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日本企業がイスラム教徒(ムスリム)社員を受け入れるときにできること

目次

イスラム教徒の社員を受け入れるとき気をつけること

ASIA to JAPANでは海外の学生と日本企業をつなぐ採用サポートの際、イスラム教徒の学生から「日本でハラルフードは手に入るか?」「日本の会社で働いてお祈りをすることはできるか?」など、質問を受けます。一方で受け入れ企業側から「イスラム教徒の学生を採用するとき、何か気をつけることはあるか?」と心配の声を聞くこともあります。

本記事では、イスラム教徒の社員を採用するときに日本企業ができること、イスラム教徒が日本の生活で不安に思うことについてまとめました。ASIA to JAPANを通して日本企業へ就職したインドネシア出身エンジニアのリアルな意見も紹介しますので、ぜひご活用ください。

イスラム教についての基礎知識

イスラム教は世界人口の約4分の1、約19億人が信仰する宗教です。中東地域など遠い国の宗教というイメージが強いかもしれませんが、インドネシアや中国、マレーシアなど近隣のアジア諸国にもイスラム教徒(ムスリム)が多く暮らしています。

国別のイスラム教徒人口はインドネシアが世界第1位、約2億3000万人です。

これだけの人口、そして広い地域に広がる宗教なため、国や地域によって信仰の方法や考え方、生活習慣は大きく異なります。もちろん同じ国出身ならイスラム教に対して同じ考え方や行動をとるということでもなく、家庭環境や本人の考えもあります。

「イスラム教徒だから」「この習慣を厳守しなくてはいけない」と決めつけるのではなく、イスラム教の基礎知識を知り、本人とのコミュニケーションを通じて相手を理解する姿勢が重要です。

イスラム教を知るうえでのポイント

はじめに、イスラム教を知る上でポイントとなる基礎知識をご紹介します。

イスラム教にはクルアーン(コーラン)や六信五行など、宗教としての聖典や教義があります。これらの教えは信仰の枠だけに留まらず、食事や服装、日常の振る舞いなど社会生活全般にも規定や推奨される行動があることが大きな特徴です。

礼拝について

礼拝はイスラム教の「六信五行」の中に定められた義務のひとつ。「六信」は神、天使、啓典など信じるべき6つのもの。「五行」は礼拝、断食、喜捨などの生活での行動義務です。

礼拝はメッカの方向に向かって、1日5回の礼拝を行います。礼拝のタイミングは「明け方から日の出まで」「昼過ぎから日没まで」といったように、太陽の動きに連動した時間帯の規定があります。

礼拝をおこなう場所・モスク

礼拝を行う施設をモスク、ジャーミィなどと呼びます。日々の礼拝所としての役割はもちろん、宗教行事の開催場所やムスリム同士の情報交換やつながりの場としても機能しています。

あまり馴染みがないと感じるかもしれませんが、大学の近くやイスラム教徒が多く住む地域を中心に日本にも多くのモスクがあります。東京の代々木上原にある日本最大のモスク、東京ジャーミィは東洋一美しいモスクと称されています。

イスラム教にとって重要な「金曜日」

金曜日はイスラム教にとって特別な曜日です。特に金曜お昼の礼拝は重要で、モスクにて集団礼拝を行います。

日本のビジネスタイムで働く場合、金曜のお昼にモスクで礼拝をすることは難しいかもしれませんが、イスラム教徒にとっての金曜日には意味があることは知っておきましょう。

イスラムの教えに合った食事について

ハラルフード

ハラルとは「イスラムの教えに沿ったもの」「合法な」という意味です。

イスラムの教えに合った食品や食事を「ハラルフード」と呼びます。反対に豚肉やアルコールは「ハラム(非合法)」なためイスラム教徒は口にしません。また鶏肉や牛肉であっても、合法な処理をされているかどうかでハラルでない可能性もあります。

食品については成分表示やハラル認証のマークなどを確認して、最終的には本人が判断します。

ハラルは食品について耳にすることが多いですが、食品だけではなく日々の振る舞いや服装などにも生活全般に対して「ハラルか、ハラムか」という考え方があります。たとえば、嘘をつくことや物を盗むこと、女性が肌を露出することなどはハラムとされています。

ラマダン

ラマダンはイスラムの暦における9月。私たちが普段使用する暦とは異なるため、毎年時期が異なります。ラマダン中は五行のうちのひとつである「断食」を行います。そのほか、喫煙をしない、争いを避ける、積極的な寄付を行うなど、自分の欲を抑え信仰心を高める1年のうち特別な月です。

ラマダン中の断食とは完全に何も食べないわけではなく、日の出から日没まで飲食をしないことを指します。日没後の食事はイフタールといい、家族みんなで食卓を囲みます。日本でも金曜夜などにモスクで無料の食事が振る舞われることがあります。

 

お祭りについて

イスラムには以下2つの大きなお祭りがあります。

  • ラマダーン明けのお祭り(イード・アル・フィトル)

  • 犠牲祭(イード・アル・アドハー)

日本でいうお正月やハレの日に近い感覚で、自国で家族と過ごしたいと考えるイスラム教徒も多くいます。日程はラマダンと同様、イスラムの暦に沿うため毎年異なる日にちに当たります。

 

初めての来日でイスラム教徒の学生が不安なこと

実際にこれから日本で働きたいと思うイスラム教徒の学生たちは何を不安に思っているのでしょうか?

ASIA to JAPANがこれまで学生との面談や現地大学の訪問などを通して、学生から受けた質問は大きく分けて「食事」と「礼拝」についての不安です。

食事についての不安

イスラム教徒は豚肉やアルコールは口にしない、という点は広く知られています。それだけではなく日々の食事がイスラムの教えに則った合法なもの(ハラル)であるかは重要なポイントです。

学生たちからも「日本でハラルの食材が手に入るか」「レストランでハラルメニューを選ぶことができるのか」など不安の声がありました。

食事について必要なサポート

食事に関して「食べてよいものなのか」最終的な判断は、彼らが自分自身で行います。慣れない日本の食事で、何が使用されているのか食材や成分について教えてあげるサポートが親切でしょう。

また日本の食料品やレストランのメニューは一見ハラムではなさそうなものでも

  • ポークエキスやゼラチンなど豚由来の成分が入っている
  • 調味料にアルコールが含まれている

ことも多いため注意が必要です。

 

礼拝についての不安

イスラムでは1日に5回礼拝を行います。日の出、日の入の時刻に合わせて礼拝の時刻が変わります。就業時間中に2回ほど礼拝のタイミングが重なるため、「礼拝の時間に少し仕事を抜けることはできるか」「礼拝をする場所はあるか」など質問をよく受けます。

礼拝について必要なサポート

礼拝については

  • 毎日5回必ず行いたい
  • 仕事中はお昼休みにまとめて行う
  • 日本にいる間はできる範囲で行えば問題ない

など考え方は人それぞれです。まずは本人の考えを聞くことから始めます。

礼拝の時間を特別に確保しないといけないと思いがちですが、他の社員と同様のスケジュールで仕事をして、礼拝はお昼休みの時間を使って行うイスラム教徒もいます。

礼拝について時間や場所の調整が必要であれば、次の点を社内で検討し、本人と話し合うとスムーズでしょう。

  • 配属先のチームで礼拝時間の5〜10分程度の休憩を取っても問題ないか
  • 空き会議室など静かなスペースを借りられるか

 

特に製造ラインでの仕事など、途中で抜けることが難しい場合は、事前に双方で落とし所を見つけておく必要があります。

 

日本で働いているイスラム教徒社員へ3つの質問

日本でイスラム教徒として暮らすことについて深く知るため、ASIA to JAPANを通して日本企業へ就職したインドネシア出身エンジニアにアンケートへご協力いただきました。現在、3Dソフトを使用した開発の仕事をしています。

Q1. 来日前、イスラムの習慣に関して心配だったことは?

お祈りの時間、自分の国と日本の季節が違いますので、お祈りの時間も違います。母国ではお祈りの時間の期間があまり変わらないけど、日本の冬と夏のお祈り時間はだいぶ違います。

食事などあまり心配していなかったけど、豚肉に気をつけなきゃいけません。

 

Q2. 実際日本で生活してみてどうでしたか?

お祈り時間に関しては頑張るしかないです。毎日のお祈り時間を把握して、仕事中いいタイミングにお祈りします。しかし、その前に必ず上司にお祈りのことを説明しました。運が良ければ会社でいつでもお祈りできます。

食事なら、私は自分で作りますのであまり問題がありません。

 

Q3. 日本でムスリムとして暮らすことで困っていること、不便なことは?

確かに不便なことは食事ですけど、自分で作れば問題ないと思います。

そして、私は田舎に住んでいますのでモスクがあまりありません。ですから、出かける時のお祈りはちょっと不便です。そして、食事の時、私はその料理に豚肉が入るかどうか必ず確認します。

 

補足:イスラム教徒同士の情報交換やネットの情報も活用

食事に関して、日本のレストランではまだまだハラルなメニューを選ぶことは難しいです。

だからと言って日本の生活がとても困難ということはなく、モスクや同郷のコミュニティを中心としたイスラム教徒同士の情報交換でうまく生活している人も多いようです。

また現在はネットの情報も充実しており、イスラム教徒向けのアプリやネットスーパーなどを活用して、ハラルな食材を手に入れることができます。

 

まとめ:企業側がイスラム教徒社員を迎え入れるときにできること

チームに初めてイスラム教徒の社員を受け入れる場合、何か特別な配慮が必要なのか心配に感じるかもしれません。しかし、イスラム教について基本知識を得た状態で本人と話をすれば相互の不安は解消に近づくはずです。

たとえば、次のような配慮はすぐに実行できます。

  • 礼拝時間や礼拝の場所について本人と相談しておく
  • 近くのモスクの場所を教えてあげる
  • ハラル食品が手に入りやすい業務用食品スーパーや輸入食品取扱店の場所を教えてあげる
  • 会社の飲み会や食事を強制しない
  • 食べ物や飲み物について成分を知るためのサポートをする

 

今後、どのような業界でもイスラム教徒の同僚やお客様と接する機会は増えていくことが想定されます。身構えすぎず、コミュニケーションを通して相手を理解する姿勢が大切です。

ASIA to JAPANはアジア各国のトップ大学の学生と日本企業をつなげます。外国人採用でお困りの企業様はぜひASIA to JAPANへお気軽にご相談ください。

 

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