【セミナーレポート】日本語研修を発注する前に知っておいて欲しいこと
ASIA to JAPANは、中国で日本語を学ぶ学生で、知らない人はいないと言われる人気講師でASIA to JAPANでも日本語講師を務めるNPO法人日本語スピーチ協会の理事長・笈川幸司(おいかわこうじ)先生を招き、Webセミナー「日本語研修を発注する前に知っておいてほしいこと」を開催しました。
今回のセミナーでは外国人の新卒採用者へのアンケート結果をもとにした学生たちの日本語能力の平均的なレベルや学習環境を参考に、どのような日本語研修を選べば、ビジネスの現場で役に立つのか?を解説させていただきました。
本記事では、内容の一部を抜粋しまとめましたので、海外人材の採用に興味のある企業さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。
トークテーマ
✓日本で働く外国人に日本語学習についてのアンケートを取った結果、見えてきたこと。
✓JLPT(日本語能力試験)では計れない日本語の会話力…
✓効率よく日本語を吸収できる“アクティブ・リコール”とは
✓日本語研修には会話をさせる機会が必要
登壇者
NPO法人 日本語スピーチ協会
笈川 幸司(おいかわ こうじ) 先生
モデレーター
株式会社ASIA to JAPAN 代表取締役社長 三瓶 雅人
入社前に日本語学習はしているのか?
毎年4月・10月に働き始める学生が多い中、入社後の日本語能力が十分に備わっているのか、“入社前に日本語学習はしてきているのか?”というアンケートを2023年6月25日~7月5日にかけて171名のアジア圏の新卒採用者を中心に回答していただきました。
日本で働く外国人に聞いた!日本語学習についてのアンケート
三瓶:「日本企業への入社前に日本語を勉強しましたか?」という質問に対してほぼ100%に近い96%の学生が事前に日本語学習を行っています。
日本に来日する前の日本語レベルがどのくらいかというと、だいたいJLPT(日本語能力試験)N3相当が一番多く、入社後はN2になっている学生が多い事から、来日前はN3レベルで就職が決まり、入社してすぐにN2レベルまで日本語能力が上がっているということが分かるアンケート結果だったのかなと思います。
三瓶:また、特徴としては中国や韓国の漢字や文法になじみがある地域とそれ以外の地域ではJLPTのレベルで差異がでてきます。漢字圏である東アジア出身者は比較的取得が容易なため、アンケートでも東アジアではN3取得者のうち学校で日本語を学んだ人はゼロという結果になっています。
地域によって、採用活動も分けて考えるのが良いのかなと言える資料かと思われますが、先生としてどう思われますか?
笈川先生:私は中国に長くおりましたが、中国人の学生はN2よりN1の方が簡単というか…難しい漢字が出れば出るほど有利になるので“会話”は出来なくてもN1が取れるという傾向が中国国内にはあるのです。逆に欧米などの学生はN2・N3だったとしてもN1の中国人学生より日本語が上手に話せるというような状況も見てきました。
三瓶:ではやはり(地域によって)採用活動の基準は分けて考える必要があるという事ですね。
入社後の日本語研修が学生たちの仕事や生活の役に立っている
三瓶:日本企業に入社する前「会社から日本語研修を提供されましたか?」というアンケートには6割近い学生さんが“はい”と選択していて、「役に立ちましたか?」と聞くと、かなりの学生さんが“役に立った”と答えていることから、入社前の日本語研修はかなり有効に作用しているのではないかと思います。
笈川先生:日本にまだ来たことがなく、不安に感じている学生さんが多いので、“日本ではこうですよ”とちょっとした日本での生活のコツを教えてあげる事で落ち着いてもらえたりします。逆にそういったことが無いと不安だという声を学生さんから聞いたりもしますね。
卒業後から入社までに退化してしまう日本語能力
三瓶:実際に学生たちが入社した後に「日本語力が面接で想定していたよりも低い」といった声を企業様からいただくことがありますが、その理由として、大学の卒業は6月が多く、入社はその後の10月もしくは翌年の4月になるため、空白の期間が出来てしまうことが原因として挙げられます。
卒業した後、日本に来るまでの期間
三瓶:卒業してしまうと、日常的にあった日本語の授業がなくなり、話す機会がどんどん減ってしまうので、何もしていないと面接時の日本語よりも、多くの学生が退化してしまうのが現状のようです。
ただ、採用担当者からすると“沢山時間があるのだから勉強しておいて欲しい”や、もう少し強く言うと“(時間があったのだから勉強はもちろん)していたよね?”という認識をお持ちの方が多いと思います。私としては、大学卒業後には、何か強制的に日本語を勉強する機会がないといけないのではないかと思っています。先生はどうお考えですか?
退化してしまう理由はなぜ
笈川先生:こんな事は言いたくないのですが、合格したことにより自信過剰になってしまっている学生が多く、これは日本の大学生にも言える事ですが合格がひとつのゴールになっている可能性があると思うのですよ。“語学は、やり続けないとスキルが落ちていく”という事を私たちは経験しているのですが、中でも早く身に着けた能力は早く落ちていく特徴があるので、やり続けていくことが必要だなと思うのです。
三瓶:そこで言うと、会社から入社後に日本語研修を提供していない企業は一定数いるのかなと思っています。社員寮や住宅手当は結構な割合で導入されていますが、外国人材からも入社後に日本語の授業への要望が少ないようですね。
提供はされていても“あったらいいな”と思う学生はあまりいないというところですね。逆に帰国のチケットや長期休暇への要望はとても多いです。
笈川先生:もしかすると「研修」という概念がマイナスなのかもしません。私の授業を受けている学生たちは、2時間30分の授業があると、講師が話す事を“ただ聞いているだけ”だと思っていたそうです。
なので、聞いているだけの研修ならやってもやらなくても同じじゃないか…という理由で人気が無いのだと思います。もっと実践的な内容であれば、希望もあるのではないでしょうか。
日本語授業で使われる日本語とビジネス現場の日本語は違うのか
三瓶:次に、日本語授業で使われる日本語とビジネスで使う日本語は違うの?という話題に移りたいと思います。これは笈川先生が一番ご意見をお持ちかと思いますけれども、いかがでしょうか。
笈川先生: 私は日本語教師で二十数年携わっていますが、教科書に出てくる日本語というのはまず社会に出て役に立たない…というよりも、教室の外へ一歩出た瞬間に“年上の人・お客様・先輩・上司・社長”には絶対(授業で習ったような言葉遣いを)使えません。
逆に友達には「それ取って」「あぁ、いいよ」などという、所謂“タメ口”を使えるような関係でないと気が休まらなかったりするので、両方勉強しないといけないにも関わらず、教科書に書いてある内容には1つしか書いていません。
笈川先生: これは私の授業でも使っている資料なのですが、“日本語会話の丁寧さレベル”を簡単に提示してあります。
例えばお客様を食事に誘う際に、「もしよろしければ、今晩お食事でも…」と、はっきり「いかがでしょうか?」まで言わないケースもある、といったように。
同じ誘いでも年齢が近い同僚や友達には「ご飯食べに行かない?」という言い方ができる、という違いもあります。それなのにも関わらず、教科書ではそれを勉強することができないのです。
三瓶:その辺を認識しておかないと、日本に来てすぐ馴染むのが難しいよ、という事を一番現場の方に知っておいて欲しいという事になるわけですね。
必要なのは“アクティブ・リコール”
三瓶:そんな状況を脱するために、よく笈川先生が「アクティブ・リコールが大切」という風にお話ししている思いますが “アクティブ・リコール”とは具体的にどのような概念になるのでしょうか?
笈川先生:一番簡単な言い方をすると“学んだ内容をアウトプットする”ということです。普通は、放課後に自分自身で“こんな事をやりました!”と壁に向かって言い続けるような復習が出来ていれば、毎日毎日学んだ内容を記憶できて定着しやすくなるのですが、こういうことをやっている人はほとんどいません。
最大のインプットはアウトプットすること、つまり“アクティブ・リコール”が大切なのでこれを授業で行っています。
一対一で「今日はこんな事をやりました」「あぁ、そうでしたね」「私が一番印象に残ったのは〇〇です」とお互いに言いあう。そして、相手の言った事を聞くと余計その内容は忘れない、ということです。
笈川先生:また学生たちには2つの勉強法をレクチャーしています。 ひとつは“感覚反復”という学習時期によって3日に1回や、1週間に1回の頻度でする「復習」。それともうひとつは、先ほど紹介した“アクティブ・リコール”でアウトプットすることです。この二つを併せて勉強することで記憶が定着する。
しかもこの勉強方法は、学習した生徒自身は“あまり覚えていないかも”という自己評価の低い学習法なのにもかかわらず、結果的に色んな学習方法の中で一番良い方法だという実験結果が出ています。
三瓶:そうすると先生の授業は、講義するのを聞くというよりずっと会話をしているような状態を作っておられるのですか?
笈川先生:私が一方的に話をするというようなことは一切なくて、2時間半の授業の間学生たちはずっと考え続けてアウトプットして、ほかの学生たちが話している内容を聞いてフィードバックをする。フィードバックはすべて“ポジティブ・フィードバック”として誉め言葉みたいなものをフィードバックしていく訓練になります。それを毎回少なくとも3分間の発表×5回くらいはやっています。
三瓶:ちゃんと授業を聞いていないと自分が喋れないので、定着にも役立つという事ですね。
基本的な話し方のレクチャーも
三瓶:僕の中でも笈川先生の授業が終わった学生は、「話せるようになっている」という認識があります。やはり会話することを中心に授業をやっていらっしゃるからでしょうか?
笈川先生:話が出来ても表情がカチカチというか…そうではなくて良い表情で話をしよう、相手に伝えよう、というのは場数を踏んでないと難しいことだと思うので、そういうトレーニングもやっています。
オンライン授業は、注意しないと顔が全く見えていない生徒がいるのですが、“そういうのはダメですよ、ちゃんとカメラを見ながら話をしましょう”というような事は教えているので、相手の話を聞くときにちゃんと笑顔で相槌を打ちながら話をする、自分が話す時もカメラをしっかり見る、というのを授業でやっています。
採用担当者に知ってほしい、日本語研修の選び方
三瓶:今回のタイトル“配属先に怒られない、日本語研修の選び方”という事で、人事の方からすると研修が終わって現場に配属されたとき「全然話せないじゃないか」と言われるのが一番困ると思います。そうならない為に笈川先生はどんな研修を選べばよいとお考えですか?
笈川先生:日本語学校でよくやる文法訳読法など、翻訳して文法を説明して…とか、あの授業の形式だと話せるようになるわけがないので、本人たちに話すチャンスをたくさん作っているような研修が絶対必要だと思います。トレーニングが必要で、例えば謝る時の練習とか、その時の表情や表現を厳しくやっている研修があれば、もちろんやるべきだと思っています。
ASIA to JAPANでは日本語研修も提供しています
ASIA to JAPANは世界中の学生を集めてオンラインで実施する日本語クラスを提供しています。単純なビジネス日本語だけでなく、日本と海外の文化の違いや、ビジネスの場面を想定したケーススタディを通じて「使える日本語」を身につけると共に、言語や文化のギャップを埋め、早期離職・退職リスクを減らすことに活用いただけます。
ご興味がある企業さまは、ぜひお気軽にご相談ください!