【出張レポート】ベトナム学生とマレーシア学生の現状 〜文系大学訪問〜
ASIA to JAPANは、2024年6月3日〜7日にかけてベトナムとマレーシアの現地大学を訪問し、日本就職を目指す学生に向けた説明会や8月開催予定のイベント誘致を実施しました。
この記事では訪問した大学の紹介や、現地学生の就活事情についてご紹介します。
■ベトナムで訪問した大学
・ハノイ貿易大学(Foreign Trade University:FTU)
FTUは1960年にベトナム政府外務省のもとで、外務省及び通商省のための人材養成機関を目的として設立された公立大学で、ベトナムで最も有名かつトップレベルの文系大学です。金融、経営、マーケティングなど幅広いビジネスコースを扱っており、また日本語学部がありビジネス日本語教育に注力しています。例年だと日本語を学ぶ約120名のうち10名近くが日本で就職をしているという実績があります。
・ベトナム国家大学ハノイ外国語大学(Vietnam National University HANOI, University of Languages and International Studies:ULIS – VNU)
ULISは1955年に設立されたベトナム寄宿学校の後継大学です。1993年にベトナム社会主義共和国政府が「高等教育制度の改革」を目的として「ハノイ外国語教育大学」「ハノイ第一教育大学」「ハノイ大学」を統合し現在のハノイ国家大学を設立しました。それ以来、ベトナム国家大学ハノイ外国語大学(ULIS – VNU)として広く知られています。
ベトナム内の外国語教育大学でトップを誇り、現在では11言語の学部教育を展開しています。翻訳・通訳専門家養成や外国語教師養育の伝統があり、ベトナム企業・各機関へ実践的な人材を供給しています。日本語学課程の卒業要件にN2取得があり、卒業のタイミングでほとんどの学生が問題なく日本語を話せます。
・ハノイ工科大学(Hanoi University of Science and Technology:HUST)
HUSTは1956年に設立されたベトナムの初の技術系総合大学で、理科系においてベトナム国内1位と言われる名門大学です。工学(技術)系分野においてベトナムで最も有名、かつ入学することが難しいとされている最難関の大学とされています。開校以来ベトナムの工業界を担うエンジニア育成や工学研究を推進する基幹大学として、国の工業化に大きく寄与しています。
※ASIA to JAPANは理系学生を中心とした就職支援を行なっており、通常、理系大学や理系学部がある大学を訪問していますが、今回は8月に実施する「文系学生向けの就活イベント」の誘致のため文系大学にも訪問しました。その関係でベトナムのFTUやVNUは今回数年ぶりに伺うことになりました。
■マレーシアで訪問した大学
・マレーシア工科大学(Universiti Teknologi Malaysia:UTM)
UTMはマレーシアの南にあり、シンガポールと橋で繋がるジョホールバルにメインキャンパスを構える工科系に強い大学です。長年にわたって約200,000人の技術系卒業生と、資格のある専門家を輩出してきたUTMは、マレーシアのエンジニアリングとテクノロジーにおけるプレミア大学としての地位を確立しました。
UTMでは約1年半のプログラムの日本語講座を開講しています。日本語に触れたことがなかった学生が約1年で日本語でのやりとりができるようになるレベルまで育っており、本年中に日本語で面接が行えるレベルまで成長すると見込んでいます。
・マラヤ大学(Universiti Malaya:UM)
UMはマレーシア初の大学として設立されたマラヤ大学は国内最高峰の大学として認知されており、日本語学習においてアジアトップクラスのレベルを誇ります。1905年にシンガポールでキング・エドワード7世医科大学として設立され、1949年にラッフルズカレッジ(1928年設立)が合併してマラヤ大学となりました。
世界的に評価の高い学科にIT、電子工学、開発学、社会科学、スポーツマネジメント、宗教学、英文学、また特色のある学科にAI、データサイエンス、東アジア研究、東南アジア研究、インディアン研究、歴史などがあります。
・マレーシア科学大学(Universiti Sains Malaysia:USM)
USMはマレーシアで2番目に古く1969年ペナン島に設立された国立総合大学で、マレーシア国内でもトップ3に入ります。自然科学、応用科学、医療健康科学、薬学から建築科学技術、社会科学、人文科学、教育まで全部で27学部と幅広いコースを提供しています。
2008年からは高等教育機関が世界クラスの地位を獲得することを支援する迅速プログラムである「Excellence加速プログラム」(通称:APEX) に参加するために、マレーシア政府によって選ばれた国内初の大学となりました。
・マレーシア日本国際工科院(Malaysia Japan International Institute of Technology:MJIIT)
MJIITは2001年に当時のマハティール首相(当時)が小泉総理(当時)に国際工科大学設置の提案をし、マレーシアに「日本型の工学系教育大学」を設置する構想が始まりました。2011年にUTMの傘下として独立性の高い工科院の立ち位置で開講しました。教育方法は日・マレーシア間の共同プロジェクトとして、講座制などの特色ある日本型工学教育による高度な専門性に基づく学術研究機関としています。
■学生の日本語力
前述の通り、今回の訪問は今年8月に実施する「文系学生向けの就活イベント」の誘致が目的のため、ベトナムでは日本語を通常講義で学ぶ学生、マレーシアでは日本語話者育成プログラムの参加者や日本語を学ぶ学生を中心に多くの学生と対話しました。
普段から日本語を学んでいる、さらにトップレベルの大学に通う学生というのもあり、基本的なコミュニケーションはもちろん、面接も日本語で対応可能な実力を兼ね備えていました。実際に日本語でイベント紹介をしたところ、多くの学生が内容を理解していました。
■各国の就活事情
・ベトナム学生の就活事情
今回のヒアリングでトップレベルの大学に通うベトナム学生が、国内企業に就職した際もらえる給与が平均して500USD(約79,000円)と以前に比べて高くなっていると教えていただきました。過去の記事で紹介していますが、初任給が平均300USD(約47,000円)に比べて倍近く高く提示されています。※1USD=158円で換算(過去の記事はこちらから)
またベトナムの大学進学率はそこまで高くありません。少し前のデータになりますがJETROが公開する「ベトナム 教育(EdTech)産業 調査」によると、18~29歳人口の大学進学率は28.3%と1/4ほどの水準です。そのため卒業後の就職率はほぼ100%と国内需要はとても高く大学生というだけでも引く手数多です。
しかし初任給が上がっているとはいえ、まだ日本と比べると低いということもあり海外就職を選択する学生が未だ多くいます。JETROが1月に公開した「日本の外国人労働者は過去最多の200万人、ベトナム人が50万人超え」のタイトルにもあるように、ベトナム人材は日本で働く外国人労働者数全体の25.3%に値する518,364人と最も多く活躍しています。
今回訪問した大学に通う学生の大半が英語を話せるため、グローバル展開を検討されていたりインバウンド向けのサービスを提供する企業にとって魅力的な人材です。
・マレーシア学生の就活事情
マレーシアでの平均給与はRM4,000(約130,000円)と日本と比べると安いですが、トップレベルの大学を卒業した場合はそれ以上の金額をもらえます。(詳しくはこちらの記事をご覧ください) 今回訪問した大学はマレーシアでも5本の指に入るほどのトップレベルの大学のため、学生の採用を希望する現地企業は多いですが、一方でより高い給与を求めてシンガポールなどで働くことを選ぶ学生も少なくありません。※1MR=33円で換算
そのため、就職先に日本を選ぶ人は以前に比べて少なくなっている印象を受けました。それは日本に対する憧れなどが以前よりも薄くなっていること、そして言語の壁が立ちはだかってしまうことが要因と言えるでしょう。マレーシアで大学に通う学生のほとんどが英語を話せます。そのため、言語に悩まず日本以上に待遇の良い国などを探す方が以前よりも増えてきています。
(在留マレーシア人の割合についてはこちら)
■イベント紹介での学生の反応
前述した通り説明会は基本的に日本語で実施しましたが、ほとんどの学生が内容を理解し、さらに質問も多くいただきました。
特に印象的だった質問が「イベントの応募から内定までのプロセス」についてです。内定に意欲的かつ情報収集に貪欲でないとなかなかプロセスについて質問されません。そういった面から、今回の学生には「日本就職を成功するための準備を徹底している」という印象を受けました。
また「技能実習」と「高度人材」の違いを理解できていない方も多く見受けられました。ASIA to JAPANの就活支援対象は「高度人材」のため、今回ご参加いただいた学生に制度の違いを詳しく説明した上で、イベントでは高度人材としての採用が行われることを改めて伝えることで、疑問を解消しイベントへの理解を深めていただけました。
なぜ質問したのかヒアリングすると、学生たちは「技能実習としての就労を望んでいない」ため念の為質問をしたとのことでした。
マレーシアではイベント開催時期がちょうど長期休みの期間と重なっているため、多くの学生から参加を希望する声が上がりました。
・日本への印象
両国を訪問しましたが年々日本に対する”特別感”が薄くなってきたという印象を受けました。SNSでの情報収集だけでなく、円安の影響で日本へ気軽に遊びに来れる環境になったなど、昔と比べて「日本」に触れる機会が日常的に増え身近になってきたことが関係しているようです。
そのため以前のような特別扱いではなく、海外就職先として選択肢の一つとして検討されるようになっています。
■USMの電気電子工学部とMOUを締結
今回の訪問でUSMのSchool of Electrical and Electronic Engineering(電気電子工学部)とMOUを結ぶことが決まりました。
すでにUSMとはインターナショナルオフィスと「インターナショナルリレーション」としての提携を結んでいますが、今回初めて直接学部とMOUを結ぶことになりました。学部長の経歴と経験、そしてASIA to JAPANの取り組みに対して共感いただけたことが今回の締結へと進んだ背景にあります。
■まとめ
今回の訪問で得たベトナム学生、マレーシア学生の就活事情やイベントでの反応について紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
説明会には日本で働く機会を逃すまいと意欲的な学生が多く集まっていただきました。
ちなみにFTUでは、画像に写る名所が所在する都道府県を当てるアイスブレークを実施したところ、ほとんどの問題を正解していました。画像のみで場所を当てるのは難しいことですが、彼らが日常的に日本に触れ(SNSやネットなど)知識を蓄えている“日本ツウ”であるんだなと感じました。
ベトナム人材やマレーシアの人材の人気が高いのですが、採用する機会を得る企業は限られるかと思います。
8月に実施する採用イベントではこの2カ国だけでなく、アジアを中心としたトップレベルの大学に通う優秀な学生たちと面接いただけます。
当イベントだけでなく海外の高度人材採用へのご関心、また採用後から入社までの手続き方法など気になることがありましたら、お気軽にASIA to JAPANへお問い合わせください。