24年5月28日、ASIAtoJAPANと日本経済新聞社の共催イベント『「新卒グローバル採用」は人的資本経営時代の新常識に!戦略から実務までプロが徹底解説』を行いました。労働力確保のみならず、ダイバーシティの促進やイノベーション創出など、さまざまな効果が期待できる新卒の高度外国人材採用。
その有効性や具体的なポイントなど、ビジネスとアカデミアの双方におけるグローバルリーダーシップやマネジメントの第一人者である大滝令嗣氏と、ASIAtoJAPAN代表の三瓶雅人が紹介しました。
レポート後半では、前半で紹介した外国人材の傾向を踏まえた上で、どのように採用を行っていけばいいのか、具体的な方法やポイントについてお伝えします。
■セミナー概要
2024年5月28日(火)14:00~15:00
「新卒グローバル採用」は人的資本経営時代の新常識に! 戦略から実務までプロが徹底解説
■登壇者プロフィール
大滝 令嗣氏
株式会社シフト・ビジョン会長、早稲田大学名誉教授、学校法人鉄蕉館顧問、亀田医療大学特任教授
グローバルリーダーシップや人財マネジメントについて、ビジネスとアカデミアの双方における第一人者であり、草分け的存在として著名。東北大学工学部卒。カリフォルニア大学サンディエゴ校電子工学科博士課程修了。工学博士。東芝を経て、マーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティングに入社し、代表取締役社長・会長、アジア代表を務める。その後、ヘイ・コンサルティング・グループ代表取締役、アジア代表を経てエーオンヒューイットジャパンの社長、会長を歴任。シンガポール経済開発庁(EDB)ボードメンバーのほか、セプテーニや静岡銀行など多くの企業のアドバイザーや顧問を歴任。早稲田大学ビジネススクールでは「日本企業のグローバル経営」「グローバルビジネスリーダーの育成」を主な研究テーマとしたほか、早稲田総合研究機構「トランスナショナルHRM研究所」 所長を務めた
三瓶 雅人
株式会社ASIA to JAPAN創業者・代表取締役
2017年の創業から2023年までに300名以上の外国人学生の就職支援と1,000名以上の学生への日本語教育を実現するなど、グローバル高度人材採用における第一人者。新卒にてキャリアデザインセンターに入社し、キャリア採用広告営業、営業部長、マーケティング部長を経て人材紹介部門の事業責任者となる。日経HRに移り、人材紹介事業の立ち上げ、転職サイトおよびシステム責任者を経て、2012年よりアジア現地学生採用のための新規事業を立ち上げ、その責任者となる。アジア9カ国、トップ50大学と連携した同事業は「ガイアの夜明け」(テレビ東京系)でも取り上げられた。JETRO高度外国人材スペシャリスト
■新卒グローバル採用を始める2つのポイント
司会:新卒グローバル採用を始めるポイントを教えてください。
三瓶:ポイントは大きく2つあります。まず一つ目は、とにかく始めることです。前半で申し上げた通り、日本人大学生が減る中、海外から良い人材を採用するしかない状態になりつつあります。1人目を採用しなければ、永遠に先へは進みません。
「まだ体制が整っていないから時期尚早」と考える人は多いと思いますが、実は体制が整うことはありません。国によっても、個人によっても企業に求めるものは異なりますので、体制は整わない前提で「どう進めるか」を考えた方が建設的です。
その際、重要なのは無理をしないこと。自社の現状をきちんと伝え、「実はまだ制度や環境が整っていないのですが、この点は大丈夫ですか?」と不安な面も面接で確認してください。「それでも大丈夫」と言ってくれる人材を1人目として採用することをお勧めします。
前半で日本語要件を撤廃すれば優秀な人材が採用できるとお話ししましたが、日本語堪能で優秀な外国人材もいますので、言語の違いに不安があるならば、最初の1人は日本語で意思疎通ができる人を採用すればいいのです。
他に懸念事項になりやすい宗教や食事などの制限がない人もいますので、最初は「今の状態で受け入れられる外国人材」という視点で選考をしましょう。お互い不安が残る場合に、無理に採用する必要はありません。
なお、当社が日本企業で働く外国人材に行ったアンケート調査では、外国人材自身が日本企業で働くことに対し、大きな不満やストレスを抱えていない人が思いの外多いことがわかりました。もちろん配慮は必要ですが、最初にきちんと自社の状況と相手の要望をすり合わせられれば、問題が生じる可能性は低いのです。
大滝:1人ではなく、複数名を同時に採用した方が定着しやすそうですね。
三瓶:体力に余裕があれば、複数名採用はとても良いと思います。できれば同じ国籍で複数名を同時に受け入れられると、同期同士でコミュニケーションができ、長続きしやすいですね。
大滝:新卒グローバル採用を始める、もう一つのポイントは何ですか?
三瓶:トップダウンです。長年外国人材採用のお手伝いをしてきましたが、やはりトップが意思を持って行わなければ、外国人材採用は進みづらいです。採用と受け入れが軌道に乗るまでは、トップが細部までコミットしながら、担当者と密にやり取りをすることが大切です。
大滝:トップが勝手に決めて進めてしまうと、現場とのコミュニケーションエラーも起こりやすいですよね。
三瓶:おっしゃる通りです。まずはトップで意思を固め、人事だけでなく、採用に携わるメンバー全員に趣旨を説明し、ワンチームを作る意識を持つのが非常に大事です。
それがないまま進めた結果、面接官が変わったことで今まで通過していた人が落ちてしまうケースはよくあります。多くの場合、新しい面接官が外国人材採用の趣旨を理解しておらず、「英語ができないから自分の部下になったら不安」といった理由で本来採用できる人を落としてしまう。
つまり、面接を行う現場の担当者によって、選考基準が大幅に変わってしまうことが起きやすいのです。「なぜ外国人材を採用するのか」の理解をそろえ、初めて外国人材の面接を担当する人に選考のポイントを説明し、日本人採用との違いを認識した上で選考を行うのが成功のポイントですね。
企業によってはジョブローテーションにより数年で人事担当者が変わるケースもありますが、外国人材採用がスムーズにできる下地ができ、採用のPDCAを回せるまでは、ノウハウを溜めるつもりで同じ人に任せるのも大事だと思います。
■メンバーシップ型雇用をポジティブに捉える外国人学生も
三瓶:よくあるミスマッチの例として、面接官はメンバーシップ型を、外国人学生はジョブ型を前提として面接を進めてしまうパターンがあります。面接官は「当社で何がしたいですか?」「なぜ当社を志望しますか?」といった質問をするけれど、学生側は「ジョブデスクリプションに書いてある内容の仕事がしたい」「募集要項が合っているから」といった答えになってしまう。
企業側からすると、「当社に興味がないのだろうか」と不満に感じるかもしれません。熱心に企業研究をする日本人学生と比較し、外国人学生の自社で働く熱意を低く感じてしまうこともあるでしょう。
学生もまた、「なぜスキルチェックをしないんだろう」と疑問に感じています。やりたいことばかり聞かれるけれど、自分のスキルが募集ポジションと合っているかどうかは気にならないのだろうか、と。
これでは会話は全く噛み合いません。そもそもメンバーシップ型雇用という日本特有の雇用制度は、外国人学生にとって非常に理解しにくいもの。だからこそ、両者の認識のギャップを埋める必要があります。
外国人学生に対して面接前に面談を行い、日本の雇用制度や面接で答えてほしい内容について伝える、面接官に説明会を行い、日本人採用との違いを説明するなど、人事担当者が双方のギャップを埋めるためにうまく立ち回ることが重要です。あるいはエージェントを利用すると、その役割を担ってもらえます。
大滝:ジョブ型雇用を導入する日本企業は増えていますが、残念ながら中堅層や管理職を対象としていることも多く、若手はメンバーシップ型というケースも多いですよね。そういう中で、新卒の外国人材にだけジョブ型雇用を適用するかというと、それもまた難しいだろうなと思います。
三瓶:「絶対にジョブ型雇用でなければ嫌だ」という外国人材の場合、まだ体制が整っていないので今回は縁がなかった、という判断でいいと思います。
というのも、全ての外国人材がジョブ型雇用を望んでいるわけではないのです。転職しなくても別の仕事ができることをポジティブに捉える人もいますし、日本人学生と同じように「自分に何が合っているか分からないから、いろいろチャレンジしてみたい」と考える学生もたくさんいます。事前にメンバーシップ型雇用や総合職のメリットを説明することでポジティブに受け止めてくれる外国人学生もいますので、説明をした上でお互いが判断できるといいですね。
大滝:前半で紹介した調査結果でも、44%が「1社で自分のキャリアを全うできるならそれでもいい」と考えているわけで、その結果とも通じますね。
■外国人学生が入社する前までにやるべきこと
三瓶:日本語レベルを確認する指標として、多くの企業がJLPTを使っていますが、JLPTで書類審査をすると母集団が形成しづらく、正しい評価もできません。
その理由は大きく2つあります。まず、受験のタイミングが年2回しかない点。受付も非常に早いため、受験を申し込み、結果が出るまでに最長10カ月かかります。受験をしてから書類選考をするまでに日本語が上達するケースも多く、現状の日本語力を反映しているとは限りません。
もう一つは、「聞く、話す、読む、書く」の中で、JLPTには「書く」と「話す」がない点です。日本語で面接ができる会話力があるかをJLPTのレベルで判断はできませんし、同じ漢字圏の中国や韓国の出身者の場合、読めるからJLPTを取得しやすいけれど、会話が全くできないことも少なくありません。
当社が日本語力を計る指標として推奨しているのは、いつでも受験ができ、聞く、話す、読む、書くの全てをチェックできるCEFRです。
日本で大きな問題なく働けるのは、B1、B2レベル。なお、インド人学生がゼロから日本語を300時間学ぶと、大体B1に達します。日本語が全く話せない外国人材に、入社までにある程度の日本語力を身に付けてもらう場合は、300時間の入社前日本語研修を目安にするといいと思います。
司会:採用後についてはいかがでしょう?
三瓶:まずビザについては、当然ですが法令をきちんと確認してください。在留資格は入り組んでいますので、注意が必要です。特に以下に該当する場合は専門家に確認をしてください。
・大卒者でない
・大学で勉強した内容と仕事内容が一致していない
・母国の国費で留学している
当社でも外国人材採用をしていますが、ビザの対応は弁護士の先生にお願いしています。費用は1人20万円ほど。不法就労のリスクを回避でき、自社の社員が調べながら進める時間を考えれば、お願いした方が良いと判断しています。初めて外国人材を採用する企業は特に、専門家へ依頼することを推奨します。
細かいところでは、事前に外国人材の印鑑を用意しておくと入国後の手続きがスムーズですね。銀行口座開設、携帯電話の契約、賃貸物件の契約など、あらゆるところに印鑑が必要です。あとは、空港へ迎えに行く際にSIMカードを渡すと喜ばれます。分からないことを本人がスマホで解決できるようになるので、お互いに楽ですね。
■外国人材採用は「やるか、やらないか」が全て
三瓶:社内に対しては、外国人材と一緒に働くメンバーに対する研修を行い、出身国の概要や本人の宗教、その他配慮事項などを共有しましょう。そうした事前理解の有無で現場の対応は大きく変わります。社内の体制を整え、外国人材の早期離職を防ぎ、オンボーディングを円滑にする上で有効です。
外国人材に対しては、定期面談をしましょう。入社後3カ月、半年、1年と定期的に接点を持っていれば、その都度困り事や悩み事を拾えますし、残念ながら辞めてしまう場合にも退職面談で本音を聞き出せる可能性が上がります。不満を把握しなければ改善はできませんので、本音を聞ける状態をつくる意識は重要です。
なお、定期面談の相手は「直属の上司や先輩以外」がポイントです。仕事上の利害関係がある人に本音はなかなか言えませんので、人事担当者など業務上の距離がある人が行う工夫があるといいですね。来日後のサポートも同じ人が担えるといいと思います。
機密性が高い採用に対し、オンボーディングは他社の人事と情報交換がしやすいです。外国人材採用に取り組む企業とネットワーキングをして、ノウハウを共有し合うのもポイントかなと思います。
司会:最後にお二人から一言お願いします。
大滝:できない理由に目を向けがちですが、まず一歩を踏み出すのはとても重要だと思います。今後、外国人材採用は日本全国の企業、自治体が避けて通れないことですから。ちなみに、私が長年駐在していたシンガポールは建国50周年ですが、なんと20年で英語を公用化しました。つまり、やればできるということ。やるか、やらないか。それが全てだと私は思います。
三瓶:当社のメンバーの約3割が外国人材で、さまざまな国籍、宗教を持つ社員がいます。それぞれのニーズに応じてその都度対応はしていますが、これまで大きな問題は生じていません。やはりポイントは、日本語を話せる人から採用することだと思います。当社の場合も最初の外国人社員は日本語が話せる人でしたが、そこから始めれば少しずつ外国人材を受け入れることへの耐性ができていきます。
出身国にもよりますが、日本語を流暢に話せるようになるまで、少なくとも1年半は必要です。その間、外国人材は自社で働きながら日本文化を体験していますので、日本への理解も進み、配慮すべきこともなくなっていきます。
そういう意味でも、「まずはやってみる」が最も大切なポイントですね。
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