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外国人材採用に関する実務(2)採用活動を始めてから内定を出すまで

目次

(2)採用活動を始めてから内定を出すまで

実際の採用活動の中でも、海外採用、外国人材ならではの注意すべきポイントがいくつかある。日本人の選考との違いを踏まえながら見ていこう。

Point1. Job Description(職務記述書)を作る

海外では選考時に「Job Description(職務記述書)」を用意するのが一般的だ。担当する業務内容や必要なスキルなどがまとめられた書類で、各ポジションに応じて作成され、人事評価の際にも使用される。候補者から職務記述書を要求されることは多く、確認しないと内定を承諾してもらえないこともあるため、必ず作成しておこう。場合によっては親が確認するケースもある。

Point2. “0次面談”で応募書類のファクトチェックを行う

日本では応募書類の内容が正しいという前提で選考を進めるが、外国人材の場合はその意識を捨てた方がいい。例えば「日本語能力試験N3」と記載があっても、本当に取得していることもあれば、「取得はしていないがそのくらいのレベルだと自認している」「今後取得しようと思っている」など、人によって解釈が異なることが珍しくない。前年に使用した書類を更新しておらず年齢が間違っていることも頻繁にあり、応募書類の内容に不備があるのは日常茶飯事だ。フォーマットが統一されているわけではなく、本人がアピールしたいことが書かれているため、企業が知りたい内容がないなど抜け漏れも多い。

そこで推奨したいのが、書類選考に進む前の面談だ。書類を受け取って即選考ではなく、書類のファクトチェックと不足している情報の確認、語学力の見極めを目的とした、いわば“0次面談”を人事が実施し、書類を再提出してもらうとその後の選考がスムーズに進む。

その際、面接で聞きたい内容についても伝えられると理想的だ。詳しくは次の項目で説明するが、「会社への志望動機」という発想が外国人材にはあまりない。また、外国人材が日本で働く選択肢は限られるため、「日本で働ければどの会社でもいい」という人も多く、会社情報を十分に知らないまま選考に臨んでしまうこともある。最低限自社のホームページを確認するよう促し、企業側が正しく選考を行えるようにすり合わせをしておこう。

Point3.「会社への志望動機」が希薄であることを理解する

握手をする人たち日本では「会社に入る」という意識が強いが、海外では「職に就く」という考え方をするため、外国人材は「スキルが合っていればOKだろう」という感覚で就職活動を行う傾向にある。このギャップをまずは知っておこう。日本企業は自社とのマッチングを重視するため、人物面の見極めや「この会社で何がしたいのか」「将来の目標は何か」といった質問を重点的にするが、海外ではそもそもこういった観点で選考を行うことが少ないのだ。

この“就社”と“就職”という考え方の違いから、外国人材は面接時に「英語が話せる」「CADが使える」といったスキル面のアピールに終始し、「その会社で何がしたいか」がないことが多い。そもそも世界と日本では選考で重視するポイントが大きく異なること、そしてあくまでも外国人材は“就社”ではなく“就職”を希望していることを理解したい。「志望動機がない=ダメな人材」ではなく、そういった考え方があることを単に知らないだけなのだ。どうしても「この会社で何をしたいか」を確認したいのであれば、引き出すための一手間が必要。先述した「0次面談」などで用意してもらうように促そう。

Point4. 候補者の総数が少ないことを念頭に置く

採用条件にぴったり合う人を採用したい気持ちはわかるが、日本人の新卒採用に比べてそもそもターゲットとなる人材の総数は極端に少ない。特に理系かつ日本語ができる人ともなると対象者は相当限られるため、次々に候補者が上がってくるわけでないことは前提として理解しておく必要があるだろう。

採用条件に合わない場合は、その要素が先天的なものなのか、それとも後天的なものなのかを振り分けて考えよう。例えば人柄や社風へのマッチングといった先天的な要因についてはどうすることもできないが、スキルなどの後天的に身に付けられるものは伸ばす方法を考えればいい。次の項目の説明の通り、特に日本語力については現在のレベルが低かったとしても、入社までの期間によっては伸ばすこともできる。

Point5.日本語力は“入社時点の想定日本語力”で判断する

地頭は変わらないが、語学力は努力次第でどうにでもなる。日本語力をMust条件にする企業は多いが、仮に5月に大学を卒業し、4月に入社するのであれば、その10カ月の間に日本語力を伸ばすことも可能だ。

例えば応募者の中に日本語レベル上級が1人、中級が2人、初級が4人いた場合、日本語教育の支援次第では10カ月の間に中級の2人を上級に、初級の4人を中級に引き上げられる可能性は十分にある。つまり“入社時点での想定日本語レベル”で考えれば、候補者は上級3人、中級4人となり、採用難易度は大きく下がるわけだ。選考時点の日本語力ではなく、入社時点の想定日本語力を踏まえて選考を行いたい。日本語での面接が困難なのであれば通訳をつけるという考えもあるだろう。

なお、日本語力の伸び方は国と日本語教育の環境によって大きく異なる。漢字に馴染みのある中国、韓国、台湾は日本語の習得も早い傾向にあり、日本語教育機関数上位3カ国(※1)の韓国語、インドネシア、中国は比較的教育環境も整っている。日本語教師によっても伸び方は異なるため、候補者の出身国や日本語教育の環境を踏まえた上で個別の判断が必要だ。第2章の各国の特徴も参考にしていただきたい。

Point6. 新卒の定義に縛られずに見る

学校を卒業する年に就職活動をする人を日本では「新卒」としているが、国によっては卒業してから就職先を探すことも珍しくない。また、徴兵制度がある国では「大学4年生だから22歳前後だと思っていたら随分上だった」ということもある。在学中かどうかや年齢にこだわらず、「4月に新人研修を受けることができて、新卒の給与水準で問題なければ良しとする」くらいの考え方で選考を行いたい。

Point7. 給与に関する感覚が違うことを認識する

たとえ新卒でも人によって給与や待遇が異なるのが当たり前な海外では、入社時の条件を面接の場で確認するのが一般的だ。提示されている金額は最低給与だという勘違いから「自分の場合はいくらなのか」を確認しようとする外国人材は少なくない。新卒採用で給与を聞かれることに戸惑いを感じたり、強欲な印象を受けたりすることもあるかもしれないが、海外と日本の採用事情の違いを踏まえて判断したい。

また、海外では入社時点で賞与が確定しているのが一般的で、査定によって変動することがない。「月給25万円、賞与は年2回、昨年実績は年間3.6カ月分支給」という説明に対して、「じゃあ今年は?」と疑問を抱く外国人材は多いもの。明確に示せない場合であっても、過去数年間の実績を見せるなど、支給額をイメージできるよう配慮したい。

Point8. 簡単な言葉でゆっくり話す

日本語で面接を行う場合、社内用語は避け、できるだけ簡単な言葉を使い、ゆっくり明確に話すことを意識したい。複雑な敬語も使わない方が親切だ。また、日本企業との面接を終えた外国人材からしばしば「怖かった」という声を聞く。ただでさえ慣れない日本語で面接をするとあって、候補者は緊張しているもの。尋問のような面接は避け、リラックスして臨めるような雰囲気をつくれると良い。

Point9. 面接や面談の機会を複数回儲ける

外国人材に日本に来てもらうか、もしくは採用担当者が現地に赴いて選考を行うことになるため、時間の兼ね合いで通常の選考よりも面接回数が減ることが多い。だが、面接を複数回行うのは世界的にも一般的であり、面接の数が極端に少ないことに不安を感じる人もいる。同じ日に複数回面接を行う、もしくは人事がビデオチャットでフォローの面談を定期的に行うなど、コンタクトの回数を増やせると安心だ。

Point10. ウェブ面接の場合は通信環境に注意する

面接をビデオチャットなどで行う場合、事前に通信環境を確認しておきたい。通信状況が悪いことでコミュニケーションがうまく取れないと、どれだけ良い人材であっても不合格になる可能性が高まってしまう。0次面談の時に通信状況も確認し、環境が悪ければ指摘しておこう。面接の日は静かな場所で、ヘッドセットを用いるように伝えておくとさらに安心だ。「候補者が自主的に面接に適した通信環境を用意するのが当たり前」とは思わない方がいい。

また、国によっては「雨が降ったことでWi-Fiがつながらなくなった」といったこともあるため、面接の当日は30分ほど前につなぎ、通信環境を確認しておきたい。同時に人事側でアイスブレイクをしておくと良いだろう。

(脚注)
※1 日本語教育機関調査2015年度「海外日本語教育機関調査」(国際交流基金)

 

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