、この共通テストに合格できるのは上位わずか10%。JEE-Mainの合格者はJEE-Advancedと呼ばれるテストの受験資格を得ることができ、テスト結果の上位約4万人が入学資格を得ることができますが、実際に入学できるのはテスト結果上位約1.6万人の学生のみです。つまり、インド工科大学をに最終的に入学できるのはたった約1.6%の学生のみです。
インドで18歳年齢の人口は約2500万人であり、そのうちの約1/4が大学に進学します。すなわち、インドの大学進学者全体で考えた場合、インド工科大学に進学できる学生の割合は約0.26%であり、インド工科大学に入学することが如何に難しいことかが分かります。
インド工科大学の入学資格を得た学生は、JEE Advanceの成績上位者から順番に希望するカレッジと学部を選ぶことができます。学生の間で一番人気が高いのは、Old IIT「IITマドラス、IITデリー、IITボンベイ、IITカンプール、IITカラグプル」5校のコンピュータサイエンス学部です。それぞれのカレッジでコンピューターサイエンス学部に入学できるのは約100名程度なので、合格者16,000人の中でも特に優秀な成績を収めたほんの一握りの学生のみが希望を叶えることができます。
JEE Advaneのテスト成績上位者から順に希望のカレッジ・学部を選ぶことができます。なので、例えば、学生BがIITマドラスのコンピュータサイエンス学部を希望していたとしても、その学生よりも成績位が良かった学生Aが同じカレッジの同じ専攻を選び、学生Aで定員に達してしまった場合、募集がクローズされ、学生Bは希望するIITマドラスのコンピュータサイエンス学部に入学できません。
なのでこの場合、学生Bは希望のカレッジを変える、または希望の専攻を変えるという選択をする必要があります。そのためテストの成績的にはインド工科大学に入学できても、希望のカレッジ・専攻に入学できなかったため、別の大学に進学するというケースもでてきます。このような流れで、成績上位者から希望のカレッジ・専攻を選択し、IIT23校の全ての専攻の定員が埋まった時点で、その年のインド工科大学の入学試験は終了になります。
このように入学することが困難なIITの入学試験ですが、受験科目は数学、化学、物理の3科目だけで、まさに理系に特化した人材が学ぶための大学といえます。
(*JEE-Mainを受ける人数は年によって異なるので、受験者に対する合格率は年によってばらつきがあります。)
【インド工科大学のカレッジランキング】
インド政府によって作成された、国内の高等教育機関のランキング表「NIRF」をもとにインド工科大のそれぞれのカレッジの順位をみていきます。この大学のランキングは「教育、学習、リソース」、「研究と専門的実践」、「卒業結果」、「対外支援と包括性」、「認識」の5つ評価軸によって、それぞれの大学にスコアがつけられ、順位が決められます。
2022年のNIRFのエンジニアリング部門のインド国内大学ランキングは以下になります。
(*インド工科大学(IIT)は全部で23校ありますが、ランキングには18校のみランクされています。)
IITランキング(2022) | 大学名 | NIRFスコア | NIRF全体のランキング(2022) |
1 | インド工科大学マドラス校 | 90.19 | 1 |
2 | インド工科大学デリー校 | 88.08 | 3 |
3 | インド工科大学ボンベイ校 | 85.16 | 4 |
4 | インド工科大学カンプール校 | 83.22 | 5 |
5 | インド工科大学カラグプル校 | 82.03 | 6 |
6 | インド工科大学ルールキー校 | 78.08 | 7 |
7 | インド工科大学グワハティ校 | 73.84 | 8 |
8 | インド工科大学ハイデラバード校 | 68.69 | 13 |
9 | インド工科大学バラナシ校 | 62.18 | 13 |
10 | インド工科大学ダンバード校 | 64.07 | 14 |
11 | インド工科大学インドール校 | 62.56 | 16 |
12 | インド工科大学ロパール校 | 58.09 | 22 |
13 | インド工科大学マンディ校 | 52.58 | 20 |
14 | インド工科大学ガンディーナガル校 | 56.86 | 23 |
15 | インド工科大学ブバネシュワール校 | 55.71 | 36 |
16 | インド工科大学ジョードプル校 | 51.56 | 30 |
17 | インド工科大学パトナ校 | 57.38 | 33 |
18 | インド工科大学ティルパティ校 | 48.16 | 56 |
表から見てわかるように、インド国内の大学ランキングの上位はIITのカレッジによって占められており、IITランキング9位以降のカレッジも国内ランキングで上位にランクインしています。この表からも分かるように、インド工科大学はインドの中でも最高峰の理系大学といえます。
*1:インドには現在約1000校の大学があります。
*2:インドの大学はインド工科大学のようにカレッジ制であることが多いため、ランキングの母数は1000校よりもはるかに多いです。
インド全体の大学ランキングはこちら:インドの有名大学ランキング2021年|インド政府教育省が発表するNIRFを解説(ダウンロード資料付き)
【インド工科大学(IIT)での大学生活】
IITでは入学後も厳しい競争は続き、全寮制の環境で大学4年間、勉強に打ちこみます。その理由は就職活動で大学の成績によって入社できる企業が決まってしまうからです。就職活動では、IITのカレッジランキングもそうですが、大学の成績(CGPA)によって企業の書類選考で足切りされる可能性があります。そのため、学生は高いCGPAを修めることを目指して勉強に力を入れます。
学生が専攻する学問は入学時点ですでに決まっていますが、1年時はリベラルアーツのように多様な学部の授業を受け、自分の興味関心がどこにあるのかを探究する期間として位置づけらています。その後、2年、3年、4年と学年が進むにつれ、自分の学びたいことを深く追求し、専門性を身につけるよううにカリキュラムが設計されています。
先ほども述べたように、将来の就職活動に向け、優秀な成績を取りたい学生が多いです。そのため、学年が上がり、取り扱う内容の難易度が上がるにつれ、睡眠時間を削り、起きている時間の大半を勉強に充てる学生も多くいます。インド工科大学に入学すると勉強漬の生活になってしまうため、学生の中には、インド工科大学の寮に入寮することを『監獄』に入ると例える人もいます。このようにストレスが多い環境で学んでいるため、インド各地から集まった優秀な学生であったとしても途中でついていけなくなり、ドロップアウトしてしまうこと人もいます。
学生は勉強だけでなく、部活にも力を入れます。インド工科大学では、日本の大学のようにスポーツ系のクラブは多くはありませんが、工科大学らしいレーシングクラブや、AIクラブ、ロボットクラブなど独自性があるクラブ活動が多数存在します。IITの学生がクラブ活動に入る目的は、クラブ活動を楽しんだり、自身のスキルアップという理由もありますが、それ以外にもIIT内の人脈ネットワークを作るという目的もあります。ツイッター前CEOのパラグ・アグラワル氏やグーグルCEOのサンダー・ピチャイ氏をはじめ、インド工科大学の卒業生は世界中でエンジニアや企業の経営者として活躍しています。IITの学生は、大学で作る人脈が将来自分のためになることを分かっているので、ネットワーク作りのために意欲的に部活に参加し、繋がりを増やします。
【インド工科大学(IIT)での就職・採用活動】
インド工科大学の就職活動は大学側に厳しく管理されており、学生が就職活動に取り組める期間は12月1日からの約2週間です。学生はこの期間内に企業から良いオファーをもらうために、朝から夜まで、複数の企業の面接を受けます。
IITの学生を採用したい企業は、それぞれのインド工科大学の「就職課」にインド工科大学の学生を採用するイベントである、「IITプレースメント」への参加を申請し、日程を設定してもらいます。この採用イベントに参加できるのは、それぞれのカレッジの審査を通過した企業だけがインド工科大学の学生を採用することができます。
IITプレースメントのルールとして、学生は一つでも企業からオファーが出た時点で、その前後に出たオファーを含め、1つまたは複数のオファーの中から一つを承諾するか、それともオファーを辞退するかを数時間のうちに決めなければいけません。IITプレースメントでは学生が企業のオファーを承諾した時点、または辞退した時点で他社の面接は受けることができないため、その後に予定されていた面接は全てキャンセルとなります。そのため多くの企業は優秀な学生を求めてIITプレースメント開催日であるDAY1での参加を目指します。
DAY1での参加を目指す企業は多いですが、その際に重要となるのは『企業の知名度』、『過去の採用実績』そして『Cost to Company(CTC)』です。CTCは学生に対する年収を含みますが、それ以外にも入社前の研修費や、航空券代、その他の福利厚生など、『企業が学生に対していくら投資するか』を意味しています。これらの情報をもとに、IITの就職課がIITプレースメントへの参加を希望する企業の参加日を決めていきます。
そのためGAFAMをはじめとしたビッグ・テックやゴールドマン・サックスなどの外資系銀行などなど、知名度があり、学生に対して多くの投資ができる企業がこれまでDAY1に参加しています。
一例として、2020年のIITプレースメントで、コンピュータサイエンスを専攻していた学生に企業から提示された年収水準は以下の通りです。
アメリカ:中央値1500万円
ヨーロッパ:800〜2300万円
日本:400〜600万円
インド:中央値200万円
アメリカやヨーロッパ企業がインド工科大学の学生に提示する年収はとても高く、インド国内の企業のオファー金額が最も低いですが、近年、インド国内の年収水準が急激に高まり、1000万円以上のオファーを提示するインド企業も出てきています。IITの学生が世界中の企業から注目を浴びる中、2022年12月のIITプレースメントでは、学生に対してこれまでのオファーで最高額である、約6000万円のオファーがでました。このように、IITの優秀な学生を採用するために、世界中の企業でIITの学生を巡る競争が年々加熱しています。
参照記事:過去最高6000万円のオファー!インド工科大学採用面接会「IITプレースメント面接会」速報(2022)
注意事項として、このような高い年収を得ることができる学生のほとんどは、Old IITのコンピュータサイエンス学部の学生のみです。そのため、優秀であっても高い年収をもらえない学生がNew IITには多く存在します。優秀なIITの学生を採用したい企業にとって大切なのは適切なカレッジ選びです。ASIA to JAPANでは、23校のIITプレースメントに参加し、日本企業のIIT学生採用を支援してきた経験から、適切なIITのカレッジ選びをサポートしています。
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【インド工科大学(IIT)での卒業後の進路】
インド工科大学に入学した学生の多くは、IITプレースメントで卒業後に入社する企業を決めます。大学院で専門性をさらに高めたい学生や、良いオファーをもらえなかった学生の一部は、アメリカ等の海外の大学院やIITの大学院へ進学します。ごくわずかではありますが、卒業後にIITのネットワークを活かして、起業する学生も出始めています。
【まとめ】
インド工科大学は世界に優秀なエンジニアや経営者を数多く輩出していますが、入学に至るまでや、入学後も熾烈な競争社会の中で学んでいる結果とも言えます。株式会社ASIA to JAPAN では、インド工科大学(IIT)の学生に無料の日本語授業の提供や、インド工科大学のIITプレースメント担当者とのリレーションを活かし、どこよりも早いインド工科大学採用や、ワンストップでのインド工科大学採用など、幅広いサービスを提供しています。
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